加藤 行宏 (監督)
映画『アイドル・イズ・デッド-ノンちゃんのプロパガンダ大戦争-』について
2014年1月11日(土)より、テアトル新宿にてレイトショー他全国順次公開
新鋭・加藤行宏監督によるアイドル・グループBiS(新生アイドル研究会)主演映画の続編『アイドル・イズ・デッド-ノンちゃんのプロパガンダ大戦争-』が間もなく公開を迎える。前作ではやむなき事情からアイドルを名乗ることになった女子たちがアイドルの研究を積みファンを掴むまでをホラーとアクションを交えて描き、BiSの過激で破天荒な魅力に迫りながら感動を呼ぶ痛快な作品になっていた。その後BiSはメジャー・デビューを果たして大ブレイク。絶頂の最中2014年に解散することを宣言し、アイドルの理想形を体現してしまうつもりらしい。そんな中作られたこの続編は、原発推進アイドルが大衆を操る恐怖のパラレル・ワールドをブラック・ユーモアたっぷりに描く前作以上の意欲作となり、アイドル界と日本映画界の殻を壊そうという二者のタッグは最強だとまたも思い知らされた。加藤監督にBiSの魅力を絶妙に引き出すストーリー作りや撮影法、原発問題というテーマに取り組んだ理由を語っていただいた。(取材:深谷直子)
――ロケ地について伺いたいのですが、『人の善意を骨の髄まで吸い尽くす女』(09)もそうでしたし、深谷市での撮影にこだわっているのかなと思うんですけど、何か深谷の魅力というのがあるんでしょうか?
加藤 深谷じゃないと最後のライヴ・シーンはできなかったですね。
――ああいうライヴハウスがあるんですか?
加藤 いや、あれは体育館です。体育館をライヴハウスに見せているんですけど、そういう場所って東京ではないですから。映画で成り立っている町ゆえできたことです。深谷の人ありきでやれたことですね。
――深谷の映画に対する懐の深さを頼りにされているんですね。私は鉄塔の風景もすごいなあと思って。今までの作品も観直すと鉄塔が遠くに映っているんですよね。でも今回は鉄塔を大迫力で撮っていて、深谷ってこういう町なんだなあと初めて意識しました。
加藤 群馬県と埼玉県の県境は鉄塔だらけです。電気の象徴として鉄塔を結構撮りましたね。
――でもそれで深谷で撮ろうとしたわけではなくて、たまたまということなんですね。
加藤 そうですね、電気の映画を撮ることになったときに「鉄塔撮ろうや」っていうことになって、後付けです。
――たまたまにしてもすごく効果的ですよね。鉄塔をバックにゴリゴリの重い曲を歌うオープニングもカッコよかったんですが、作品の中で使っている曲はBiSの元々ある曲から選んでいるんですか?
加藤 そうですね、既成の曲の中からお話に合っている曲を、まあそんなにたくさんは使えないんですけど厳選して使いました。
――最後のライヴ・シーンの曲もすごくよかったですね。パンクっぽい曲で。
加藤 ああ、「レリビ」ですか?「レリビ」は結構最後の最後まで使うかどうかモメましたね。歌詞が英語なので。でも「レリビ」の日本語訳の歌詞を見て、内容はすごくいいから字幕で使ったらエンドロールとして成り立つのかなあ、みたいな感じで。だから日本語の歌詞の曲とか新曲を使うとかいろんなパターンを考えて、最後の最後に行き着いたという感じですね。
――あの大団円に本当に合っていましたよね。サークルモッシュですごく盛り上がって。
加藤 サークルモッシュとかお客さんのパフォーマンスがいちばん盛り上がる曲は何ですか?って訊いたら「レリビ」だったから、いちばん盛り上がるんだったらそれを活かそうよっていう形で決めましたね。
――最後は監督が「カット、カット」と言っても収まらないというのがドキュメンタリーのようで。すごくいい笑顔だらけで本当の興奮が伝わりました。
BiS / "レリビ" Music Video 加藤 普通はやっぱり撮影するんだったら撮影のカット割り、段取りというのを決めるべきものなんですよ。だけど、「じゃあ『レリビ』をラストでやるから、どういうふうに動くかっていうのを決めよう?」ってBiSのメンバーに相談したら、「『レリビ』は危険ですよ」ってボソッと言われて。「段取りを決めてもそのとおりになるか分からないです」って。で、「ああ、じゃあ段取りなしで行こう」と。
――え、それはすごいですね。私もあれは「BiSのライヴってこんなに激しいのか」と驚きながら観ていたんですが、実際のライヴでもあんなふうにサークルモッシュとかが起こるんですか?
加藤 「レリビ」は大きなところではできないらしいんですよね、国技館とかゼップとか。小さなところで小さな輪を作って回ってるというのが普通みたいなんですけど、それを「映画ならではのことをやろう」と。いつもどおりのライヴのパフォーマンスじゃなくて、今回は映画なんだから映画でできることをやろうよ、と。だから回るのも、普段だったら危険だからやらないようにしているんだろうけど、パーツパーツで「ここだけは」という段取りを決めて、「ここはこの位置で撮りたいからちゃんとやってね」っていうのをお客さんとBiSとで、まあ口約束(笑)。リハーサルができませんから口約束だけで、「最後回ってね」って言うと「分かりました~」って。で、本番を迎えて、何が起こるか分からないからカメラマンももう本当にビクビクしながら、「回った~!」って言ってそれを6カメで撮ったのかな。だからよく見るとカメラマンも普通に映ってるんですけど、それも関係なしに撮るべきところをちゃんと押さえて。撮る前まではちゃんと撮れるかどうか分からない、運がよければそれでよし、という感じでしたね。
――じゃああれは未体験のパフォーマンスだったんですね。それは興奮しますよね。ぶっつけ本番で撮影も大変だったでしょうけど、見事に生き生きとした熱いライヴが撮れて。
加藤 ファンの方たちがすごくいい方なので、映画に協力的で助かりましたね。
出演:BiS(プー・ルイ,ヒラノノゾミ,テラシマユフ,ミチバヤシリオ),
三浦透子,柳英里紗,金子沙織(ex- バンドじゃないもん!),國武綾,大島葉子,三輪ひとみ,水澤紳吾
監督・脚本:加藤行宏|挿入歌・主題歌:BiS(avex trax)|企画:直井卓俊|プロデューサー:加藤行宏, 南陽
特別協力:強瀬誠(深谷フィルムコミッション) 製作:『IID2』製作委員会
配給・宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS|カラーシネマスコープ|5.1ch|84分 © 2014『IID2』製作委員会