ある夜、港に運び込まれてきたヘアエクステンション(付け毛)
用の人毛の中から臓器売買の犠牲者となった少女の死体が発見される。警察の死体安置室に勤める山崎(大杉漣)は、
死体の髪の毛に異常な興味を寄せていた。
一方、新米美容師の優子(栗山千明)は、幼い姪っ子のマミ(佐藤未来)を母親である姉(つぐみ)の虐待から守るため、
マミの姉代わりとして一緒に暮らすことになる。優子とマミは、ともに美しい黒髪の持ち主だった。
本作の栗山千明は、ほんとうにかわいい。冒頭、机に突っ伏して眠っていたところを友人(佐藤めぐみ)
に起こされ、自転車に乗って職場に向かうまでのシークエンスは、ほとんど大林宣彦か金子修介のアイドル映画を観ているよう。
美しい黒髪とどこか神秘的な佇まいは、ダリオ・アルジェント監督の傑作ホラー『フェノミナ』
(85)に主演していた頃のジェニファー・コネリーを彷彿とさせる。
その『フェノミナ』では、自分が産み落とした畸形の子供を溺愛するあまり、美少女たちを次々血祭りに上げていく狂気の母親が登場したが、
本作で暴れ回るサイコ・キラー山崎は、美しい髪を愛するがゆえに、世にはびこるゴミのように汚い髪の女たち(俺が言ってんじゃないよ)
を死んだ少女の怨念を宿したエクステを使って抹殺していく。
こういう素材は、黒沢清のようなテクニシャンよりも、園子温のようなバッド・テイスターにこそふさわしい。
大杉漣は、役所広司と同じく職人的に達者な俳優だけに、最近はどれを観てもカタどおりの演技で食い足りなさを感じていたのだが、
今回は完全にタガがはずれて悪ノリし放題。それがまた過剰な演出にマッチして、映画史上に残る魅力的なサイコ・キラーを生み出している。
クライマックスの優子と山崎の対決シーンは、Mっ気のある栗山千明ファンなら大喜びではありますまいか。
『自殺サークル』や『奇妙なサーカス』に比べれば、グロ描写は抑え目であるとはいえ、
少女が強制的に剃髪されるシーン(演じる佐久間麻由は、ほんとうにその場で髪を切られているそうである。
ブリトニーどころじゃねえな)やエミが母親から虐待を受けるシーンは、園子温らしいねちっこさが全開で、不快指数はかなり高い。
でも、光石研演じる刑事のなんかミョーにズレた言動とか、
どっから見ても怪しい山崎が持ってきたエクステをうれしそうに装着する美容室の店員とか、ナンセンス・コメディ的な要素も随所に見受けられ、
この手のバッド・テイストに不慣れな観客も充分に楽しめるエンタテインメントに仕上がっているのはさすが。
とりあえず筆者は鑑賞後、TVショッピングで人毛100%のカツラを宣伝しているのを観て、ちょっぴりほくそ笑んでしまった。
日常的にエクステを利用している人ならけっこう背筋の寒くなる映画かもしれない。
(2007.2.26)
エクステ 2007年 日本
監督:園子温
脚本:園子温,安達正軌,真田真
撮影:柳田裕男
美術:福沢勝広
出演:
栗山千明,大杉漣,佐藤めぐみ,つぐみ,町本絵里,佐藤未来,山本未來,夏生ゆうな,光石研,山本浩司,田中哲司,蛭子能収,佐久間麻由
公式サイト
c2007『エクステ』フィルムパートナーズ
主なキャスト / スタッフ
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