村上 淳 (俳優) 三宅 唱 (映画監督)
映画『Playback』について
2012年11月10日(土)より、渋谷オーディトリウムにてロードショー全国順次公開予定
処女長篇『やくたたず』で一躍注目を浴びた新鋭監督・三宅唱の初の劇場公開作品『Playback』が、間もなく封切りを迎える。『やくたたず』に惚れ込んだ俳優・村上淳が企画の段階から後押しした本作、製作の経緯のユニークさもさることながら、モノクロ・35ミリのプリントでの上映も話題を呼びそうだ。三宅監督と村上さんのやりとりは、お互いへの敬意と映画に触れる喜びとにあふれ、幸福な関係が長く続くことを予感させてくれた。見通しのきかない映画状況を豪快に笑い飛ばすような、おふたりのポジティブなトークをお楽しみください。(取材:鈴木 並木)
――物事なんにしても変わる部分と変わらない部分とがあると思いますが、こと映画に関して言うと、悪い方に進んでいくのが話の前提というか、最初から負け戦みたいなところがありますよね。『Playback』にはそうした悲壮感がないのがすがすがしく感じられました。
三宅 単純に、そういう空気に飽きちゃったんです。ここ数年、金がない、儲からない、変化においつかない、という話がいまも継続していますし、切実な問題です。実際、『やくたたず』はまさにその渦中で作った映画だとも思っています。だから議論の必要性もまったく否定しませんが、それでも、もうみんな話ばかりしているのは飽きてるんじゃないかな、疲れてるんじゃないかな、と……。少なくとも自分の場合はもともと飽きっぽいので、やっぱり映画を作って、それを上映して転がしていくというような、実際の動きの中でしかやれないな、と思っているだけなんですけど。
村上 そうなんだよね! 僕はインディーの作り方や在り方が、いまある種の壁に当たっているのかなと思っています。飽きたから次に行こうよ、というのはめちゃくちゃポジティブですよね? まさにこういう感覚の人間とやりたかったんです。僕は、どうすれば映画監督が良い暮らしができるだろうかと、いつも考えています。そうでなければ夢がない。仮に監督料として1億円もらえたら、次の作品について考える時間が2年間できる。つまり有給休暇なわけで、これはすばらしいことだと思うんです。
ちょうど今日、若松孝二監督が亡くなられました。監督は生前、よくお金の話をしていましたが、彼は答えを持っていらっしゃった。独立プロダクションとして自らの資金で映画を作られ、きちんと回収してしまう。地方の小さな映画館のことまで考えていらっしゃった。本当にかっこよかったです。
――デジタル化の話にしても、おもに聞こえてくるのは悲観的な意見です。
村上 デジタル化も、もしやるなら極端なところまで行ってほしいです。これは公の場で言うのは初めてですが、VPF(*2)のことです。たとえば僕が劇場に行って、お客さんと「今日は何を観ましょうか?」と話して、作品を決めたらパスをもらってサーバにアクセスしてもらう。それを観終わったら「じゃあいまの作品は怖かったんで、今度はラブストーリーにしましょう」といって、また調べて……。そんなふうにDJ感覚で映画を観ていく。たとえば誰か著名人が来日したら、その人と一緒にそれをやってもいい。そこまで可能になるなら、デジタル化もいいなと思いますよね。けれど、現状の体制や価格が現状のまま進んでいくとしたら、難しいでしょうね。
――最後になりますが、三宅監督にとって村上淳さんとのお仕事はいかがでしたか。
三宅 年齢が離れているとはいえ、いま上映中の映画の話をフラットにできるんです。そのおかげで、同じ映画を見ている観客同士なんだなあ、同じ世界に生きているんだなあ、と感じられる。そういう感覚で一緒に映画を作ることができるのは、とてもハッピーですね。
――では、村上さんから三宅監督への印象や期待のお言葉を。
村上 今回35ミリフィルムに焼いたのは、三宅くんにとって確実にステップアップでしょう。たしかにHDCAMやブルーレイにした方が全国10箇所でも同時公開できるけど、フィルムに焼いてしまったし、本数だってたくさん作れないから、順次全国公開していくしかない。でも、『Playback』はそのやり方がいいんだと思います。
三宅 瀬々敬久監督が『ヘヴンズ ストーリー』は少なくとも10年上映する、と宣言されているわけですが、ほんとにすごい、と。だからこそ、「僕らは別にちょっとだけで……」っていうわけにはいかない。今回フィルムで上映できること自体恵まれているので、『Playback』も上映をずっと続けていきたいです。
村上 恵まれていたとも言えるし、枷を作ってしまったとも言える。この作品を大事にして、ひとつでも多くの劇場を回ってほしいし、それを続ける間に、次を撮りたい衝動も出て来るはずです。1~2年撮ってないから、じゃあそろそろ撮らなきゃ、というのではなく、何かが見えてきたらそれに向かっていくというかたち。一歩進んだら、いままでぼやけていたものの霧が晴れてくるような、そんなことがあるときこそ、間違いなく撮りたいものが見えてくるんだと思います。これからですよ。
――もう少しそこを具体的にお聞かせいただけますか。
村上 これは三宅くんにも初めて話すけど、映画監督というのは、自分のトラウマや性癖、社会へのメッセージ等などありとあらゆるものをさらけ出すことも重要なんだと思うんです。インディペンデント作品の多くは、トラウマをさらけ出すことには慣れている。でも性癖だとかフェティシズムを前面に出せる監督はなかなかいません。女性監督の場合は、いますよね。「おー、そういう男が好きなんだ」とかね(笑)。三宅くんも、もっと「三宅唱」本人を前面に出すことだって、ありだと思います。たとえば若松監督や園子温監督、ラース・フォン・トリアーなんかは、まさにむき出しにしていますよね。観客はそれを見に来るわけです。脳みそを外に見せることは恥ずかしいだろうけど、でも三宅くんにはまだまだ見せていない部分がいっぱいあるんじゃないかな。それを今後見られるようになるのは、すごく楽しみですよね。
*2 バーチャル・プリント・フィー=仮想プリント代。デジタル化によってかからなくなる物理的なプリントにまつわる諸費用のかわりに、配給会社と映画館が負担する費用。
( 取材:鈴木 並木 )