荒城の月(1937・松竹大船) |
■スタッフ 監督:佐々木啓祐/原作・脚本:伏見晁/撮影:長岡博之/音楽:堀内敬三 |
■キャスト 佐野周二/佐分利信/高杉早苗/飯田蝶子/水戸光子/葉山正雄/河村黎吉/日下部章/野寺正一 ほか |
■あらすじ 日本が誇る大作曲家、滝廉太郎(佐野周二)が故郷に帰り、名曲『荒城の月』 を完成させる過程と、彼が二人の女(高峰三枝子、高杉早苗)と陥る三角関係の行方を描く。 |
ケチのつけようがない伝記的青春映画。夭折の作曲家滝廉太郎の短い青春を描く。後の日活ダイヤモンドラインに匹敵する「松竹三羽烏
(佐分利信・佐野周二・上原謙+佐田啓二)」の二人が灰汁のない芝居を見せる松竹映画の王道。高峰三枝子と高杉早苗の「大女」
二人の静かな激突(ニアミスに終わるが)もうれしい。ただし高杉は、後に『処女宝』(島耕二監督・50年・新東宝)
で高峰秀子の妹をどん底に引きずり込んだような怪物ぶりは見られない。高峰も本作が初の本格的主演とあって、後に『自由学校』(渋谷実監督・
51年・松竹)で佐分利信の夫を家出に追いやったような鉄の女ぶりは見られない。二人とも嘘のように可憐だ。つまり、
当時の松竹はそのようなイメージで二人を売り出していたのだろう。
あえて意地悪なケチをつけるなら、二人ともあまりにも可憐すぎること。
佐野の滝廉太郎に施しを受けたときにハンカチで鼻を押さえて涙を拭う高峰の芝居はいかにもおあつらえ向き。
思わず志村ケンのコントを連想してしまった。もう一つ、高峰の弟(葉山正雄)がメジロを呼ぶ笛の音で「荒城の月」
の作曲をひらめいたというのはちょっと強引。旋律が似ても似つかない。さらにもう一つ、
鉛筆も紙も買えないくらいの貧乏生活で学校に行かないでいる弟に、「僕も覚えがあるので君たちの苦労がよくわかる」
と鉛筆を買ってやるわけだが、そんな滝が作曲作業では平気で紙を丸めて捨てている。これは捨てておけないシーン。当時は
「欲しがりません勝つまでは」と国民総動員の戦争に向かう前夜の時代。何気なく描いたとしたら滝廉太郎が浅薄な人物にもなりかねないが、
あえて人間の矛盾を描いたシーンだとしたらかなりの皮肉だ。
しかし、以上はこの映画の本質からすれば些細なこと。美しい山河(実際には信州上田の上田城跡公園がロケ地)
と瑞々しい人間模様に心行くまで心洗われようではないか!
なお、同じタイトルの映画で、シナリオ作家・猪俣勝人が主宰する独立プロダクション「シナリオ文芸協会」が、58年に猪俣自身が製作・
脚本・監督をすべて担当し、石浜朗が廉太郎に扮したのがある。ほかには、澤井信一郎監督・風間トオル 主演『わが愛の譜 滝廉太郎物語』
(93年・東映)がある。三作を見比べてみるのも面白いだろう。
鑑賞余話 ラピュタ阿佐ヶ谷の客層はほぼ九割近くが戦前派のご老人なのだが(スタッフは全員20代)、いつも気になることがある。 映写が始まるとお菓子の袋を開けて無神経な音を立てる人が必ずいる。なぜ上映前に開けないのだろう? あれはやめてほしい。 それと毎回必ず途中入場してくる人がいる。狭い館内、 しかも映写機が目の高さにあるので途中入場されるとスクリーンに影が映る。 銀幕に輝くヒロインが台無しになるので遅刻厳禁で来てほしい。いずれも映画館の常識なのだが。 |
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