クリストフ・ガンズ (監督)
映画『美女と野獣』について
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2014年11月1日(土)よりTOHOシネマズ スカラ座ほかにて全国公開
(取材:後河大貴)
――ガンズ監督がこれまで作ってこられた“ダークファンタジー”のファンなのですが、ファンタジーにダークな要素が入ってくることで、なにが魅力的になるとお考えですか?
ガンズ フランスでも、私が『サイレントヒル』のようなダークな作品を撮ったあとに、光に導かれていくような『美女と野獣』を撮ったことに対して、「なぜ、こんなにもテイストの異なる作品を!?」と驚かれることが多々ありました。しかし、私は、ダークなものを撮るにあたっては、自分のなかに光がないとダメだと思いますし、あるいは、光に向かっていくためには、自分のなかにダークなものがないとダメだと思います。私のなかでは、ダークなものと光は、別のものではないのです。本作を制作するにあたって、「彼はダークフェアリーテイルを作ろうとしている」と言う人もいましたが、凄くおかしかったですね。というのも、お伽話には本来、ダークな部分が含まれているからです。フェアリーテイルをダークにするのではなく、フェアリーテイル自体が、ダークなものを隠し持っているわけですね。 ですから、子供と大人の双方が楽しめるように気を配りました。色彩や光にはこだわりましたし、自分が幼いころにこの物語に触れて以来、思い描いていたイメージも随所に散りばめました。実際、本作のなかには、象徴的に描かれているものがたくさんあります。例えば、ベルは最初は少女であり、処女なわけですが、次第に大人へと変化していきます。フランスの子供たちは、ベルが乗った馬が森を駆けていくと豁然と木々が開けるシーンが大好きなのですが、深読みすると、岩に近づいたときに白いリボンが飛んでいく描写は、“処女性の喪失”という意味合いにも解釈できるのです。つまり、子供はアクションとして楽しめるし、大人は隠された意味を解読する楽しみがある――隣で一緒に観ていても、互いに気詰まりなく楽しめるように作り込んであるのです。
――先ほど、罪と贖いをめぐるお話を伺いましたが、物語の結節点には、キリスト教的な“自己犠牲”が据えられているように見受けられました。ガンズ監督ご自身の、宗教観の反映があったりするのでしょうか?
ガンズ 仰るとおり、宗教的な自己犠牲という概念が本作にはありますが、原作はギリシャ・ローマ神話にインスピレーションの源泉を得ており、その思想が色濃く反映されています。そうした神話はキリスト教以前のもので、アニミズムや精霊信仰が盛んだったころの世界観が根底にあるのですが、一方で、キリスト教の原点にあるような自己犠牲も描きたいと思いました。アニミズムとキリスト教は本来、相容れないものかもしれませんが、パラドックスという意味で、あえてその両者を描いているのです。
――日本にはもともと原始宗教としてのアニミズムがあり、ギリシャ・ローマ的な多神教に馴染みが深いと言われますが、フランスではカトリックが主流かと思います。反応はいかがでしたか?
ガンズ 昔の精霊信仰のなかでは、自然こそが神聖であって人間は神聖ではないと言われているんですが、カトリックでは、人間こそが神聖であるという考え方が主流です。そういう意味では、私は、キリスト教以前的な精霊信仰の価値観を描いていると言えるでしょう。その点に関しては、フランスではエコロジーの意識として捉えた人が多くて、環境保護とか、「自然を壊してはいけない」というメッセージだと考えた人が多かったように思います。
――最後に、日本のファンにメッセージがあれば、お聞かせください。
ガンズ 本作には、日本とフランスに共通するようなテーマや議論が含まれています。日本とフランスはいずれも、長い封建時代を経験しており、アメリカよりも共通点が多いと思います。あるいは、宮崎駿氏ほどの巨匠と自分を比較するわけではないですが、『もののけ姫』や『となりのトトロ』と相通ずるようなテーマがあるはずなので、日本のお客さんにも楽しんでいただけると思います。
――ありがとうございました。
( 取材:後河大貴 )
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監督:クリストフ・ガンズ 主演:レア・セドゥ、ヴァンサン・カッセル、アンドレ・デュソリエ
配給:ギャガ 提供:アミューズソフトエンタテインメント、ギャガ
原題:La Belle et La Beta/字幕翻訳:丸山垂穂
©2014 ESKWAD - PATHE PRODUCTION - TF1 FILMS PRODUCTION ACHTE / NEUNTE / ZWOLFTE / ACHTZEHNTE BABELSBERG FILM GMBH - 120 FILMS
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