実に困った。
こちらも、この映画のレビューを書くのだというそれなりの心構えで鑑賞したわけだが、
この映画に対して何か言ってみたくなる気持ちをどこにも見出せなかったのだ。無理矢理にも、見出せなかった。傑作でもなく、佳作でもない、
かといって、出来が悪いわけでもない。普通の映画、かどうかは分からない。普通が何か分からないから。「ここがいい」
と押したいところがあるわけでもなければ、「そこんとこどうよ」と突っ込んでみたくなる場所があるわけでもない。
起伏ある話があるわけでもなく、ある種の良さを求めることが、結果的に話の無さを生んでいるわけでもない。
筆者は鑑賞中ほんの一ミリも気持ちが動かなかった。なんか、どうでもよかったんだよなぁ。ホームの老人ゲイたちのことも、若者たちのことも。
あ、一ヵ所小さく笑った。だが、それがどんなシーンだか、もう忘れてしまった。ちょっとおかしいシーンが二つか三つあったが、
どのシーンで実際に笑ったんだか、覚えていない。
とにかく、この映画を見て何か言うには、取っ掛かりが何も見つからなかった。終始ぽけーっと画面を眺めていただけ。いや、この部分はどうか、
こういう切り口はどうか、と色々探すには探していたのだが、見終わってみると、どうもなぁ。あえて誉める気持ちにもならず、
貶したい気持ちにもならず、ゲイに差別的なことでも書いてヒンシュクを買いたくなるような歪んだ思いも沸かない。「こいつクルクルパーやな」
と思われてもいいから、何か無駄に積極的な悪口の一つでも言いたいものだが、その気にならない。誰か知り合いと一緒にいて、
することも話すこともないので、とりあえずテレビをつけて二時間近くそれをぼけーっと眺めてるような、そんな感じ。
厄介だなぁ。難儀だなぁ。何か感想を言うことをあらかじめあちらから拒否されてしまったような気持ちにさえなった。
つまりはそういう映画だったのかもしれないという気もするが、それは一体どういうことか。確かに、どこにも突っ込まない映画ではあった。
しかし、意図的に劇的になることを避けてるようにも思えなかった。だからといって、映画の作り手が「これで足りている」
と思っているのだとも、また、思えなかった。何なのかね、これは。
「淡々としている」という言い方ともまたちょっと違う。ひょっとすると、演出のテンションの問題なのかもしれない。演出だけでなく、
制作課程全般に及ぶ、テンションの問題なのかもしれない。そういえば、「作ってて面白くなさそうな映画だなぁ」とちらりと思ったりした。
先程、どうでもよかったんだよなぁとぼやいたが、それはこちらの鑑賞態度の積極性を問題にするよりも、
登場人物たちが自分で自分のことをどうでもいいかのように思っているのではと受け手がどこかで感じていたからかもしれない。
それにもきっとテンションが大きく関わっているはずだ。
何書くかなぁ困ったなぁと思いつつ、渋谷を去る電車の中、すでに「今見たやつ、何だったっけ?」という状態になっていた。映画よりも、
隣に座っていたおじさんの体臭や、逆隣に座ったおねーちゃん二人の休憩時間のおしゃべりを、生々しいものとして覚えていた。そして、
次の予定までの空き時間を喫茶店で小説を読んで過ごしながら、筆者はこの映画をどんどんと忘れていったのだった。
振り返ってみると、「早く終われ」と積極的に思ったわけでもなかったことに何かこの映画の妙な部分を見出せるかとも思ったが、それはむしろ
「これでなんか書かなきゃ」という思いから生まれてきたものだろう。
劇場は、公開間もないということもあってか、満席に近い状態だった。若いおねーちゃんだらけ。
話がどこに突っ込むわけでもないゲイを扱った映画の客層というのは、やはり若いおねーちゃんたちということになるのだろうか。それにしても、
この子たちは一体何が見たくて来るのだろうか、とふと思った。「オダギリジョーだ」「柴崎コウだ」「西島秀俊だ」
などと答えが返ってくるなら、それはそれで健全なことなんだろうなと思う。満足するかどうかは知らないが。
オダギリジョーは、きっと意図的に、いつもより余計に、色気を身にまとっていた。柴崎コウはどうもペ・ドゥナに似てると思うときがあるが、
人はあまり賛同してくれない気がする。どうでもいいが。
クレジットが終わり、場内が明るくなったときの雰囲気は、決して悪いものではなかったが、
映画を見ていた二時間が誰にも何もまとわりつくことなくすっぽりと欠落して、映画が始まるまで続いていた日常のぺちゃくちゃした雰囲気が、
ただ復活しただけのようでもあった。
それにしても、混んでる映画館というのはイヤなもんだ。
(2005.8.31)
主なキャスト / スタッフ
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