今週の一本
(2006 / アメリカ / クリストフ・ガンズ)
引き裂かれる女たち

膳場 岳人

サイレントヒル1 夢の中でいつも「サイレントヒル」という町に導かれる9歳の少女、シャロン。彼女の母親・ローズはそれがウェストヴァージニア州に実在するゴーストタウンであることを知り、夫の制止を振り切ってサイレントヒルへ。町に足を踏み入れた母娘は、そこで悪夢のような出来事に遭遇する――。

 筆者はまったくと言っていいほどゲームをやらないので、本作の元となったゲームがどんなものか知らない。だが、異なるレイヤーを共存させた世界観には感服した。ヒロインの夫は妻子を追ってサイレントヒルに来るが、彼の目に映る町はまさに寂れたゴーストタウン。しかし、ヒロインたちが彷徨うサイレントヒルは、灰が降りしきり、サイレンが鳴り響くと死者やクリーチャーが襲ってくる、腐臭漂う死の町なのだ。決して交じり合うことのない世界が、同じ場所に共存している。その設定が、結末においてなんとも知れない物悲しさを醸し出すことになる。

サイレントヒル2 レイヤーのちがいは世界を見るまなざしの違いでもある。ヒロインはサイレントヒルの秘密を探り当てる。町を荒廃させた原因は、ズバリ「魔女狩り」だ。狂信者が異端を排除し、「魔女」を処刑したことから、すべての悲劇が始まった。作り手にブッシュ批判の意図があったかどうかは定かでないが、クライマックスで「盲信」を真正面から批判するヒロインの台詞は熾烈で、何がこの世に地獄を招くかを劇的な形で教えてくれる。

 アンゲロプロス映画のように灰と霧に覆われた世界で、カール・ドライヤーの『裁きの日』のような物語を内包しつ、やっていることは人体破壊描写のつるべ打ち。とまあ、なんだか凄いことになっている映画なのだ。

 むき出しになった裸の女の胸を、怪物が荒っぽく掴んで一気にぶち破り、内臓があたりにばら撒かれる。炎の中に吊るされた強気な女が、最後の最後に母親を求めながら燃えてゆく。頬が、額が、ゆっくりと確実に焼けていき、やがて生命活動が停止する。何本もの鉄条が敬虔な女性信仰者の肉体を貫き、ズルズルズルと往還運動を繰り返し、しまいに身体を真っ二つにしてしまう――。そういった描写がかなりマニアックに撮られている。

サイレントヒル3 男たちもたくさん殺されるが、この映画で殺戮場面のメインを張るのは女たちだ。しかも、その大半がもう若くはない。若くはない女性を無惨に殺害する映画がどういった層に訴求するのかわからないが、そこはかとなく歪んだ興奮を誘った。「ざまあみろ」という気持ちにもなった。「もっと酷い殺し方をしてもいいんだぜ?」なんてことも思った。自分自身のダークサイドを始終突きつけられるという意味で、なかなかに重苦しい映画である。

 そんな、おばさんばかりの映画だからと言うわけではないが、失踪する少女を演じたジョデル・フェルランの可愛らしさに釘付けになった。冒頭、草原で母親と戯れながら子猫の声を真似て甘える場面! あまりにも可愛くて息が止まった。

(2006.7.23)

(c) Silent Hill DCP Inc. / Davis Production SH S.A.R

2006/07/24/21:50 | トラックバック (0)
膳場岳人 ,今週の一本
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