なんちゅう物悲しい映画だろう。 妖怪奇談というおどろおどろしい題名や派手なポスターからは想像もつかないような、深くてせつない余韻を残す作品である。「必見! 」とだけ言って筆をおきたいところだが、以下、多少の補足説明を試みたい。
物語は「ろくろ首」「かまいたち」「のっぺらぼう」の三点から成る。三人の女性を主人公としたオムニバス形式だが、 それぞれの物語が有機的な繋がりを持ち、互いに一方ならぬ影響を与え合ってゆく。その連関するエピソードの連なりから浮かび上がるのは、 「異形者の孤独」、ひいては「女の哀れ」である。
「ろくろ首」…… 上手に笑顔をつくれないことからモデル仲間に苛められている山根美智子(宮光真理子)。 体調不良から入院した彼女は自分の首が伸縮自在であることを発見する。医者(手塚とおる) に診断を仰ぐが病名も治療法も見つからない。のみならず、同室の少女からは見世物のように扱われて――。
「かまいたち」……ネイルアートにはまるフリーターの岩崎みひろ(伴杏里)。 自己中心的な性格の彼女だが、ある日、指のツメが日に数センチも伸びる事に気づく。切れども切れどもそれは伸び続け、 いつしか鋭利な刃物となってしまい――。
「のっぺらぼう」……優しい笑みを浮かべながら、幼馴染の親友を男に売ったり、 金を要求したりする最低の女子中学生、佐伯まな(市川春樹)。あるとき彼女は耳の形が変形していることに気づく。 それは顔面崩壊の序曲に過ぎず、彼女はかつてない窮地に陥ることになる――。
それぞれのチャプターに「メタモルフォーゼ」と記されているとおり、この映画は「変身」あるいは 「変容」がテーマである。しかも、首が伸びたりツメが伸びたり顔がなくなるという変容を、「病気にかかる」 というリアルな描き方に徹している。そのため、ホラーというより、悲惨な闘病記の色合いが濃厚だ。
こうした不幸に見舞われるのは、肉体が醜く変化することへの恐怖をいちばん強烈に感じる立場にあるであろう、 うら若き女性たちである。彼女たちは肉体の病的な変化に慄然としながらも、何とかこれまで通りの日常を送ろうと懸命に努力し、敗れ、 毀れてゆく。映画はその舞台を入院先の病院やバイト先といった、きわめてミニマムな場所に限定することで、 これが身近な物語であることを強調する。痛ましい三つの物語が交錯するとき、彼女たちがどのような活路を見出すか。ともかく、 見てのお楽しみである。
監督の亀井亨は『派遣秘書』『クエスチョン』といった官能もののOV作品で映画ファンを瞠目させ、『心中エレジー』『楽園―― 流されて』や『愛妻物語/煙が目にしみる』といった一般映画でも活躍する新進気鋭のクリエイター。洗練された映像センスもさることながら、 語り口の巧みさに個性がある。およそ大作とは言いがたい小さな作品だが、独特の哀感と情緒を醸し出す、きわめて優れた「映画」である。ビバ、 亀井亨!
(2006.1.8)
1月13日(土)より、
UPLINK Xにて
イブニング・ロードショー
公式サイト:http://www.fullmedia.jp/youkai/
2006年 日本
監督・脚本:亀井亨
出演:伴杏里 宮光真理子
市川春樹 桃生亜希子
綾野剛 手塚とおる
他
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