大森立嗣監督『ぼっちゃん』は秋葉原無差別殺傷事件という衝撃的な事件をモチーフとし、いわゆるスターの出演もないが、異端視されがちな犯罪者を閉塞した社会で小さな出会いに喜び傷付く若者として描き、同じ視点から事件を再び考えさせる作品となって公開以来大きな反響を呼んでいる。監督やキャストをはじめとする人々が、作品と関わったことで芽生えた強い責任感のもとに草の根的な宣伝活動を行っていることも注目すべき点で、こうしたトークイベントがたびたび開催されるほか、公開を迎えてからもチラシ配りなどに精力的だ。この日も劇場前で水澤さんからチラシを手渡された。
一方、6月22日に公開が決まっている『さよなら渓谷』は、レイプ事件の被害者と加害者の愛憎を描く吉田修一の同名小説の映画化である。『ぼっちゃん』とは成り立ちも作風も全く異なるが、事件の当事者の心理を捉えようとする試みには通じるものがあり、撮影も去年続けて行われた兄弟のような2作品と言える。大森監督とは友人同士で『ぼっちゃん』にも強い感銘を受けたことから応援に駆け付けた大西さんは、水澤さんともに「生身の人間」として役に取り組んだ体験を語り、興味深いイベントとなった。監督が大西さんとの関係を説明することからトークは始まった。

大森　大西くんとは、僕が荒戸源次郎監督の助監督をしているときに『赤目四十八瀧心中未遂』(03)の現場で初めて会いました。その後、僕のデビュー作の『ゲルマニウムの夜』(05)の現場で陰ながらいろいろ助けていただいたという付き合いがあって、『さよなら渓谷』はその頃から一緒にやりたい企画でした。

大西　僕もデビュー前で大森監督も助監督というお互い何者でもない時代からの友人で、いつか成長してそういう立場になったら一緒に仕事をやりたいね、という話をよくしていました。数年前に、出版されたばかりの『さよなら渓谷』に二人とも夢中になり、「これをもしできたらいいね」と飲みの席で夢物語のように語っていました。その後、大森監督が『ゲルマニウムの夜』からいろいろ撮り、自分も俳優として出演を重ねていく中で「作品を撮っていい」という機会を得て、真っ先に「大森監督で『さよなら渓谷』をやりたい」と言って実現した企画です。

大森　大西くんと水澤は何で友達なの？

水澤　友達？　去年の大森さんの家での忘年会でお会いしたんですけど、大西さんは忘れているんじゃないかな……。シラフで会うのは初めてです。この前(飲みを)ご一緒させていただいたときは最後のお店で「友達になろうぜ」と言ってくれていたんですけど、覚えていらっしゃらないですよね？

水澤紳吾さん大西　多分言ったんでしょうけど……。この映画って、安易に友達と言ってしまうとどうなのかな、という映画ですよね(苦笑)。

大森　(笑)。つらい映画だよね。他の映画も日本映画はそういうのが多くて、みんな生きるのがつらいんだなって思うね。昨日トークに出てもらったいまおかしんじさんの映画(『集まった人たち』)を「シネマ☆インパクト」で見させてもらったんだけど、いまおかさんはセックスというか肉体の触れ合いで希望を見出そうとして「セックス、セックス」って言って大団円で終わるというすごい映画で、なんかみんなあがいてやってるなという気がしましたね。

水澤　いまおかさんの昨日のトークだと、登場人物に底辺の生きづらい人もいて、梶と少し似ているなと思ったのは、ものすごいロリコンの男の人が「俺小さい女の子が大好きなんだよ、どうすればいいんだ」って言っていて、それがもし切実な願いだとしたらやっぱりいろいろ感じるなと思いました。