イ・ヒョンジュ監督/『恋物語』

イ・ヒョンジュ (監督) 映画『恋物語』について【2/4】

第17回東京フィルメックスのコンペティション部門上映作品

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イ・ヒョンジュ監督2 『恋物語』場面2 『恋物語』場面3
──たしかに映画として映えるような大きな事件が起こるわけではありませんね。また、少し内気でまだ恋愛経験の少ない女性が、少し積極的でどこかワイルドな雰囲気もある、自身をレズビアンと認識している美しい女性と出会うという設定も二作と共通する部分かと思います。たまたま同時代に生まれたものでしょうか。それとも何か意識はありましたか。

ヒョンジュ 私はこの映画を撮りながら、ふたりの物語ではあるんですけれども、ひとりの物語とも言えるかもしれないと思っていました。ひとりはやっと好きな人ができて、人を好きになるってこういうことだと次第に知っていく人物です。もうひとりは、ほとんど色々なことを知り尽くしていて自由に恋愛をしていますが、同時に現実の壁も知っている人物です。私は、そのようなふたりが出会ったらどうなるだろうかと考えてみました。最初、映画の中でユンジュが目を開けて起きるシーンが出てきますよね。その後に今度はジスが寝ていて、ユンジュが寝ている彼女を見ているシーンがあります。そのあたりから、これはふたりなんだけれどもひとりのように見せたいという風に考えはじめました。ふたりをひとりのように見せたく、あるシーンはあえて似せて撮影したところもあります。たとえば屋上にいるシーンです。最初、ジスは屋上に部屋がある作りの家に住んでいますが、ユンジュも後で引っ越した時に階段を上がって屋上の上に部屋が作られているところに引っ越していくという風にあえて似せて撮りました。また、『キャロル』のテレーズのように恋に目覚めて、これから恋をスタートさせるという部分など被るところもあるので、ほかの人との関係性や似ているものがあるのは仕方がないと思うのですが、今回、それらの作品を特別に意識していたわけではありませんでした。

──ジスの家庭はキリスト教徒という設定になっていたかと思いますが、割と厳格な家庭なのでしょうか。

ヒョンジュ そうですね、クリスチャンの家です。ジスの父親は彼女に早く家に帰って来なさいと厳しく言っていますが、彼はある意味では娘に対して優しい父親でもあると言えます。しかしジスとしては、家の雰囲気が息苦しく、ちょっと保守的だと感じているところがあります。ジスがそういう家の娘であることを見せるために家のことも盛り込みました。

──ユンジュは、はじめての同性との恋愛経験であるにも関わらず喜びのあまりほかの周囲の人に女性に恋をしていることを打ち明けますが、ジスの方はずっとレズビアンであったにも関わらず家庭や周囲に伏せているように感じました。彼女のそういった部分はキリスト教徒の家庭で育ったこととも何か関係はありますか。

ヒョンジュ ジスをはじめ韓国では同性愛者の人たちというのは、自分がそのようなアイデンティティを持っていることをオープンにすることが本当に難しい雰囲気があります。そういう同性愛者の方はどこにでもいるんですが、まるでどこにもいないかのように本当に少数として扱われているところがあると思います。劇中でふたりがデートをしていて、路地裏に入ってユンジュが「私、友だちに彼女ができたって言ったのよ」と話すと、ジスが「誰にでもそんな風に言いふらしたら友だちをなくすよ」と返答するシーンがありますが、あの時にジスとしては、たぶん両親がどうこうではなく、自分が友だちに告白したことで周りとの関係が壊れた経験が過去にあるから、彼女は心配を込めてユンジュにそのように言ったのではないかと思います。また、ジスが人から紹介された男性と車にふたりで乗っている時に「今までに悪いことをしたことがある?」と彼に聞く場面がありますが、あそこで彼女は(自身のした最も悪いことを)「嘘をついたこと」と言います。それはもちろん彼女が偽りの気持ちで男の人と会っているという今置かれている状況のことでもあるのですが、その言葉からは、自分に正直に生きていけない、恋愛をする時でもなかなか周りに正直になれないというところをジスが彼女なりに抱えていることも窺えます。「恋人いるの?」と聞かれた時にユンジュは「いる」と答えられるのに対して、ジスはその質問にすごくもどかしく息苦しくなって、自ら壁に閉じこもってしまうようなところがある気がします。ジスは両親とは離れたソウルにいる時は一見クールに振る舞っていますが、父親のいる実家に帰ると、かなり萎縮して緊張しているような状態にいるように思います。それを見ていると、ジスはかなり自分のアイデンティティを巡って今まで色々な衝突があって、色々な壁を感じて、息苦しさを感じながら生きてきたのかもしれません。その中には両親も含まれるでしょう。ジスは、父親の前ではタバコを吸っていることすらオープンにはしていません。そういうところから、韓国の親子の関係も垣間見られる気がします。

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恋物語 (韓国 / 2015 / 99分)
監督:イ・ヒョンジュ 出演者:イ・サンヒ、リュ・ソニョンほか
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第17回東京フィルメックスのコンペティション部門上映作品

2016/12/03/17:42 | トラックバック (0)
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