男と女の関係を見つめつづけて……
～現代の名匠 根岸吉太郎監督、初の本格的レトロスペクティブ開催～

東京国立近代美術館フィルムセンターでは、3月15日（火）より上映企画「現代日本の映画監督」の第4弾として根岸吉太郎監督を特集する。日活ロマンポルノの監督時代から、批評家からの高い評価を集め、初の一般映画『遠雷』（81）でブルーリボン賞監督賞、芸術選奨新人賞を獲得、その後も「男と女」の映画を中心に数々の秀作を発表してきた根岸監督だが、本特集が初の本格的レトロスペクティブとなる。

今回上映されるのは、監督自身のセレクトによる12プログラム（16本）で、日活ロマンポルノ監督時代の作品からは、デビュー作を含む、珠玉の4本(『オリオンの殺意より 情事の方程式』『女教師 汚れた放課後』『狂った果実』『キャバレー日記』)を上映。アメリカン・ニューシネマを観て育ち、神代辰巳、藤田敏八、曽根中生の助監督として影響を受けた根岸監督のロマンポルノ作品は、「青春の痛みを描く」という点で通底しており、都会に生きる男女の若さゆえの欲望が切々と綴られているのが大きな特徴となっている。

根岸作品では、男女問わず各作品に魅力的な人物が登場する。とりわけ、アメリカン・ニューシネマの流れを汲む根岸作品の男たちは、自分があるようで自分がない、自分のアイデンティティを探しているようなキャラクター（『狂った果実』『遠雷』『俺っちのウェディング』『永遠の1／2』『絆 －きずな－』『雪に願うこと』『ヴィヨンの妻～桜桃とタンポポ～』）であることでほぼ一貫しており、そうした男たちによって常に共感性の高い物語が展開されるのが、根岸作品の特徴の一つとなっている。
一方、根岸作品に登場する女たちの多くは、たくましさを備え太陽のように輝いている。ロマンポルノでのヒロインたち（『女教師 汚れた放課後』の風祭ゆき、『キャバレー日記』の竹井みどり）はもちろん、『遠雷』の石田えり、『探偵物語』の薬師丸ひろ子、『ウホッホ探検隊』の十朱幸代、『雪に願うこと』の吹石一恵、『サイドカーに犬』の竹内結子、『ヴィヨンの妻～桜桃とタンポポ～』の松たか子などは能動的でありながらも我慢強く、ふらふらした男にある意味で喝を入れるような存在として描き出されており、常に女優の魅力を最大限に引き出してみせるのも、根岸監督の卓越した力量の賜物と言える。

他方、「アメリカン・ニューシネマと同時に、小津安二郎作品を始めとする松竹小市民映画に強く影響を受けた」と言う根岸監督だけに、『遠雷』や『ウホッホ探検隊』のような家庭を舞台にした物語では、主人公のみならず、すべての人物がひときわリアルに描き出され、見事なアンサンブルを形成している。「男と女」の関係を軸にした映画を離れた近年の作品『雪に願うこと』や『サイドカーに犬』は、根岸監督が有していた小市民に対する深い眼差しを更に深化させた必見の家族映画に仕立てられている。

また、本特集上映では、最新作「近代能楽集」が初上映されるのも注目したい。2009年の『ヴィヨンの妻～桜桃とタンポポ～』以来、劇場映画からは遠ざかっている根岸監督だが、2013年に三島由紀夫生誕90年プロジェクトにおいて、三島の「近代能楽集」より「葵上」「卒塔婆小町」の2篇を監督（DVD.BOXとしてのみ発売）している。根岸監督が三島文学にどう挑んだのか？ 豪華キャストによる、この最新作をぜひスクリーンで堪能していただきたい。

上映作品＊印は成人指定作品：
『オリオンの殺意より 情事の方程式＊』『女教師 汚れた放課後＊』『狂った果実＊』
『キャバレー日記＊』『遠雷』『俺っちのウェディング』『探偵物語』『ウホッホ探検隊』
『永遠の1/2 』『乳房』『絆 －きずな－』『雪に願うこと』『サイドカーに犬』
『ヴィヨンの妻～桜桃とタンポポ～』『近代能楽集 葵上』『近代能楽集 卒塔婆小町』
料金：一般520円 / 高校・大学生・シニア310円 / 小・中学生100円
障害者（付添者は原則1名まで）、キャンパスメンバーズ無料

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2016年3月15日（火）～27日（日) まで、
東京国立近代美術館フィルムセンター大ホールにて開催