4月2日(金)『掌の小説』
坪川拓史監督、三宅伸行監督、高橋雄弥監督トークショーレポート
坪川拓史監督
3月27日(土)からユーロスペースで公開中の映画『掌の小説』は、川端康成の同名掌編小説集の中から選んだ作品を、坪川拓史、三宅伸行、岸本司、高橋雄弥という気鋭の四監督が映像化に挑んだオムニバス映画だ。
ユーロスペースでは公開期間中の毎週金曜最終上映後に、各監督に製作秘話などを語ってもらうトークショーを開催している。初回となる4月2日は、第一話「笑わぬ男」の岸本司監督に話を聞かせてもらう予定だったが、沖縄在住の岸本監督の都合が合わなかったため、坪川監督、三宅監督、高橋監督によるトークショーとなった。なお、今回の進行役にはINTROで坪川監督と三宅監督にインタビューを行った鎌田絢也が抜擢され、リラックスした雰囲気の中で三監督から様々なトークを引き出していた。
まず、プロデューサーも務める坪川監督が、122篇からなる原作の中から「笑わぬ男」、「死面(デスマスク)」、「有難う」、「朝の爪」、「日本人アンナ」、「不死」の六作(第一話「笑わぬ男」は「死面(デスマスク)」、第二話「有難う」は「朝の爪」と、それぞれ表題作以外の作品が原作に加えられている)が選ばれた経緯について、「最初から四話に『不死』を置くことを決めていて、残りの三話を各監督で好きに選んだ」と明かした。中でも岸本監督は最初からCGありきで撮影プランを錬っていたそうで、原作で町が燃えている情景をCGで再現したかったらしい。メインロケハンでも「今回はCG使えないんです」と伝えていたにもかかわらず、「あの辺ちょっと燃やしてみたいなあ……」と呟くなど坪川監督を大いに弱らせたという。
三宅伸行監督ただ、「4つの短編が少しずつリンクし合って一本の映画のような仕上がりにする」という基本コンセプトを守るために、当初のプランからは大きく変わった部分も少なくないとのことで、これに関しては高橋監督も「撮影は全て想定した通りにはいかないものなので、泣く泣く諦めた部分もあった」と述懐していた。また、撮影の主要部分は三年前に撮り終えていたそうで、「映像の中には二年前に撮影した桜のワンカットも含まれている」と坪川監督。その話を受けて、三宅監督も二年前に撮影した桜のワンカットの話を披露。実は二話で見られる桜の映りが編集時に思いの外小さかったため、桜のクローズアップだけを撮りたいと思って二年後に美術さんに撮影用の桜の花びらをわざわざ用意してもらったのだという。にもかかわらず、たまたま立ち寄った坪川監督の自宅付近できれいな桜を発見した三宅監督は、「こっちの桜でいいじゃん!」とばかりに撮影してしまい、結局美術さんが用意してくれた桜を使わずじまいになって申し訳ないことをした、と笑いながら詫びていた。
現場では高橋監督が他の三監督の助監督を担当されていたとのことで、「三人の王様」を抱えて大変な現場だったのでは?という質問に対して、「監督というのは現場でわがままを言うのが仕事(=わがままを言ってくれないと作品が良くならない)なので、それをフォローするのが自分の仕事だった」とさらりと答えた高橋監督も、「自分が監督をしている時が一番大変だった」「監督をしながら他の作業もしなければならず、なかなか自分の作品に没頭できなかったことが記憶に残っている」と打ち明けていた。現場では他にも様々な作業分担が行われていて、坪川監督は「午前中は監督として指示を出していたのに、午後には美術さんに蹴られていた」と述懐して笑いを誘っていた。
また、作品プロデューサーを兼務する坪川監督、助監督を兼務する高橋監督に対して、三宅監督は特に兼務はしなかったそう。それでも撮影の技術アシスタントをしていた経験を活かして、レールを敷いたりできることを色々やっていたとのことで、坪川監督も「『クレーンぎこちないよ!』と言ったら『すみません!』と三宅監督が現れた」と現場での思い出を語っていた。
高橋雄弥監督本作は「桜」を共通モティーフにした映画だが、四作品の中で最も強い印象を残す四話の桜を見つけたのは三宅監督だったという秘話も明かされた。暖冬の影響で撮影を予定していた桜がどんどん散っていってしまったため、桜捜しには相当苦労させられたとのことだったが、三宅監督が現地で見つけた時にはその余りの存在感に「本当にびっくりして感動してしまった」そう。様々な桜が映し出されている本作の中でも、四話で見事な咲き誇りを見せる桜は屈指の見どころの一つと言えそうだ。
客席の笑いを誘いながら製作時の裏話が次々と明かされた今回は、監督三人の仲の良さと連帯感の強さが印象に残るトークショーだった。今後、4月9日(金)は三宅監督が第2話「有難う」の撮影秘話を、4月16日(金)は坪川監督が第3話「日本人アンナ」の撮影秘話を、4月23日は高橋監督に加えて坪川監督と三宅監督の三人で、第4話「不死」撮影秘話を中心にしたトークショーが予定されている。特に原作者川端康成の命日にあたる4月16日(金)は、特別料金1000円で鑑賞することができるとのこと。世界に誇る文豪を偲びにユーロスペースに足を運んでみてはいかがだろうか。
( 取材:仙道勇人 )
原作:川端康成(新潮文庫) 監督:坪川拓史,三宅伸行,岸本司,高橋雄弥
プロデューサー:浅野博貴,坪川拓史,小林洋一 撮影:板垣幸秀,八重樫肇春 照明:田中利夫
録音:山方浩 美術:太田喜久夫,井上心平 衣装:宮本まさ江 メイク:清水ちえこ 特機:枡井正美
音楽:関島岳郎 制作:T-artist 主題歌:「四季」Kagrra,(KINGRECOREDS)
出演:吹越満,夏生ゆうな,寉岡萌希,中村麻美,長谷川朝晴,福士誠治,清宮リザ,菜葉菜,香椎由宇,
奥村公延,小松政夫,コージー冨田,星ようこ,森下哲夫,内田春菊,内田紳一郎,有川マコト,三浦佳子
2010年/日本/80 分/カラー&モノクロ/35mm/ステレオ
製作:「掌の小説」製作委員会 配給:エースデュース 配給協力:グアパ・グアポ
(C)「掌の小説」製作委員会
2010年3月27日(土)より、ユーロスペースにて
モーニング&レイトショー他全国順次公開
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