――最初の方に登場する黒人が庭園の中で靴を脱いで死んでいくシーンで映画ファンとしては「おっ」と思ってしまいました。ああいうイメージのものは日本映画では登場しないと感じています。東欧的、ポーランド的、というか。その点についてはどのように思いますか。

ドゥニ　是枝裕和監督の『万引き家族』にも家族の日常的なシーンは登場しています。靴も出てきましたし。

――家族で空も見ていましたね（笑）。

ドゥニ　是枝監督の映画には靴も祖母を庭に埋めるところも出てきますね。いわゆる日本の日常生活が出てきます。

――古いところで言うと、溝口健二監督もそうですね。

ドゥニ　『万引き家族』はたまたま数ヶ月前にフランスで公開になったので例に出しただけなのですが、溝口まで行かなくとも、小津安二郎の映画でも日常生活は出て来ます。やはり人々は靴を脱ぐし、夕食も食べます。宇宙船の中で小津映画と同じことをしている人を描いている、という感じです。

――映画は日常の細かい気付かないことをたくさん気付かせてくれるものだと思うのですが、小津監督、溝口監督、是枝監督、の作品と同じように『ハイ・ライフ』にはたくさんの気付きがありました。

ドゥニ　『35杯のラムショット』の時も同じことをしました。

――日常描写にこだわっているのですね。

ドゥニ　そうです。日常描写が大好きです。

――暴力的なところもありますが、ドゥニ監督の作品の日常的な描写に素晴らしさを感じています。

ドゥニ　映画ではなくて実人生でもたくさんの暴力があります。そしてテレビや新聞で報道されるのは暴力の方ばかりで日常について語られることはあまりありません。私の映画は暴力を描いていると言われていますが、それは本当に暴力的ではないからです。最近の映画を観ると本当に暴力しかない映画が多いと思います。

――この作品も、そして他の作品も、ドゥニ監督の映画はお互いに感情が影響し合う主人公が登場しますが、感情の反響のし合い方が繊細だなと感じています。日常に近いというか。

ドゥニ　その通りですね。

――ところで、他のインタビューでドゥニ監督がおっしゃっていた

“ Life is made of the only thing you can decide, the rest you can not: to commit suicide or to kill someone. The rest, happens. ”

という言葉が印象的でした。これについてはどのように感じていますか？

ドゥニ　――どのような文脈で言ったのかは覚えていませんが（笑）、それについてはその通りだと思います。わざとそう言った訳ではないのですが、確かにそう思っていますね。

――次回作はもう決まっていますか？

ドゥニ　決まってはいますが、まだお話できる段階ではありません。

――次回作も期待しています。本日はありがとうございました。