いまおかしんじ (映画監督)
映画『百日のセツナ 禁断の恋』について
2012年 9月29日(土)より1週間、池袋シネマロサにて公開
ピンク映画の巨匠・いまおかしんじ監督が、日独合作のピンク・ミュージカル『UNDERWATER LOVE ~おんなの河童~』(11)に続いて贈る純愛ファンタジーの『百日のセツナ 禁断の恋』が、「ラブ&エロス・シネマ・コレクション」で公開される。天真爛漫なヴァンパイア少女の成長をエッチに優しく描き、『河童』でいまおか作品を知った女性客にもぜひ観てほしい作品だ。初めてのアクション・シーンや王道エンターテインメント的なストーリーとも格闘しつつ、ほのかな「ラブ」と切ない「エロス」を見事に描いたいまおか監督に作品について伺った。(取材:深谷直子)
――海は重要な舞台になっていますが、ヴァンパイアが海から生まれてくるというのも珍しい設定ですよね。ちょっと人魚姫の要素が入っているような。
いまおか や~、生まれて100日で何かになるっていうことにも元ネタがあったんですよ。それもプロデューサーの意見なんですけど、横内謙介さんの『いとしの儚』っていう芝居があって、それは江戸時代の博打うちの話で、鬼と博打を打って鬼が負けるんですよ。鬼はスッカラカンになっちゃって、墓場で作った女をやるからこれで勘弁してくれって言って、しょうがねえなあって、博打うちが女を預かるんだけど、出来たてだから100日間のうちにセックスすると死んじゃうんだって。その設定をまんまパクってるんですけど(苦笑)。
――ホントですね(笑)。
いまおか それで、その女は墓場で生まれるんだけど、舞台だからどうとでも表現できるわけですよ。ゾンビみたいのが集まってきて、くるくる回ってスポットライトが当たったらもう女が立ってる、みたいな感じで。だけどそんなの映画ではできないから。いろいろ考えたんだけど、いずれにしても生まれるというのは難しいなと。で、海にしたんです。万物はすべて海から生まれる、みたいな感じで。
――割と素直な感じに。その元のお芝居、面白そうですね。日本の時代物でそんなファンタジーがあるんですね。
いまおか 割と名作中の名作で、何年かに1回ぐらいは再演されているみたいですよ。プロデューサーは何年か前に井川遥さんが主演のを観たそうです。それをそのまんまパクらせていただきました。横内さんが聞いたら怒ると思うんだけど(笑)。
――じゃあ切ない感じのラストもお芝居の通りなんですか。
いまおか そうそう。俺は本当は、「それでも歩き続ける」みたいな話をずっとやってきてるんで、ちょっとあのラストは自分の中で許しがたいものはあったんですけどね。
――ああ、今回はファンタジーではあるんですけど、シリアスでもありますよね。今までは唐突に歌うシーンが出てきたりもしていましたが、今回はそういうのも封印していますし。
いまおか うん、真面目ですね。
――いえ、真面目でもないと思いますけど(笑)。
いまおか 本当はワンシーン・ワンギャグっていうのが信条なんで、そういうのを入れたいんだけど、今回はあんまり入れられなかった。やっぱりストーリーが求めてくるものってあるんですよ。ラストもいろいろ考えたんだけど、「生ぬるいな、これに救いはいらんな」って。ギャグとかをもっとほしいっていうことを映画が要求してくれば入れるんだけど、今回は要求してこなかったってことです。
――とても物悲しくて、壊さないでこのまま行ってほしいなという感じだったのでいいと思いました。冒頭のシーンはギャグと言うか、シュールで強烈でしたよね。悪魔役を団時朗さんという正統派の俳優さんが演じていて、しかも女装で。
いまおか 悪魔の恰好ってどんなのだろうって言ってもいろいろじゃないですか。それでキャンディ・ミルキィちゃんっているじゃん?女装趣味のおじさんが。ああいうのでちょっとヘンに化粧とかしてたりしたら恐いんじゃないかって考えて(笑)。こういうの団さんやってくれるかなあって、それが心配だったんですけどね。「やー俺そういうの結構好きだよ」って言ってくれて嬉しかったです(笑)。
――かなり意表を突かれました。『おんなの河童』でも守屋(文雄)さんが演じる死神はワンピースを着ていましたよね。あれは女装ではないかもしれないですけど、変わった格好をさせたいというのがあるんですか?
いまおか そうそう。だって死神もどんな服を着ているかと思っていろいろ読んでもいろいろだから。悪魔もそうなんだけど、西洋の映画だったらキリスト教の感じで衣装が大体決まってくるけど、日本でやったときにしっくりこないんだよね。
――ああ、元々違和感があると。ヴァンパイアものってもう出来上がったイメージがある気がしますが、囚われずいろいろ試行錯誤されているんですね。
いまおか そうですね、どうしていいか、頭を抱えました。いわゆるアクションと言うか、バンバン人を殺していくっていうのもやったことないし、どうやったらいいかなあって。西村映造の映画とかもいろいろ観て、スプラッター系に振ることもできるなって考えたんだけど。でもそこはあんまりえげつなくはやらなかったね。ただ、普通こういう規模の映画って、アパートがあって仕事場があってラブホテルがあって街があって、とかすごく身の回りのことで話が作られていくんだけど、今回は嘘の場所と言うか、リアリティのない場所で話を作っていくことにしたんだよね。教会なんかも普段あまり行かないような場所だし、ヴァンパイアの住処も潰れたクラブみたいなところにしちゃったりとか、普通の場所が1コもないんですよ。
――あのクラブはだだっ広くて生活感のないようなところで面白かったですね。
いまおか 考えたんだよね。だってヴァンパイアがどこに住む? アパートなんかは借りてないだろうし、廃屋みたいなところかなあとか。ヴァンパイアの日常とかも考えれば考えるほど分かんなくなっていくって言うか。 昼間寝てて夜動くっていうのは一つあるだろう、人間の血を吸うっていうのも一つあるだろう、でもその他は何やってるんだ?って困ったんですよ。だけどやっぱり人間から離れたほうがいいんじゃないかっていうふうに思って夜行性の動物に近付けようとして芝居の組み立てをしましたね。本当は空を飛んだり壁をビューっと登ったりものすごく力が強かったり、CGとかいっぱい使えればどうとでもできるんだろうけど、アナログな感じでできることはやりました。
――アナログのあたたかさやシュールさが画としてきれいだなあと思いました。『おんなの河童』とやっぱり近いところもあるように思いましたが、『おんなの河童』で組んだ(撮影の)クリストファー・ドイルさんから受けた影響って何かありますか?
いまおか あんまりないですね(笑)。あんまりないんだけど、ドイルさんってテストが嫌いなんですよ。準備して固めていってやるっていう方ではなくて、その場のノリだとか、明かりがいいからやるだとか、その影響はあると思いますね。あんまり芝居を練っていかずに大体のところで回しちゃったりとか、そういうところはありましたね。
- (著):横内謙介
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- 監督:いまおかしんじ
- 出演:正木佐和, 梅澤嘉朗, 成田愛, 吉岡睦雄, 守屋文雄
- 発売日:2012/05/26
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