
サニー 永遠の仲間たち
「死ぬ前に一度、昔の友達に会いたい」。ガンになった旧友の願いをかなえるべく、主人公が女子高時代の仲間たちを探すべく奔走する……あまりにも直球、言い換えればベタ。会議にかけたら巨大な「却下」のハンコが捺されて突っ返されてきそうだ。
カン・ヒョンチョル『サニー 永遠の仲間たち』のそんな筋書きに不安な予感を抱いていたあなたは、冒頭、主人公ナミ(ユ・ホジョン)の台所仕事をとらえた映像の小気味よいリズムに、まず身を乗り出すはず。続く病院の大部屋のシーンでは、患者とその家族たちが、ほかならぬそのベタなTVドラマに全身でのめりこんでいる様子が示される。ここいらあたりですでにあなたは、間口を広くかまえ、敷居を低く下げたこの映画の中に半歩、あるいは一歩、踏み込んでいる。自分では気付かぬうちに。
物語は、現代と、ナミの女子高校時代である1986年を何度も行き来する。その転換のスムーズさと、さりげない語り口にはとにかく舌を巻いてしまう。まずは、現代のナミが母校を訪ねる場面。現役の生徒たちに混じって坂をのぼっていくうちに、周囲もろとも1986年に戻っている。そして、ひとしきり「サニー」の仲間たちの紹介がなされ、あなたの体が80年代になじんだころ、舞台はまた不意に現代へと戻る。職員室のドアをくぐる一瞬、近くにいた生徒の持っているノートパソコンから聞こえるWindowsのシャットダウン音が合図だ。
現代と過去とを対比して重ね合わせる手際のよさは、高校生のナミと、現代のナミの娘とが同じようなあわただしい朝を過ごす描写でも明らか。このぶんだと来るぞ来るぞ、と期待していると、はたして中盤、女子高生時代のナミと現代のナミが、時空を越えて同じベンチに座ることになる。
もちろんこれは、単なる偶然だとかご都合主義ではなくて、ある人物を介してのこと。思うに、『サニー 永遠の仲間たち』の幸福感は、過去と現在がたしかにつながっているのだという安心を与えてくれることにありそうだ。現在は間違いなく過去からの連続の延長線上にあるという事実だけが、不確かなはずの未来を、たとえかりそめかもしれなくても、保証してくれる。その連続体があってこそ、境遇や姿は変わっても、かつての仲間と再会すればすぐに昔に戻ることができる。
そしてその安心は、ただお題目(たとえば「伝統」だとか)を唱えればもたらされるものではなくて、ひとつひとつの細部を確実に、丁寧に積み重ねていくことによってしか実現されない。その意味では、現在と過去の色とりどりの描写を通して「サニー」のメンバーひとりひとりが立体的に立ち上がってくる『サニー 永遠の仲間たち』は、たとえばジョン・フォードの『わが谷は緑なりき』とよく似ている。
『サニー 永遠の仲間たち』の80年代は、リアリズムで再現された本物というよりは、現代の視線にしっくりくるようにポップに色調整され、リミックスされたエイティーズ。たとえば時代のうねりの象徴としてのデモ隊と警察との衝突は、少女グループ同士のケンカと平行して、スローモーションや派手なとび蹴りをとりまぜて描かれる。
素で聴けばやはり多少ドンくさく、気恥ずかしく響くかもしれない80年代のヒット曲の数々が、スクリーンの中ではキラキラと輝いている。『サニー 永遠の仲間たち』は、大人だって、どこでだって、本気で踊ることができるのだと教えてくれる。見てしまったあなたは、さあどうする? そのまままっすぐ家に帰るのはもったいない。ダウンタウンへ繰り出そう!
(2012.5.18)
監督・脚本:カン・ヒョンチョル 出演:シム・ウンジュン,カン・ソラ,ミン・ヒョリン,ユ・ホジョン,ジン・ヒギョン,コ・ソヒ,ホン・ジニ
配給:CJ Entertainment Japan ©2011 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED

2012年5月19日、 Bunkamuraル・シネマ 、
ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
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- 監督:カン・ヒョンチョル
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