スコット・マクギー
&デヴィッド・シーゲル
(映画監督)
第25回東京国際映画祭
コンペティション部門出品作品
『メイジーの知ったこと』について
離婚した両親の親権争いの板挟みとなった小さなニューヨーカー、メイジーの災難を軽快なタッチで描いた『メイジーの知ったこと』が東京国際映画祭コンペティション部門で上映され、好評を博した。ヘンリー・ジェイムズの1897年の名作を、気鋭のスコット・マクギーとデヴィッド・シーゲル監督コンビが巧みに映像化。少女の目を通して人間の本当の姿を浮かび上がらせながら、爽やかな感動を呼ぶ極上のドラマに仕上がっている。ダメ母ぶりが最高なジュリアン・ムーアやアレキサンダー・スカルスガルドなど人気俳優たちのアンサンブルが冴え、彼らに負けない輝きを放つメイジー役オナタ・アプリールのいとけなさに魅了された。子供の視点で映画を撮ることを見事に成功させた才気溢れるお二人の監督に、作品について伺った。(取材:深谷直子)
スコット・マクギー&デヴィッド・シーゲル マクギーとシーゲルは1990年からコンビを組み、映画製作に取り組んできた。これまでに5本の長編映画を共同で監督している。作品に、ジャンルの既成概念を鮮やかに裏切る高評価のデビュー作“Suture”(94)のほか、数々の賞にも輝いたサスペンス・スリラー『ディープ・エンド』(01)、『綴り字のシーズン』(05)、トロント、サンダンス、カンヌの映画祭で数多くの賞を受賞した『ハーフ・デイズ』(09)がある。
スコット・マクギー監督――『メイジーの知ったこと』はとても感動的な作品でした。今までのあなたたちの作品はスリラーや犯罪ものなどが多く、『綴り字のシーズン』(05)は少女を主人公に家族のあり方を描くものだったのでこの作品に近い部分もありますが、やはりユダヤ教神秘主義などの複雑でスリリングな要素も持っていました。それらに比べると『メイジー』はとてもシンプルなストーリーの原作ものですが、どんなところに惹かれたのですか?
シーゲル 原作を読んでいたわけではなくて、実は参加したときには脚本がもうあったんだよ。あなたの言う通りシンプルでエモーショナルなストーリーであること、そして子供の視点から書かれているというところにすごく惹かれたんだ。
マクギー シンプルなストーリーだけど、そのシンプルさこそが映画に描かれる感情的なものに適切だと思ったんだ。これがもっとスリリングだったり複雑な筋だったりしたらバランスが悪くなってしまったと思うね。
――それは分かりますね。子供のごく限られた体験からとても大きなものを見せているというところがこの映画の面白さだと思います。脚本が最初からあったということですが、NYが舞台というのも最初から決まっていたんですか?
シーゲル 元からNYが舞台だったんだけど、脚本は10年から12年ほど前に書かれたものだったので、自分たちも関わって今の雰囲気に合うように手を加えているよ。
――NYというのは毒々しい街ですが、可愛らしいメイジーを主人公としながらミュージシャンがたむろする家やバーなど大人の世界のまま描き、そこに子供が迷い込んでいるように映しているのが逆にファンタジックだと思いましたし新鮮でした。
シーゲル そのあたりについて僕たちはたくさん話し合ったんだけど、この物語にはメイジーの感情の中の危険な部分も描かれていると思うんだ。同じ経験をしてもメイジーが感じていることと大人の僕たちが感じていることは違うはずだよね。子供にとっての不安さや驚き、あるいは子供なりの優しさや寛容さというものを映像的にどう表現するかを考え、照明や色彩をどうするか、例えばすごくダークな感情だったとしても子供の経験ということを考えるともっと明るい色合いにしようとか、そういったことを話し合った。あと、NYはあなたが思っているほど危険な街じゃないよ(笑)。
――そうですね、実は大好きなんですが……(笑)。小さい子供の経験を描くことでの工夫としては、目線もそうですし、音の聞こえ方などにも気を配っているのが感じられました。街では車の音など低い位置の音が大きく聞こえたりしていましたね。
マクギー そうだね、子供の視線というものを伝えるために、音とかカメラの高さとかフレームに出入りするものだとかをどうしたらよいかをすごく考えた。ストーリーの上でも、出来事の中のどういうディテールを見せるかということを話し合い、例えば結婚式では子供にとっては式そのものよりも、結婚式のあとの花束というものが印象が強いかもしれないと考えてそれを見せるというように、「子供だったらこういうふうに見るんじゃないか」ということをいろいろ考えたよ。
――子供だからちゃんと見えていないところがある一方で、子供なのにこんなに敏感に感じ取れているんだ、と驚くところもありました。冒頭からしてそうで、ピザの配達が来たのに両親がケンカしていて気付かないので、自分でおカネを払いに出ていくのをすごくけなげに思いましたし、メイジーが継父となるリンカーンを学校の友達に紹介するところは笑いを誘うシーンですが、7歳児でも親たちの細かい恋愛の事情までよく分かっているんだなあと感心しました。メイジーは複雑な環境に置かれているためにこんなに大人びたのでしょうか、それとも子供みんなにこうした鋭い感覚が備わっているとお考えなのですか?
シーゲル 両方だと思うね。メイジーはもしかしたら普通の7歳の女の子よりも自分のケアをしなければならないことが多いのかもしれないし、それと同時に7歳の子供って結構洗練された感覚でいろんなことが分かっていると思うんだ。
マクギー 表現する言葉を持たなくても、子供の直感でまわりのことを理解していることはあるんだと思うよ。
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監督:スコット・マクギー,デヴィッド・シーゲル
脚本:ナンシー・ドイン,キャロル・カートライト 原作:ヘンリー・ジェームズ 製作:ダニエラ・タップリン・ランドバーグ
製作:ダニエル・クラウン,ウィリアム・ティートラー,チャールズ・ウェインストック 撮影監督:チャールズ・ナットゲンズ
出演:ジュリアン・ムーア,アレキサンダー・スカルスガルド,オナタ・アプリール,ジョアンナ・ヴァンダーハム,スティーヴ・クーガン
©Red Crown Productions USA
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