80年代に山川直人の「SO-WHAT」という田舎のバンド少年を描いた隠れた名作があるのだけどソレを越えたと思った。出てくるキャラクターがいずれもおよそ俳優とは程遠い顔なのが素晴らしい。
深谷市ならぬ「福谷市」という架空の埼玉の町が舞台。主人公は仲間たち六人と『SHO-GUN』というラップグループを組んでいるがメンバー一枚岩というわけではない。この狭い町でヒップホップなどに興味を持ってるのはこのぐらいの人数しかいないので仕方なく組んでる。そのあたりの空気感にまず感心した。
主人公の加賀谷(駒木根隆介)はデブのニートで一応リーダーらしいのだがメンバーをまとめきれない。どちらかというと気が弱く引きこもりがち。町の不良にボコられてもその怒りをリリック(詞)にしたりしない。AV女優になってしまった好きだった女の子(みひろ好演!)が町に戻ってきてイロイロと加賀谷にちょっかいを出すけどその悶々たる思いをリリックに出来ない。社会に対する怒りのメッセージをリリックにするため新聞を切り抜いたりするのだけど書いてる中味が理解できない。それでもバンドの方針を「東海岸風にするか、西海岸風にするか」なんかを悩んだりする。埼玉に海はないのに!
メンバーのなかにTOM(水澤伸吾)という親友がいるが、おっぱいパブでバイトするコイツはほとんど自己主張できず歩道橋の上からトラックに向けてBB弾を撃ちこむことで憂さを晴らす加賀谷に輪を掛けたダメ人間。TOMの後輩のマイティは実家の農家からブロッコリー畑を譲ってもらってるが中国からの研修生・李クン(杉山彦々)にまかせっきり。デカいことばかり言うが中身がまったくないお調子者。
映画はその三人の日常を淡々とワンシーンワンカットのカメラが切り取ってゆく。藤原章の「ラッパー慕情」に出てくるダメ人間をひたすらリアルに描いてるようでもある。
彼ら三人があろうことか市の教育委員会主催の「若者文化を考える」研修会に招かれヘタクソなラップを披露してドン引きされる長回しが最高。そのティーチインで市の職員や議員や教育委員会やJCに『査問』されるのだが、その連中がひたすらリアルなのに感心。耐えられなくなったTOMが思わず「いま、株の勉強してます」と咄嗟の嘘をつくのがおかしい。
ま、当然のようにバンドは解散してしまうのだけど、ラストシーン焼肉屋でバイトをはじめた加賀谷と建設作業員になったTOMが客として再会し、ふたりがラップで罵りあう長い長いシーンが「プライド」のクライマックスを思わせて泣いてしまった。彼らはようやく自分の言葉を見つけたのだ。
「遭難フリーター」じゃないけど底辺からじゃないと格差社会は描けない。別にインディズを身贔屓してるわけじゃないけど「今、僕は」といいコレといい、メジャーがハリウッドも含めてロクな作品がないから輝いて見えてしまう。ちゃんとイマが見えてくる。
Vシネマが淘汰された今だからこそ作られるべき映画はあるに違いない。
俺はそちら側につきたい!
(2009.3.21)
SRサイタマノラッパー 2008年 日本
脚本・監督:入江悠 撮影:三村和弘 音楽:岩崎太整
出演:駒木根隆介,みひろ,水澤紳吾,奥野瑛太,杉山彦々,益成竜也
3月14日(土)~3月27日(金)、
池袋シネマ・ロサにて二週間限定レイトショー!以降順次全国公開
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