インタビュー
いまおかしんじ監督

いまおか しんじ(映画監督)

映画『たそがれ』公開に寄せて

2月16日(土)より
ポレポレ東中野にてレイト&モーニングショー

膳場岳人による『たそがれ』評 男と女、65歳。まだそんなにたそがれてはいない!

いまおか しんじ(映画監督)
1965年、大阪府生まれ。「獅子プロダクション」入社後、瀬々敬久監督や佐藤寿保監督、神代辰巳監督の遺作『インモラル 淫らかな関係』(95)などの助監督を務めたあと、95年に『獣たちの性宴(DVDタイトル:彗星まち)』で鮮烈なデビューを飾る。『痴漢電車 感じるイボイボ』(96)、『痴漢電車 弁天のお尻(デメキング、ビデオタイトル:いかせたい女 彩られた柔肌)』(98)などを発表。2004年、故・林由美香が主演した『たまもの(熟女・発情 タマしゃぶり)』でピンク大賞監督賞、作品賞、主演女優賞などを獲得。つづく『かえるのうた』(05)、『おじさん天国』(06)も次々と一般館で上映され、国内外で高い評価を受けた。

『おじさん天国』から『おじいさん&おばあさん天国』へ――。いまおかしんじ07年度の作品『いくつになってもやりたい男と女』が、『たそがれ』と改題されてポレポレ東中野でレイト&モーニングショー公開される。65歳の男女が中学校の同窓会で再会し、恋心を再燃させる様子を正攻法の演出で描いた逸品である。本作品のシナリオは、国映が主催するピンクシナリオ募集の第三回入選作。このコンクールは主に国映で活躍する監督たち(いまおかしんじ、女池充、榎本敏郎、堀禎一、等々)が応募作すべてを読み、「監督したいものがあるかどうか」で入選作を選出するシステムである。いまおかは審査段階で執筆当時65歳だった谷口晃のシナリオに興味を持ったという。

<66歳の新人脚本家・谷口晃>

――谷口さんのシナリオのどのあたりに惹かれたんですか?

いまおかしんじ監督2いまおか 老人ってだんだん枯れていくものだってイメージがあったのね。自分の親なんか見ててもそうだけど、人を好きになったり、セックスしたいと思う気持ちが徐々に薄れていくものなのかなって。でも谷口さんのシナリオは、むしろもっと貪欲になるって風に描いていてびっくりした。後半さ、ほとんどラブホのシーンだけなのよ。構成としては変なんだけど、あとあとわかるのがそこには怒りがあるんだよね。

――怒り?

いまおか 世の中に対する怒り。谷口さん自身退職しててさ、世の中からあまり必要とされてないというか、「仕事しなくていいよ、恋愛もセックスもしなくていいよ、何もしないでゲートボールやってればそれでいいよ」みたいな、そんな風な社会に対して怒りを持ってるんだよ。それをシナリオにぶつけてる。そういう怒りのエネルギーが後半の怒涛のセリフにね……これは凄いなと。そこが面白かったよね。

――老人を被写体とした場合、ピンク映画として成立するだろうか、という懸念は?

いまおか させたいなと思った。やっぱり普通に考えれば、若くてきれいな女の子の裸が見たいよね、ってところにいくわけよ。ただ、こう……なんだろな、友だちが死んだりとか、人の死について考えたりとか、死ってものにすごく影響を受けるっていうか、そこから物語を作っていくことがこのところ多かったのね。谷口さんのホンも死とか老いを切り口にして、その上で性をどう描くかってところがあったんで、そこで考えた。

――主人公たちが65歳で監督が現在42歳。20歳以上年上の老人の内面を描くにあたって、不安はなかったですか?

いまおか あまり年齢のことは考えなかったかもしれない。大事なのはその役、そのキャラクターをどう成立させるかってことだから。悩んだのは……悩んだってほどでもないんだけど、セックスシーンだよね。シワとかさ、肌の汚さとか、そういう「老い」を真正面から撮るのかどうか。シナリオの根底にはリアリズムがあるけど、映画表現としては、きれいに、というとおかしいけど、(観客が)引かない程度にしたほうがいいかなとは思ったかもしれない。

――確かにクライマックスの濡れ場ではキャメラをあまり寄せていませんでした。

いまおか そうだね。AVなんかに「超熟女」っていうカテゴリがあるのね。それは60歳以上の女性なの。そういうのが好きなマニアがいるわけよ。歳をとればとるほどいい、という人たちが。だからそういう人が撮ったら、たぶんもっとバーンとキャメラを寄せて、シワもたるんだ肉もバーンと撮って、という風になっていくと思うんだけど、俺はそうじゃないからさ。ちょっと見辛いな、いやだなと思っちゃったところも正直ある。だから引いて撮ったという部分はあるかもしれない。

――監督はこれまで演出において人物の「動き」を重視してきました。ところが今回は完全に台詞劇です。

いまおか そう。「こんなの撮ってたいくつじゃないだろうか?」という思いは少しあった。

――後半はひたすら台詞だけのシーンが続いて、音楽もありません。

いまおか そこがホンの面白いところだったしね。そういうホンだから、誤魔化してもしょうがない。意図としては台詞を全部オンで撮るっていう。オフにしないっていう。芝居のことも踏まえればもう少し誤魔化したほうが良かったのかもしれないけどね。だからシナリオに引っ張られるというのはあります。この前にやった『おじさん天国』は守屋(文雄)ってやつが書いたんだけど、守屋のホンはなんか余計なことがしたくなる(笑)。谷口さんのは余計なことをすれば変になっちゃう感じがちょっとあったですね。

――余計なことと言えば、監督は作品を撮るたびに映画から無駄が見事に払拭されていく印象があります。キャメラアングルも「ここしかない」という感じになってきているというか。

いまおか どうかな。俺、現場で見るのは芝居だけなんだよ。アングルはキャメラマンにまかせちゃう。カット割りはするけど、芝居がちゃんと成立していれば、どこからどう切り取ってもいいよって感じだから……。あまり考えてない。

――劇中、鮒吉の奥さんが亡くなりますが、臨終の場面はありませんでしたね。

いまおか 撮ったけど、どこかで見たことがあるようなシーンにしかならなかったんだよな。編集でつないでみたけど、うまくいかんかった。

――僕は臨終のシーンがなかったことで、あの世代にとっての「死」がかえって生々しく伝わった気がしたんです。淡々と扱っている分、逆に死の匂いが濃厚だなって。

いまおか うん。そうかもしれないね。

――どこかで見たシーンにしかならないってことでいうと、鮒吉が入院している友人を見舞う場面では愁嘆場を見事に回避しています。点滴を指して「ハブ。マングース。天敵(点滴)」ってギャグで処理してしまう。それがかえって悲しいという……。

いまおか でも病院ってそうじゃない? みんな無理してギャグいったりするじゃん。なんとなく。入院してる人を楽しませようとして頑張っちゃうんだよね。で、帰ったら「はぁ……」みたいな(笑)。リアリティという言葉でくくっちゃうとアレかもしれないけど、「あるある」ネタだよね。こういうちょっとしたことで、すっと入っていけるのってあると思うんだよ、そのシーンに。ちょっとしたことでいいと思うんだけど。

――仕上がりに対して谷口さんの感想は?

いまおか なんかね、見たときは「うーん」みたいな。「こんなはずでは」って感じだったけど(笑)、あとで手紙が来て「見直してみたら意外と面白かったです」(笑)。谷口さんはもともと高校の倫理の先生で、ソクラテスがどうのとか、そういうことはすごく詳しい。生活指導の先生だったしね(笑)。ピンクのシナリオ書いていいのかよって思うけど。

<キャスティングについて>

たそがれ――本編を見てしまうと、主人公の鮒吉は多賀勝一さん以外考えられません。彼に決まった経緯は?

いまおか 最初、下元史朗さん(『おじさん天国』)でやろうかとも考えたんだけど、スケジュールが合わなかったし、大阪で撮ると決まった時点で、キャスティングも関西方面でしたほうが効率がいいってことになって。(京都在住の)多賀さんに会ってみたら、明るい人で、子どもみたいな感じで面白いなと思って。シナリオのイメージではもっとガタイのいい、肉体派の感じだったんだけど、あまりそんなことを考えてもしょうがないっていうか。その役になればいいわけだから。

――ヒロインの並木橋靖子さんは?

いまおか なかなかいないんだよね、女優さん自体。年とって引退したりいなくなったりで。だからまずは裸になれる人って部分をクリアしないといけなかった。アダルトのほうで熟女モノ撮ってる人にいろいろ聞いて、オーディションして、最終的に並木橋さんに決めた。

――オーディションをしたということは一応、何人かの女優さんにお会いした?

いまおか 会った。それが「ありえねえよ……」って人ばっかり。

――なんですかそれは(笑)。

いまおか そこらのお婆ちゃん。すごいよ。もちろん脱ぐの前提なんだけど、「ええっ?」って人いるもんね。40代の人もいたし50代の人もいたし。80歳の人とかいるらしいけどね、伝説の人が。

――正直に言うと、「本当のお婆ちゃんが出てきたらどうしよう」って不安もあったんですよ。それが、はじめの同窓会のシーンで並木橋さんがフレームインするじゃないですか、白いスーツ着て。あのシーンで、「ああこれならいける」って(笑)。

いまおか (笑)。並木橋さん、演技はほぼ未経験だったけど必死にやっていたと思いますよ。決まったのがギリギリでインの数日前だったしね。衣装合わせもしてないもん、時間がなくて。見つからなかったら、清美さん(伊藤清美)に老けメイクして出てもらうつもりだった。でも最後には不思議と決まっていくんだね。

<いまおか家総出演のふるさとムービー>

――作品の舞台は監督のご実家がある堺市ということでいいんですか?

たそがれポスターいまおか うん。実家で合宿して、その近所でロケした。だから出てくるのは俺がちっちゃい頃から見慣れてる風景ばかり。最初と最後のほうに出てくる川は大和川といって、日本でいちばん汚い川として有名だった(笑)。よそで撮ったのは、奈良で撮った回想シーンの中学校と通天閣くらいかな。

――監督の実家で合宿したということですが、ご両親は監督がピンク映画を撮っていることは知ってるわけですよね?

いまおか 知ってるけど、具体的には何やってるのか知らなかったんじゃないかな。「あ、こんなことやってたの」みたいな驚きがあったと思うよ。スタッフに多賀さんと並木橋さん合せて十人ちょいで合宿したんだけど、大迷惑だよね(笑)。疲れ果ててたよ、うちの親は。洗面所の床が風呂の水でべちゃべちゃ濡れてるとか、ガレージが開けっぱなしだったとか、電気つけっぱなしだったとか、とりあえずぜんぶ俺に言ってくるわけよ。で、俺が助監督に「おまえよー、いい加減にしろよ!」って(笑)。変な構図だったなぁ。

――しかもご家族が総出演だった。

いまおか おやじがスナックの客で、おかんは煙草屋の留守番してる人。最初は出たくないっていってたよ。でも「人いないんだから頼むよ!」って。撮影に入ってからもこまかいキャストとかエキストラが決まらないんだよ。東京だったら知り合いのツテとかで集まるんだけど、実家だと集められないんだよね。

――ちなみに妹さんは?

いまおか 妹はスーパーでスカートめくられるセーラー服。喜んでたよ、「こういう機会がないと着られない」って(笑)。

――しかも妹さんの息子さんがスカートをめくる役でした(笑)。

いまおか 凄い嫌がってた(笑)。スカートめくり自体を嫌がってたね。いま小4かな。ちょっと恥ずかしい年頃なんだよね。だからこっちも「ほんっと、ほんっと頼むよォ!」ってお願いして(笑)。妹も「わたしだからいいでしょ!」っていっしょになって説得して(笑)。

――ビトさんの主題歌が良かったですね。

いまおか 最後に河内音頭が出てくるんで、「それっぽいのないですか」って頼んだの。

――アップテンポで、予想以上に明るい曲です。しんみりとは終わらせたくなかった?

いまおか まあシナリオがそういう終わり方だったからね。スカートめくって終わりなんで。「見終わって元気になればいいよね」って話は、谷口さんとはしてたんだよね。

――ピンク映画の客層って実は中高年の方が一番多いじゃないですか。『たそがれ』を作るときに、彼らに対して作るという意識はありましたか?

いまおか それはなかったんだけど、頭にふっとよぎるのはさ、ピンクの映画館に来る人って、ひまなんだよね。ひまつぶしするのにピンク映画館って優しい場所なんだよ。みんな席でタバコ吸ったりしてきったねぇんだけど、入れ替え制じゃないし、ピカピカじゃないし、CGも似合わない。「だからフィルムなんだよ!」って。ピンク映画はそういう場所でかかるものだって考えがまずはある。『たそがれ』にかかわらず。

――今後のご予定は?

いまおか 早く『つちんこ』やりたい。

――ありがとうございました。

取材/文:膳場岳人 撮影:直井卓俊(SPOTTED PRODUCTIONS)
膳場岳人による『たそがれ』評 :
男と女、65歳。まだそんなにたそがれてはいない!

たそがれ 2007年 日本
監督:いまおかしんじ 脚本:谷口晃
撮影:佐久間栄一
出演:多賀勝一,並木橋靖子,速水今日子,
吉岡研治,小谷可南子,福田善晴,高見国一
公式

2月16日(土)より
ポレポレ東中野にて
レイト&モーニングショー

おじさん天国
おじさん天国
かえるのうた
かえるのうた
たまもの
たまもの
今岡信治フィルムコレクション
今岡信治フィルムコレクション
2008/02/15/10:21 | トラックバック (0)
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