写真 SUNAO ©Offic e Matsuzawa 2012
松本准平 (監督)
閉塞する現代を描写し、3・11の出口を預言する話題作
「まだ、人間」劇場公開前特別インタビュー
▶公式サイト ▶公式twitter ▶公式Facebook
2012年5月26日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
神が死んだ時代――今までの常識や倫理観が通用しなくなった時代に
松本 松沢さんがおっしゃる「神は死んだ」という時代は、まさに今の時代そのものだと思います。ただ、その神は人間が作りだした神であって、絶対
的な神は、人間の倫理観や経済などといった外に、厳然と存在していると思うんですね。
目に見えるものや、人々が良しとしているものは、いったんは壊れるけども、その代わりに、人間の根源にあるものが見られる機会が訪れると思うんです。
その時、世界の終わりに見えたことが、実は自分たちが作りだした幻想の中で途方に暮れていただけだったことに気づくのではないかと……それが一番の悲劇なのかもしれないけど、僕は神と人間の関係を信じているので、救いがもたらされると考えています。
松沢 その姿が、ラストシーンで見事に描かれていたように思います。ラストのあるシーンでは、3人が必死に今の関係を保とうとすがりつくわけですが、結局、悲劇的な結末を迎えてしまう。だけど、その関係が崩壊した後も、3人それぞれに新しい世界が待っていますよね。特にルカが、ある人物から電話を受ける際に、人間を取り戻していくように見えたのが、とても印象的でした。
松本 当初は、ルカがその人物と会う設定にしていたのですが、電話を受けることにさせました。制作上、そういった練り直しはありましたが。絶望の 中で、彼女が世界を少しだけ信じることができるようになった姿を撮れたのではないかと思っています。
本作に描かれた、人生に訪れる「不条理」に対峙する力
松沢 本作で描かれる3人の姿は、悲劇的だし、不条理にもがく姿がリアルで、見ていて苦しくなるシーンもありました。ですが、救われる姿を見
ることもできました。不条理を乗り越える姿といったほうがいいでしょうか。
そういったメッセージがこの作品には宿っていると思います。
松本 3・11のことは忘れてはいけない日になってしまいましたが、あのような大規模なことでなくても、不条理な出来事――誰にも責任を追
及できない不幸な出来事というのは、人生の中で必ず訪れますよね。ただ、その後はどのようなことが待っているかも分からない。さらに厳しくなるかもしれないし、幸運に恵まれることもあるかもしれない。
そのことに翻弄されてしまうのが人生なのかもしれませんが、その時その時で、自分の人生を肯定できればいいなと思っています。
松沢 本作のラストシーンで、達也が放った言葉が、とても印象に残っています。彼は、自分の神を失って、ことごとく打ちひしがれますが、川 べりでタバコを口にした後に発した一言で、自分の人生を肯定できたような気がするんですね。
松本 達也だけでなく、3人に共通しているのは、もがきながらも、自分の人生に訪れる不条理と闘っていくことですね。
どうしようもない不運に見舞われるし、罪深いことは行うし、少しも自分の人生を楽しいと思えない。どこに流されていくかすらわからないけど、 あきらめずに、必死に今を闘って生きていく。
結果的に自分の描いた場所とは別の場所に流されてしまうのだけど、不条理にあらがったぶんだけ、自分を肯定することができる。
松沢 そういった、喪失の後の、再生の萌芽が感じられるシーンも本作の魅力だと思います。
松本 どうしようもない不条理なことに振り回されることが多い時代ですが、本作を観賞していただい方が、与えられた人生の時間を過ごす中で、 今を肯定するきっかけを見つけていただけるといいですね。
( 2012年4月7日 取材/文 松沢直樹 )
監督・脚本・編集・製作:松本准平
企画 : 松本准平 辻岡正人 音楽:鈴木光男 撮影:関将史 録音:日暮謙 主題歌 :チーナ
出演:辻岡正人,穂花,上山学,でんでん,根岸季衣,大澤真一郎,増田俊樹,三坂知絵子,柴やすよ,加藤亮佑
2011/日本/カラー/FullHD/BD上映/ステレオ/132分 配給:ティ・ジョイ ©2011 『まだ、人間』フィルムパートナーズ
▶公式サイト ▶公式twitter ▶公式Facebook