速水 萌巴 (監督)
映画『クシナ』について【3/4】
2020年7月24日(金)よりアップリンク渋谷ほかにてロードショー
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――集落に人類学者の蒼子がやってくることで彼らの関係に変化が生まれます。監督は人類学を勉強したことがあるのですか?
速水 立命館大学の映像学部の学部長が映像人類学を専門としていて、その先生の講義を取っていました。すごく楽しかったので、それを反映させていますね。私が現代に対して感じる疑問や不安として、世の中が激動する中で、最近のブラック・ライヴズ・マターやミートゥーなど、人種差別や性差別をなくそうという動きが出てきているのですが、「差別はダメ。みんな平等だよ、同じ人間だよ」みたいな単純な思考にいきがちで、もちろん権利は平等にあるべきですが、個性は残すべきだと思っていて。差別を受ける人たちが生んできた文化というのもあって、それをなかったものにしてはいけない、尊重するべきだし残す価値があるものだと思います。私たち人間はどこに進んでいっているんだろう?という不安があるんですよね。小さい集団の価値に目を向けていけたらなと思います。
――蒼子は理想家ですよね。人類学の研究にも明確なビジョンを持っています。クリスチャンであることが厳格さの一因だと思いますが、集落での出来事を通して彼女も変化します。
速水 蒼子は、直接的には描いていないですけど、自分の恋愛対象がまだわかっていない人で、もしかしたら少女が好きなのかもしれないというのもあるんです。クリスチャンとして育てられてきた中で、自分は同性愛者なのか?という葛藤があり、また、それがクリスチャンには認められていないということでの葛藤もあり、自分が生きやすい世界を探るために人類学を勉強しているという設定でキャラクター作りをしています。キャラクターそれぞれに私の要素が散りばめられています。蒼子が同性愛者であるというのは、私は今は男性と結婚しているんですけど、大学生のとき、女性といる方が緊張したりとか、この気持ちはなんなんだろう?と思うことが多々あって、そういう経験を投影しています。
――蒼子役の稲本弥生さんと、クシナ役の郁美カデールさんは、顔がどことなく似ていて、惹かれ合うのがわかるような気がしました。お二人ともとても端正ですね。
速水 小野みゆきさんが、「稲本さんの顔は定規で描けるよね?」と言っていましたね(笑)。稲本さんとは他の現場でご一緒したことがあって、もちろんすごく綺麗な方で憧れもあるんですけど、すごく天然で天才肌で、お茶目なところがありつつすごく考えているんです。そのギャップも私は好きで、理想ですね。
――郁美さんが演じたクシナは小悪魔的というか。すごく純粋だけど、無色透明で清らかというのではなく、どうとでも染まってしまう感じがしました。子供って無敵な存在だなと思いました。
速水 クシナのキャラクターを作るときに参考にしたのは、手塚治虫の『奇子』という漫画です。奇子は地下室に幽閉されていて、教養もなければ貞操観念もない、誰とでもやっちゃうような子なんですよね。あと、この映画を作るちょっと前に『マジカル・ガール 』(14)を観ていて、その主人公のように、まわりにいる人をどんどんおかしくしていってしまうファム・ファタール的なキャラクターを作りたいなと思っていました。そこに私をどう投影したかというと純粋さと外への好奇心、ただそれだけです。
――クシナは外の世界をまったく知らず、母親が教えてこなかったことを教えてくれる蒼子に夢中になって、どんどん吸収していきますね。
速水 そうですね、それは私が大学に入ってから体験したことで。いろんな人に出会って、いろんな文化を教えてもらって、それがすごく刺激的で。でもそれを母は全然認めてくれず、その理由が全然わからなかったんです。
――ただ、映画の中で、クシナとカグウはそこまで対立していないように感じました。カグウにはオニクマの束縛から逃れたい気持ちがあって、娘には同じ思いをさせまいという意識が強く働いているのかなと。
速水 カグウはクシナを自分の子供だとも思っていない、あまり母親の自覚がない、という状態から物語をスタートさせようと思っていました。父親がいなくて、女性だけの集落という特殊な環境で育つと、クシナも母親という概念はたぶんあまり教えられてこなかったと思うんですよね。オニクマが両方愛して、姉妹のように育てていたんです。
――確かに姉妹のようでした。カグウを演じた廣田朋菜さんは、大きな目が印象的で、少女の雰囲気がありますね。
速水 そうですね。初めて廣田さんに会ったのは他の作品のオーディションでした。そのときの役柄のイメージが残っていて私はてっきりご本人も勝ち気な性格の方なのかなと思っていて。低予算の作品から大きな作品までいろいろな現場を経験されている女優さんなので、ちょっと緊張しながら現場に迎えました。廣田さんは、お芝居に入るとスッと目から光がなくなるんですよね。で、お芝居が終わって普通に喋っていると、ガラスのようにツルッとしたご自分の目に戻るんですよ。これでカグウをやってほしいと思って、廣田さんと小野さんと私とで何回かリハーサルをして、ああいう幼い感じのカグウを一緒に作りました。親でもないし子でもないというカグウの像を作るのは本当に難しかったです。
――小野みゆきさんもとても映画に入れ込んでくれたようですね。小野さんの出演が叶ったのはすごいことだと思うんですけど、どうやってお声をかけたんですか?
速水 ネットで画像検索をしているときに、すごくロマンに溢れる小野さんの写真を見つけて、メロメロになってしまって(笑)。オファーしようと思ってオスカープロモーションに連絡をしたら、受けてくださったのが副社長さんで、すごく話が早かったんですよね、「じゃあ脚本を持っておいで」みたいな感じがあって。それで表参道にある別世界のようなオスカーに出かけていって(笑)、脚本を渡したらすぐに小野さんに届けてくださって、その日も私はロケハンをしていたんですけど、夕方には小野さんから「出ます」というお返事をいただきました。なんで受けてくれたんでしょうね(笑)? 小野さんも脚本を面白がってくださったみたいで、「これは私しかできないでしょう?」のような(笑)。
――(笑)。本当にそう思いました。素晴らしいキャストが揃いましたね。
速水 はい。私自身がそんなに映画を撮った経験もないのにみなさんに出ていただくわけで、身が引き締まりました。
出演:郁美カデール,廣田朋菜,稲本弥生,小沼傑,佐伯美波,藤原絵里,鏑木悠利,尾形美香,紅露綾,
藤井正子,うみゆし,奥居元雅,田村幸太,小野みゆき
監督・脚本・編集・衣装・美術:速水萌巴
撮影:村松良 撮影助手:西岡徹,岩田拓磨 照明:平野礼 照明助手:森田亮 録音:佐藤美潮
整音:大関奈緒 音楽:hakobune ヘアメイク:林美穂,緋田真美子 助監督:堀田彩未,佐近圭太郎,宮本佳奈
制作協力:村上玲,小出昌輝 協力プロデューサー:汐田海平
配給宣伝:アルミード ©ATELIER KUSHINA
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