映画「ファミリー・ツリー」
オフィシャルインタビュー
アレクサンダー・ペイン (監督)
ジョージ・クルーニー (マット・キング役)
シャイリーン・ウッドリー (アレクサンドラ・キング役)
2012年5月18日(金)より、TOHOシネマズ 日劇他 全国ロードショー
全編を彩るハワイアン音楽、悠々たるハワイの絶景を背景に、自身のルーツ、人生の選択、家族の再生に向き合う男を、ジョージ・クルーニーが絶妙に演じ、圧倒的な感動で満たす――。
アレクサンダー・ペイン監督 オフィシャルインタビュー
1961年、アメリカ、ネブラスカ州生まれ。スタンフォード大学で学んだ後、UCLAの映画科で修士号を得る。卒業作品『The Passion of Martin』(91)はサンダンス映画祭で上映される。監督デビュー作『Citizen Ruth』 (96)でミュンヘン映画祭最優秀賞を受賞。リース・ウィザースプーン主演のコメディ『ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ!』(99未)で、全米脚本家組合、ニューヨーク映画批評家協会から最優秀脚本賞を受賞、アカデミー賞脚色賞にノミネートされる。続くジャック・ニコルソン主演の『アバウト・シュミット』(02)は、カンヌ国際映画祭のコンペでプレミア上映され、ニューヨーク映画祭のオープニングを飾り、ゴールデン・グローブ賞監督賞にノミネートされる。全米で大ヒットを記録した、ポール・ジアマッティ主演の『サイドウェイ』(04)は批評家からも絶賛され、アカデミー賞作品賞など主要5部門にノミネートされ、脚色賞に輝いた他、ゴールデン・グローブ賞作品賞と脚本賞を始めとする100部門近くの賞を獲得、ヒューマンドラマを描く名手として全世界にその名を知られた。その後、18組の監督が撮った短編を一本にまとめた『パリ、ジュテーム』(06)の一話、TVシリーズ「Hung」(09)のパイロット版を手がけた。
――『サイドウェイズ』が封切られたのは2004年でした。その後は何をしていましたか?
ペイン監督 その頃は、“言うことがない限りは口をききたくない”というような時期もあったけど、ほとんどの時間を脚本の執筆に費やしていたよ。まだ映画化はしていないけど、ある作品の脚本を書くのに2年以上かかってね。脚本の映画化には多額の予算がかかるし、特殊効果についても学ばなければならない。共同脚本家のジム・テイラーと一緒に、2009年の春に書きあげたんだけど、ちょうど経済的に破綻した時で、映画を作るにはふさわしい時期ではなかった。脚本に2年半かかったので、僕としても嫌気がさしていたしね。作品から離れる休みが必要だった。『ファミリー・ツリー』を作ろうと思ったのはその時で、映画を撮りたくて仕方がなくなったんだ。
――監督は俳優に人気がありますが、それはどうしてですか?
ペイン監督 それは判らないな。多分、僕が映画作りをすごく楽しんでやっているから、役者も楽しいんだろうね。プロデューサーやスタジオの連中が来て僕を脅かそうとしても、僕は、“こわいよ、こわいな”と言うだけだからね(笑)。そんなの真面目に受け取る人はいないよね? 映画を撮るのは本当に楽しい。一生懸命に仕事をしているが、同時に思いきり遊んでいる。僕は映画が大好きで、映画を作ることができてとても運がいいと思っている。役者にもこの気持ちが伝わるんじゃないかな。
――ジョージ・クルーニーとは、観客の知性が高いという想定に関してよく話をしていますね。
ペイン監督 観客の頭のよさは想定しているだけじゃなく、本当に僕よりも頭がいいと思っているよ。僕はバカだと思われるんじゃないかとすごく不安だから、もっと知的な映画にしようといつも頭をひねっているんだ。
――ジョージと仲が良いのはそれが理由の一つですか?
ペイン監督 そうかもしれない。僕は友達や自分が見たいと思う映画――自分でクールな映画、知性があると思うもの――を作っている。実際に観客に参加してもらえそうな映画的効果を生み出してね。ビリー・ワイルダーがよく言っていたように、「観客には『2足す2は』とだけ言って、答えの『4』を言ってはダメ」なんだ。多くのアメリカ映画というか、すべての映画だが、特にアメリカ映画は『答えは4だ!4だ!』と言いすぎているね。それは映画じゃないよ。
――監督はご自分で書いた映画を作れるというとても珍しい立場にいますが、その秘訣はなんでしょう?
ペイン監督 低予算。スケジュールを守る。稼ぐ映画。これらのおかげで、僕は映画を続けて作っていられる。めったにないことだよ。僕のような人は何人かいるが、でも、今のアメリカ映画では少ないと思う。大人向けの現代のストーリーを作る人としてはほとんどいない。僕たちは作品をある程度、芸術面で管理できる。コツは予算を抑えることだ。低予算だと、スタジオが多国籍企業のボスから受ける“映画をヒットさせなければならない”というプレッシャーは普通より少ないはずで、予算が肝心なんだと思う。それと、映画監督としてとても厳しく規律を守っているんだ。
僕は仕事がしやすい相手だと思う。というのは、契約による最終編集権を持っているから、彼らのアイディアに対してよりオープンになれるんだ。「どうぞ、どんなお考えですか?」と言える。彼らから20のアイディアを出されて、そのうち1つでも映画の役に立てば運がいいと思うし、彼らは自分のアイディアを聞いてもらえたと思うよね。
――もしもジョージが参加しなかったら、作品に大きな違いをもたらしたでしょうか?
ペイン監督 状況によるね。僕の前作にはビッグ・スターは一人もいなかった。でも作品をうまくコントロールしたから、作品はスタジオに大金をもたらした。今回と同じスタジオだ。でも、ビッグ・スターの出演は邪魔にはならない。僕の作品の予算レベルだと、キャスティングをする時に、「この役にはスターが必要だ」とは考えないんだ。でも、候補者が同点だった場合には、スターのほうが勝つ。スタジオはポスターにスターの顔を載せるとか商業的なことには力を注ぐからね。それはそれでかまわない。それが映画ビジネスだから。
――『ファミリー・ツリー』は一種の成長を描いたストーリーです。成長する男は50歳ですが…。
ペイン監督 そうだね。ただ一つのテーマで映画の内容を限定したいとは思わないけれどね。でも、多分、それもこの映画を理解する一つの道だろう。主人公が成長し、ちょっと賢くなれと応援したくなるけど、同時に、僕は、自分も成長してちょっと賢くなるように自分自身のことも応援しているんだ。いつものことだけどね。こんなに短い人生でいったい何がしたいか?できるだけ賢くなれ、本物を見極めろって。といっても、夢中になれるものがたくさんあると難しいけれどね。
――家族の再生というテーマは、『ファミリー・ツリー』の魅力でしたか?
ペイン監督 それほどではないね。家族のことはそれほど気にしなかった。ストーリーの家族という要素には手を入れたけどね。だから、2人の娘を加えたんだ。長女との関係が気に入ったよ。特にシャイリーンを起用したからだ。彼女はいい子だし、かわいくてポジティブだから。でも、僕にとってもっと意味があったのは、女優として素晴らしいところだ。だから、長女との関係は好きだけど、でも、人が下す決断のほうにもっと興味があったんだ。
――劇中でジョージがとても印象的な演技を見せる場面がありますが、どうやってあの演技を引きだしたんですか?
ペイン監督 彼の一面として見たいと思った。どんな感情を見せるべきか役者に指示を出したいとは思わないからね。シナリオを見せて、どんな反応が見られるかそれを見たいだけだ。無理に押しつけたくはない。
――以前から、サントラは全部ハワイアンミュージックで構成したいと思っていましたか?
ペイン監督 サントラの出来にはとても満足しているんだ。ハワイアンの中には、ハワイ以外で聞かないような曲がたくさんある。それにはもっともな理由があるんだ。他のジャンルでも同じことが言えるけど、その多くがガラクタだからさ。でも優れたものも多い。ハワイアンミュージックは面白いし、これを使えばハワイの人に喜んでもらえると思った。彼らはハワイに住んでいるんだから、この映画の本当の観客だからね。編集をしながら、元々あったハワイアンミュージックを使うことにはとても品のある気がしたんだ。サントラには僕と編集者、音楽エディター、音楽スーパーバイザーの4人で、6~8ヶ月かけてうまく組み合わせたよ。
――どうしてハワイ人のルーツを取り入れることが大切だったんですか? 舞台はどこか別の場所でも良かったでしょうが。
ペイン監督 でも、舞台はハワイだった。ハワイの文化はかなり独特だ。僕はいつも確認をとっていたよ、「これでいいかな? 正しいだろうか?」とね。ハワイの人たちに、これだと思えるものにしたかった。彼らは世界一寛大な人たちであり、同時に世界で一番批判的な人たちでもあるからね。きちんとしたものにしたかったんだ。ハワイのコミュニティは素晴らしくて、オープンだし近づきやすかった。ジョージ・クルーニーにハワイ人を演じさせたことが彼らには大きな意味を持ったんだ。
――クルーニーがどんな映画スターでどういう人物かはよく知られていますが、彼と仕事を一緒にして、何か驚いたことがありますか?
ペイン監督 彼はとても気持ちがいい人だし、それに面白い。ユダヤ系のボルシチ・ベルト<ニューヨークのキャッツキル山地にあるユダヤ人避暑地の劇場ナイトクラブ>で活躍するコメディアンみたいな体と、ハンサムなアメリカ人の主演俳優の顔をしているんだ。彼はとても多くのことに熟達しているが、人を笑わせる才能でも信じられないほど優れている。いつもいたずらをするとか、冗談を飛ばすことは有名だ……本当にいつもなんだよ!