インタビュー
『Playback』村上淳(俳優)&三宅唱監督

村上 淳 (俳優) 三宅 唱 (映画監督)

映画『Playback』について

公式

2012年11月10日(土)より、渋谷オーディトリウムにてロードショー全国順次公開予定

処女長篇『やくたたず』で一躍注目を浴びた新鋭監督・三宅唱の初の劇場公開作品『Playback』が、間もなく封切りを迎える。『やくたたず』に惚れ込んだ俳優・村上淳が企画の段階から後押しした本作、製作の経緯のユニークさもさることながら、モノクロ・35ミリのプリントでの上映も話題を呼びそうだ。三宅監督と村上さんのやりとりは、お互いへの敬意と映画に触れる喜びとにあふれ、幸福な関係が長く続くことを予感させてくれた。見通しのきかない映画状況を豪快に笑い飛ばすような、おふたりのポジティブなトークをお楽しみください。(取材:鈴木 並木

村上 淳 (むらかみ じゅん) 1973年大阪府生まれ。93年に『ぷるぷる 天使的休日』(橋本以蔵)で映画初出演。01年には『ナビィの恋』(99/中江裕司)、『新・仁義なき戦い』(00/阪本順治)、『不貞の季節』(00/廣木隆一)の3作で一躍注目を集め、ヨコハマ映画祭助演男優賞を受賞。最近の出演作に、『七夜待』(08/河瀬直美)、『禅 ZEN』(08/高橋伴明)、『のんちゃんのり弁』(09/緒方明)、『必死剣 鳥刺し』(10)や『信さん 炭鉱町のセレナーデ』(10/ともに平山秀幸)、『ヘヴンズ ストーリー』(10/瀬々敬久)、『雷桜』(10)や『軽蔑』(11/ともに廣木隆一)、『ゲゲゲの女房』(10/鈴木卓爾)、『スリー☆ポイント』(11/山本政志)、『生きているものはいないのか』(11/石井岳龍)、『ヒミズ』(11/園子温)など数多くの作品に出演。最新作は『莫逆家族 バクギャクファミーリア』(12/熊切和嘉)、『赤い季節』(12/能野哲彦)、『希望の国』(12/園子温)。

三宅 唱 (みやけ しょう) 1984年札幌生まれ。2007年映画美学校フィクションコース初等科修了。2009年短編『スパイの舌』(08)が第5回シネアスト・オーガニゼーション・大阪(CO2)エキシビション・オープンコンペ部門にて最優秀賞受賞。2010年『やくたたず』を製作・監督(第6回CO2助成作品)。

村上淳1――まず、村上さんと三宅監督との出会いのところからお聞きしたいと思います。村上さんは若手の監督の作品もいろいろご覧になっていると思いますが、とくに強くアプローチしようと思ったのは三宅監督が初めてでしょうか。

村上 ある才能と出会いたい、できれば若い監督とやりたいなと思っていた時期があって、何人かとお茶したり、食事したりしたんですが、その中でいちばん現実味があったのが三宅くんでした。自主映画でしかできない作品という可能性をもっとも強く感じたのが、彼だったんです。

――その可能性を言葉で表すとどうなりますか。

村上 具体的な何かというよりも、肌触りですね。自由に、自分らしく撮ってくれそうだなという感覚がありました。彼の前作『やくたたず』を観て最初に気になったのは、カメラマンは誰だろう?ということ。監督の望むものが見事に画面に収まっていると強く感じたんです。それでエンドクレジットを見たら、監督・脚本・撮影・編集、そして製作と、三宅くんが一人五役をこなしていた。驚きましたし、だからあの画面ができているのかと納得しました。

――そういうお話が突然来て、監督としてはどうでしたか。

三宅 突然メールが届いたときは、誰かのイタズラだろうな、と。自分の映画を観てもらえたことだけで嬉しかったですが、直接お会いした上で実際に企画まで動きだすことになり、正直な感想としては「こんなにわかりやすいチャンスが自分の人生に起こるとは思わなかったなあ」と他人事のようにのんきに考えていました。幸運だったのは、『やくたたず』を終えてちょうど俳優という存在について考えはじめていたときに、村上淳さんというキャリアのある俳優と出会えたことですね。『やくたたず』の経験を踏まえて、いかに俳優を撮るか、もっといえば、人間を記録することこそ映画の力だというところに賭け金をおく、「今度は最初からそのつもりで映画を撮ろう」と考えていたんです。驚くほどタイミングが良かった。

――一緒に映画を作るにあたって、村上さんの方から意見というか提案のようなものはあったのでしょうか。

村上 僕が所属するディケイドでは、いままでも何本か映画を製作していますが、つねに「監督主導であること」がイズムです。監督ありきのものを作る。だから具体的に「こう映してくれ」とか「こういう見せ方をしたい」というのはないんです。ただ、僕が個人的に伝えたことがひとつだけありました。『やくたたず』と対になるような作品を作ろう、と。

三宅 僕としては『やくたたず』とはまったく違う映画を、むしろ真逆のような映画を、という意識でした。例えば、『やくたたず』は若い俳優が中心だったので彼らの全身をおさめるようなフルショットが多いのですが、今度は決して若い俳優ではない。きっと顔の皺を撮るのが面白いだろうな、それで寄りのカットが増えるなら語りの方法も微妙に変わるだろうな、と考えていました。同じ白黒なのになぜこんなに違うのか、あるいは、にもかかわらずどう似ているのか、自然とそんな考えが生まれやすい二本だとは思います。


『Playback』――では、『Playback』についてお伺いします。見終えてみると、回想でもタイムスリップでもない、『Playback』というタイトルの意味がなるほどと納得いきます。かなり解釈の多様性を許容する不思議な映画だと感じました。

村上 たとえば、この作品ではほぼ同じ出来事の繰り返しがありますが、1回目と2回目で、もっと露骨に違いを出す演じ方も可能でした。ハッキリ変化を出した方が観客も入りやすいと思うんですが、実際には、薄く演じ方を変えただけでした。だからこそ解釈の広がりが生まれているはずです。でもこれこそ、まさしくインディーにしかできないことです。360度広く大衆に向けようとすると、大味の芝居になってしまいますから。

三宅 ゼロから新しい世界を立ち上げることができる大きな映画とは違って、低予算映画を作る醍醐味は、普通の現実をベースにして、その普通のイメージをどうやってまるきり変えてみせるか。たとえば学生ならば、キャンパスの退屈な風景をそのまま使いつつ、どうやってスパイ映画を作るか、そういうやり方です。つまり「めちゃめちゃ圧倒的に存在する、普通の現実」から出発して、どうそれに影響を与え、どうそれをおびやかして、いかにまったく違う新しいイメージに刷り替えることができるか。いまはこうでしかないたった一つの日常を認めた上で、それでも「こうかもしれない」という潜在的な可能性をどれだけ映画のなかで作り出せるか。失敗するとただの日常の延長になってしまうわけですが、映画をみたあとに外にでて、「あ、確実になにかが変わったぞ」というような感覚を作りたいです。

――絶対に忘れないだろうと思っていたこともあっさり忘れてしまう、中年期の記憶のあいまいさの描写がすごくリアルで、監督はよく中年の気持ちがわかるものだなあと驚かされました。

村上 中年の体型をしているからじゃないの?

三宅 勘弁して下さいよ!

――そういう中年の部分と、若者らしさが同居しているのが印象的でした。学ラン姿にはなっているものの、もはや高校生のようには走れない感じだとか。

三宅 「一本の映画で、18歳の村上淳と40歳手前の村上淳が両方見られる」という言葉を口説き文句として思いついたのがはじまりです。村上淳さんが学ランを着るだけでとても可笑しいだろうし、きっとなんだか儚いだろうなあ、と。その上でいまの村上さんの顔をみるときっと今よりもっとグッとくるだろう、と。「俳優」というお題を掲げて準備している最中にカミュの文章を読んで、これこそまさに俳優のイメージだ、と思う一節がありました。「俳優とは、滅びやすいものの頂点にあるものだ」、「あらゆるものはいつか消えて死ぬ、跡形もなく消えていってしまう、ということを最も崇高に現すことができるのが俳優という生き物だ」というようなニュアンスの文章です(*1)。製本したシナリオの中表紙にその文章を印刷していました。

村上 映画をとことん観たり、小説をとことん読んでいるようなひとは、早熟になりますよね。三宅くんにはそういう印象があります。

『Playback』2――そこも今日、お聞きしたかったところなんです。三宅監督は、外見にも作風にもいわゆるガリ勉的なシネフィルくささがあまり感じられないというか、少なくとも表面には出てきていません。実際はどうなのでしょうか。

三宅 出てないですかね?(笑)学生の頃は年間数百本、月に100本というような挑戦をしていましたが、シネフィルかどうか…。ここ2、3年は自作があったので以前のようには映画館に行けてないというのもあり、自分がそうかはわかりません。僕はシネフィルという言葉にあてはまる人たちがすごく好きで、大事にしている言葉です。ガリ勉的なイメージのときはなるべく使わないようにしています。 

村上 映写技師もやっていたんでしょ。

三宅 シネセゾン渋谷で5年間お世話になりました。ほんとにだらしないバイト君だったと思いますが、映写もモギリも一通りやりました。大学より渋谷にいる時間が長く、ちょうど大学3年のときにシネマヴェーラ渋谷ができたんです。最近はあまり行けていないんですが、オープンから3年くらいはかなり通っていました。

村上 その代わりにいまは、僕が映画館に通っているよ。

*1 アルベール・カミュ『シーシュポスの神話』(清水徹訳、新潮文庫)では以下のとおり。「俳優は滅びやすいもののなかに君臨している。周知のように、俳優の栄光はあらゆる栄光のうちでもっともはかないものだ。」「なにものもいつの日かは死なねばならぬという事実から、最良の結論を抽き出しているのが俳優である。」

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『Playback』 2012年/日本/113分/1.85/モノクロ/Dolby SR/35mm
監督・脚本・編集:三宅唱 企画:佐伯真吾、三宅唱、松井宏 ラインプロデューサー:城内政芳 撮影:四宮秀俊
照明:玉川直人、秋山恵二郎 録音:川井崇満 挿入歌:ダニエル・クオン、大橋好規 主題歌:大橋トリオ
出演:村上淳,渋川清彦,三浦誠己,河井青葉,山本浩司,テイ龍進,汐見ゆかり,小林ユウキチ,渡辺真起子,菅田俊
配給:PIGDOM 製作:DECADE inc. ©2012 Decade, Pigdom
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2012年11月10日(土)より、渋谷オーディトリウムにてロードショー
全国順次公開予定

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