インタビュー
BUNGO~ささやかな欲望~/熊切和嘉監督

熊切 和嘉 (映画監督)

映画「BUNGO~ささやかな欲望~」/『人妻』について

公式

2012年 9月29日(土)より、角川シネマ有楽町ほか全国公開!

宮沢賢治、坂口安吾など昭和の文豪の傑作短篇を、6人の気鋭監督と旬の俳優たちが映像化した贅沢なオムニバス『BUNGO~ささやかな欲望~』がこの秋公開される。30分に凝縮され新たな息を吹き込まれた名作の世界がいずれも見事な好企画だが、中でも永井荷風の艶っぽい佳作を、ここ最近骨太な原作もので気を吐く熊切和嘉監督が大胆な脚色で見せる『人妻』が出色の面白さだ。谷村美月、大西信満という正統派の俳優が色めいた世界で伸びやかに遊び、端正ながらも手触りには熊切監督らしいパンクを感じる。大西さんを2度取材した筆者としては、今までの作品で硬軟自在に演じ分けてきた大西さんの多面性を活かして新しい主人公像を創り上げていることに大いに感心したのだが、お話を伺うとやはりこだわりのキャスティングだったとのこと。素顔の大西さんのお話に笑わせていただきつつ、昭和の映画も愛する監督が、今その時代を撮るために取った果敢なアプローチを興味深く伺った。ぜひ劇場で巧みな仕掛けに驚きながら日本文学の世界を愉しんでほしい。(取材:深谷直子

熊切和嘉 1974年、北海道生まれ。大阪芸術大学の卒業制作『鬼畜大宴会』(98)が、第20回ぴあフィルムフェスティバルにて準グランプリ、第28回イタリア・タオルミナ国際映画祭グランプリを受賞。また、第48回ベルリン国際映画祭パノラマ部門正式招待他、10カ国以上の国際映画祭に招待される。その後、『空の穴』(01)、『アンテナ』(03)、『青春☆金属バット』(06)、『フリージア』(07)、『ノン子36歳(家事手伝い)』(08)、『海炭市叙景』(10) 、『莫逆家族 バクギャクファミーリア』(12)など、次々と話題作を発表。国内外から注目を集める若手映画監督。

熊切和嘉監督1――『莫逆家族 バクギャクファミーリア』(12)が公開されたばかりでお忙しいところありがとうございます。このあと公開になるこの『人妻』はまたスタイルの全然違う作品ですが、すごく面白かったです。

熊切 ありがとうございます。

――先に原作も読んでいたんですが、主人公のキャラクターを大胆に変えていることに驚きました。この原作は永井荷風の作品の中でそんなに有名なものではないですよね。映画の公開に合わせて出版された短篇集(『BUNGO 文豪短篇傑作選』角川文庫)に入っていますが、私が読みたいと思ったときはこれがまだなくて探すのに苦労したんです。監督はこの原作をどのように選ばれたんですか?

熊切 僕も全然知らなかったです。この『BUNGO』という企画で僕は前回(テレビドラマ「BUNGO 日本文学シネマ」・2010)も撮っていて、それで早い段階で声をかけていただき原作選びから参加していたんですが、最初僕が谷崎潤一郎の『少年』という、少年がマゾヒズムに目覚める作品をやりたいと言ったら、さすがにダメ出しが出て(笑)。面白いけどやったら中途半端に制約を付けることになるから別のものにしよう、というところでプロデューサーが『人妻』を持ってきてくれて、読んだらちょっと面白そうだということで。まずタイトルがいいなあと思ったんですよね。

――かなり色っぽい感じですよね。内容も下宿先の奥さんに悶々と片想いする男の心情を悩ましく描くものですが、終盤の事件以外特に大きなドラマが起こるものではないのに、この映画では男の葛藤そのものを映画的に表現しているのがすごく面白いと思いました。

熊切 そうですね、特殊な手法を試みました。

――主人公の人格が分裂してしまっていますが、この原作からどうしてこういうことを思い付かれたんですか?

熊切 これは脚本家のアイディアですね。原作は男の心の声で物語っていますが、モノローグをずっとやってもしょうがないのでどうしようかなと思っていたら、脚本家が「煩悩と対話する男の話」というアイディアを言ってて、それは面白いんじゃないかなと。

――監督の作品ではキャスティングにもいつも意外性がありますよね。ミュージシャンとかバラエティの方とか俳優ではない方を重要な役に起用することも多いですし、今回のように俳優さんでも全然イメージが違う方をキャスティングすることもあって。まずヒロインの年子役の谷村美月さんは『海炭市叙景』(10)に引き続きの出演ですが、非常に色気のある役で、こういう演技は初めて見た気がしました。

熊切 何人か候補はいた中で、谷村さんは年齢的に若いかなというところもあったんですが、最近すごく色気が出てきていますし、お芝居の部分で抜群に信頼していたのでいけるんじゃないかなと。あとはせっかく時代物をやれるというところで、僕は意外と成瀬巳喜男の映画が好きだったりするんですが、高峰秀子風の髪型なんかさせたら似合いそうだなと思って。高峰秀子か原節子か、というニュアンスを美月ちゃんにやってもらいたいなあと。

BUNGO~ささやかな欲望~『人妻』場面1 BUNGO~ささやかな欲望~『人妻』場面2――今までの谷村さんのイメージというと透明感があって、ちょっと硬さが残ると言うか緊張感のあるような役が多かったと思うんですよね。でも今回はあどけない感じなのに男を翻弄してしまうという色っぽい役をとても自然に演じていて新鮮でした。最近の谷村さんのインタビューでこの作品のことを語っているものがあって、やっぱり最初は苦手なタイプの役だと思っていたそうなのですが、監督から「美月ちゃんならできる」と言われて演っているうちに、言えなかった台詞も自然に言えていたというのを、女優さんってすごいなあと思いながら読みました。やっぱり演出はあまり細かく指示を出すような感じではなかったんですか?

熊切 何となくは話したと思うんですけど。読み合わせもしてこういう感じにしてください、とか。前回の『海炭市』のときは素直にそのまま立ってて、というニュアンスだったんですよね。相手も竹原ピストルくんで職業俳優ではない人ですから、それをすごく心地よく演ってくれていて。それに比べると今回のはちょっと作ってもらわなきゃっていう部分はありましたから。女の方は意識してるのか意識してないのか分からないけど、男の方はそんな態度に勝手に空回りしていく、そういう眼差しをやってというようなことは言いましたね。

――無防備な色気を見事に醸し出していましたね。監督の以前のインタビューで好きな女優さんに谷村さんを挙げていたことがありましたが、どういう部分に魅力を感じるんですか?

熊切 カナリア』(04)の頃から凄味がある方だなと思っていましたね。あの若さにして芝居をしたときの凄味が。で、実際『海炭市』をやってみて圧倒的によかったんですよね。

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BUNGO~ささやかな欲望~ 2012年/日本/カラー/ビスタ/5.1ch
「見つめられる淑女たち」 95分
『注文の多い料理店』 原作:宮沢賢治 監督:冨永昌敬 脚本:菅野友恵 キャスト:石原さとみ 宮迫博之
『乳房』 原作:三浦哲郎 監督:西海謙一郎 脚本:岨手由貴子 キャスト:水崎綾女 影山樹生弥
『人妻』 原作:永井荷風 監督:熊切和嘉 脚本:山田太郎 キャスト:谷村美月 大西信満
「告白する紳士たち」 108分
『鮨』 原作:岡本かの子 監督:関根光才 脚本:大森寿美男 キャスト:橋本愛 リリー・フランキー
『握った手』 原作:坂口安吾 監督:山下敦弘 脚本:向井康介 キャスト:山田孝之 成海璃子
『幸福の彼方』 原作:林芙美子 監督:谷口正晃 脚本:鎌田敏夫 キャスト:波瑠 三浦貴大
配給:角川映画 © 「BUNGO ささやかな欲望」製作委員会
公式

2012年 9月29日(土)より、角川シネマ有楽町ほか全国公開!

BUNGO 文豪短篇傑作選 (角川文庫)
BUNGO 文豪短篇傑作選 (角川文庫)
  • (著):宮沢賢治,三浦哲郎,永井荷風,岡本かの子,坂口安吾,林芙美子 ほか
  • 映画原作
  • 発売日:2012/8/25
  • Amazon で詳細を見る
海炭市叙景 DVD-BOX
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  • 監督:熊切和嘉
  • 出演:加瀬亮, 谷村美月, 竹原ピストル, 小林薫, 南果歩
  • 発売日:2011/11/03
  • おすすめ度:おすすめ度5.0
  • Amazon で詳細を見る

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