内藤 瑛亮 (監督)
映画「先生を流産させる会」について
2012年5月26日(土)より、渋谷ユーロスペースにてレイトショー!
実際にあった事件を元に、中学生のグループによる妊娠中の教師への悪質な嫌がらせの顛末を描いて、自主映画ながら話題をさらっている『先生を流産させる会』。神経を逆撫でするタイトルとは裏腹の丁寧な作りが先入観を鮮やかに壊し、物語に揺さぶられながら62分をスリリングに駆け抜ける幸福な体験を観る者にさせてくれる。本作で長編デビューを果たした新鋭・内藤瑛亮監督に、題材の選択から、説明を排し観客に想像の余地を残した脚本作り、リアリティ溢れる演技を見せた子供たちへの演出や彼女たちの意外な素顔までを語っていただいた。(取材:深谷直子)
――撮影にもこだわりが感じられて、印象的なショットがたくさんありますが、中でも「先生を流産させる会」発足の場面というのはとても少女的でロマンティックなシーンですよね。何か参考にしたと言うか、こんなふうに撮りたいと思ったような作品はあるんですか。
内藤 『小さな悪の華』(71)という映画があって、それも実際にあった少女の殺人事件を映画化しているんですけど。空想好きなふたりの女の子がいて、空想の世界に浸るのを心配した親たちが引き離そうとするんですが、ふたりは親の殺人を計画して、実際に片方の親を殺してしまったという事件。2回映画化されていて、これと、もう一つはピーター・ジャクソン監督の『乙女の祈り』(94)です。『乙女の祈り』は結構実際の事件に忠実に描いているんですけど、僕は『小さな悪の華』のほうが好きで。監督が寄宿学校に通っていたらしくて、そのときの経験を反映させて、フィクション寄りに話を変えているんです。脚色に監督の切迫感があって、伝わるものが強いんですよね。その中で誓いの儀式みたいのをやるんですよね、「この世で考え得る限りの悪をしましょう」って。それは結構ベースになっています。
――内藤監督はホラーが好きとのことですが、そういうヨーロッパのアート系の作品などもよく観られるんですか?
内藤 基本はアメリカ映画が好きなんですけど、雑多に観られる世代ということなんでしょうかね。何でも観ますよ。
――『先生を流産させる会』はヨーロッパ的かなあと思いました。
内藤 ああ、でもノリ的には、音楽の使い方だとかはアメリカンな感じだと思っているんですけどね。
――音楽かっこいいですね。この作品はカナザワ映画祭で爆音上映されていますよね。それが一般のお客さんへの初披露の場にもなりましたが、どういう経緯で選ばれたんですか?
内藤 「映画秘宝」の田野辺(尚人)さんが僕の『先生を流産させる会』と大畑(創)監督の『へんげ』(11)を気に入って、カナザワ映画祭に売り込んでくれたんですよね。「自主映画の枠をやってはどうか? すごい自主映画があるんだ」と。田野辺さんはこの映画をとても愛してくださって、「映画秘宝」でもいち早く紹介してくださいました。映画祭もすごく面白かったですよ、満席になって。
――私も行きたかったです。映画はそこでまず絶賛され、噂が噂を呼んで公開が待ち望まれることになりましたが、少し時間がかかってしまいましたね。
内藤 このタイトルですからね。「うちでやりましょう」と言ってくださるところがあって、決まりかけたこともあったんですけど、上のほうからストップがかかって「このタイトルでは出せないからタイトルを変えてほしい」って。そこは変えたくなかったので話はそこで立ち消えとなり、そういう感じでなかなか配給に結び付かなかったですね。
――タイトルありきの作品だということですので、変えられませんよね。タイトルはもうロゴまでこだわり抜かれている感じがします。「内藤組」の名前で作っていますけど、そのロゴもインパクトがありますね。
内藤 それは自主制作なので何と付けてもよかったんですけど(笑)。中学生の頃に『仁義なき戦い』(73)を観てて、「『深作組』ってカッコイイな」と単純に思って付けたのもありますね。
――尊敬する監督はどなたですか?
内藤 アレクサンドル・アジャ。『ピラニア3D』(10)とか『ヒルズ・ハブ・アイズ』(06)を撮ったホラーの監督です。
――やはりエンターテインメント性が高い感じで。
内藤 そうですね、基本エンターテインメントが好きなので。最近観た映画でいちばん面白かったのは『バトルシップ』(12)ですね。
――『先生を流産させる会』も、ドラマを描くことを意識して作られたということですが、やっぱり面白く見せるために工夫しているな、ということが随所に感じられます。60分強という尺も潔くていいなあと。でも膨らまそうと思ったらいろいろ膨らませる要素はあったと思うんですが、こういう尺にしたのは予算などの関係でしょうか。それともあえてですか?
内藤 編集で結構切ったので思ったより短くなったっていうのはあるんですけど、シンプルに描いていこうというテーマでした。贅肉を脚本段階からどんどん切っていった感じですね。撮影期間と予算規模的にこれ以上は描けないと言うか、これ以上長いものはつらかったというのも正直ありますが。
――壮絶なクライマックスの後のラスト・シーンがとても余韻を残します。とても美しいようでいて、そこが逆に不穏で。「これはどういうことなんだろう?」とザワザワさせるような終わり方なんですが。
内藤 ラストはすごく悩んだところです。第1稿も今のような感じでしたが、第2稿ではまったく別のヴァージョンを書いていました。それは悪い意味でスカッとするカタルシスがある終わり方で、企画の根本からもズレるものだと気付いて戻しました。多くの映画が悪に対して立ち向かっていくことの難しさを描いていますが、そこで成敗するしかないっていう選択が多いから、そうじゃなくてできる限り大人として教育者として問いかけるというところまでは見せたい、そこまで見せられたらいいんじゃないかと。そして、ラスト・カットはある人物の表情で終わるんですけど、ちょっとそれまでとは違う表情を撮ったつもりなんですね。違う表情が見えた、何かしら伝えられたのかもしれない、そんなニュアンスを伝えたかった。
――既存の物語に慣れてしまって想像力が欠落した大人に考えさせるための「教育映画」でもあるんですね。
内藤 こういう子供たちに大人はどう対処したらいいんだろうかと、観てくださった人が考えるきっかけになればと思います。
――最後に公開に向けての意気込みをお願いします。
内藤 誰からも異論・反論が起きないようにした結果、何を訴えたいのかさっぱり分からない映画が多くあるように感じます。『先生を流産させる会』は10人が観たら10人が肯定するような映画ではありません。異論・反論もあるでしょう。でも、そのつもりで作りました。この作品が多くの議論を交わす種となってくれることを祈っています。
( 2012年5月1日 本郷・アムモ98で 取材:深谷直子 )
- 監督:ジョエル・セリア
- 出演:カトリーヌ・ヴァジュネール, ジャンヌ・グーピル, ルナール・デラン
- 発売日:2009/08/28
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