アグニェシュカ・ホランド (監督)
映画『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』について【2/2】
2020年8月14日(金)より新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国公開!
公式サイト 公式twitter (取材:深谷直子)
――この映画には、目を背けたくなるようなホロドモールの現実が描かれていますが、どこまでを具体的に描写するかの判断基準を教えてください。
ホランド 脚本家のアンドレアと話し合い、ホロドモールを表現するときにはガレスの主観で見せようと決めました。つまりこの映画では彼が見ているものしか観客は見ないのです。今までにホロコーストなどの映画を手がけてきた中で、”Less is More”、ほのめかすようなミニマルなアプローチの方が雄弁で効果的だということを学んできました。ホロドモールの犠牲者たちは、収容所のような場所ではなく、広大な土地で人知れず孤独のうちに亡くなっていくわけです。叫び声さえ上げずに、消失していくように。そういう感覚を表現しなければと考えて作っていきました。その中にもこれはという具体的なシーンが二つあります。荷馬車に赤ちゃんが乗せられてしまうところと、子供たちが調理した肉をガレスが分けてもらうというくだりですが、それもミニマムに描いたつもりです。物語を綴るときにとても重要なのは、それを誰の視点で描くのかということです。視点を持つ人が今体験していることを観客と分かち合っている。そういうふうにアプローチすることが大切で、今回もそうしています。
――ジョージ・オーウェルの『動物農場 』の執筆に、ガレス・ジョーンズが影響していたということにも驚きました。オーウェルは映画の中で狂言回しのような役割を果たし、「子供でもわかる簡潔な物語を、それが真実を伝える方法だ」という冒頭の彼のナレーションで物語が始まっていきます。フィクションの映画監督であるホランド監督の姿勢は、ジャーナリストよりも作家の方が近いと思いますので、ご自分を投影されている部分もあると思うんですが、もともと映画の中でのオーウェルの比重はこんなに高かったのでしょうか?
ホランド 実は脚本ではもっとオーウェルの比重は高かったんです。撮影もしていて、最初の粗編にはもっとたくさんのオーウェルのシーンが入っていました。制作陣の中には、「オーウェルのパートはいらないんじゃないか?」と言う人もいたのですが、私はとても必要だと思っていました。確かに私自身がオーウェルに共感していたので、監督としての視点を映画に付与するためにも必要だと思ったし、メタファー的にも必要だと思いました。『動物農場』の一部を朗読したり、執筆しているシーンを入れることで、その言葉によって映画の物語をちょっとショートカットでき、最終的には物語の哲学的な結論に至る助けにもなっているのです。脚本家のアンドレアと編集のスタッフとともに、どこにオーウェルのクリップを使うといちばん有機的に作用するか、観客の感情を掻き立てるかを探していきました。また、「ストーリーはシンプルでなければならない」というのは、実は私のフィルムメイキングにおける哲学でもあるんです。世界は複雑であり、私が扱う主題もとても複雑なんですが、シンプルな手法で綴ることで、観客が知的なレベルでも感情面でもアクセスしやすい物語にしている自負があります。こうした堅い題材の映画はあまり観ないんだけど……という人でもスッと理解できるものになっているのではないかと思います。複雑な現実を普遍的な言語に翻訳するという作業が私の映画作りであり、観客に対して体感を喚起するような作品を作って、複雑な現実の中にポーンと観客を置いていくのです。
――影響を受けた映画監督を教えてください。
ホランド 一人ではないです。映画学校で学んできた多くの映画作家たち、ヨーロッパ、日本、アメリカでのいろいろなムーブメント、そういった様々な人々や作品に影響を受けているから。ただ、やはり自分の映画作家としての仕事に影響を与えてくれたのは、ポーランドの友人たちやメンターたちであり、中でもアンジェイ・ワイダとクシシュトフ・キェシロフスキが大きいです。彼らと毎日映画を観て語り、分析し、アイデアを分かち合いました。芸術上での大切なパートナーはこの二人の男性です。彼ら以外では、戦後の、特に60~70年代のニュー・ウェーブの監督たちの作品が、映画作家としてのいちばんの地盤みたいなものです。
( 2020年6月23日 東京~フランスのSkype合同インタビュー 取材:深谷直子 )
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監督: アグニェシュカ・ホランド『太陽と月に背いて』『ソハの地下水道』
脚本: アンドレア・チャルーパ
出演: ジェームズ・ノートン「戦争と平和」(BBC ドラマ) ヴァネッサ・カービー『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』 ピーター・サースガード『ブルージャスミン』 配給: ハピネット 配給協力: ギグリーボックス
© FILM PRODUKCJA – PARKHURST – KINOROB - JONES BOY FILM - KRAKOW FESTIVAL OFFICE - STUDIO PRODUKCYJNE ORKA - KINO ŚWIAT - SILESIA FILM INSTITUTE IN KATOWICE
公式サイト 公式twitter
2020年8月14日(金)より新宿武蔵野館、
YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国公開!
- 監督:アグニェシュカ・ホランド
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- 監督:アグニエシュカ・ホラント
- 出演:レオナルド・ディカプリオ, デイヴィッド・シューリス, ロマーヌ・ボーランジェ, ドミニク・ブラン, アンジェイ・セヴェリン
- 発売日:2007/01/27
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