「踊る大捜査線」がのこしたもの

佐野　テーマの描き方に感心する一方で、『THE FINAL』では、おちゃらけのシーンは観るに堪えなかったですね。もともと「踊る」のおちゃらけは、決して上等なものではなかったけれど、ビール騒動のくだりにしても、戒名のくだりにしても、かつてはもう少しテンポよくやっていたような気がする。

速水　今回はスリーアミーゴスもまったく必要のない、ただファンサービスのためだけのキャラクターでしたね。『THE MOVIE 2』の岡村（隆史）とか、これまでもそういうのはあったんだけれど。物語がシリアス化していく過程でうまく整合性がとれなくなってきた面はあるんじゃないですか。その点に関しては、「ケイゾク」や「SPEC」のほうが巧妙にやっていますよね。あれはそれこそさっきの話にもあったように、はずしているギャグさえもわかってやってるんですよ、という言い訳がつねに用意されていたというか。やっぱり、コアなマニアに向けられていくんですけれど。

佐野　ファンサービスではあるんだけれど、そういうシーンで映画館のお客さんがまったく盛り上がっていないのを見ると、やはり終わるべくして終わったんだなという感じがしてきます。
さきほどシリーズが進むにつれて脇のキャラクターの扱いがぞんざいになっていったという話をしましたけれど、スリーアミーゴスにしても、あのなかで小野武彦演じる袴田課長は、普段は保身に走りつついざとなったら所轄の刑事たちを守ろうとする気概のある人物として、初期は丁寧に描写されていたはずなんです。こういうところがなんだかんだで15年付き合ってきた観客としては、歯がゆいんですね。いわば「古畑任三郎」における今泉慎太郎（西村雅彦）と同じで、当初設定したキャラクターを脚本家がうまく機能させられなくなって、投げてしまったという（※19）。

速水　シリーズものは人気が出て回を重ねるほど、キャラクターを誇張しすぎて、やがて機能しなくなるというケースが多いですね。それでも話のなかに組み込まなくてはいけないというジレンマは避けられない。

佐野　あと、「踊る」がその後のドラマに与えた影響ということを考えると、いわゆる職業倫理ものの路線を開拓したという側面は大きいと思います。フジテレビのドラマでいえば、このあと木村拓哉主演の「HERO」（※20）がヒットして、やはり映画化されるわけですね。あの作品になると、もはや現実の検察官にまつわるリアリズムというのはハナから忘れ去られて、仲間とか正義とか、そういうぼんやりしたテーマのために、設定が奉仕させられるという感じでした。ある意味、「踊る」の要素だけを取り出して、より浅い水準で描いたようなドラマが幅を利かせるようになってきたわけで、結果的にはあまりよい影響とは言えなかったかもしれませんが。
でも、そこであらためて言っておきたいのは、よく「踊る大捜査線」のファンは妄信的で、「踊る」と名がつけばなんでもいいんだろうみたいなことを言われるんだけれど、それはまったく違うということなんです。僕がYahoo!映画で書いた酷評に対して、ファンと称する人たちからの賛同がいくつも寄せられたことからもわかるように、むしろ多くのファンは、「踊る」のエンターテインメントとしての完成度を、かなり冷静に評価していると思います。
逆に言えば、ここまで真っ当なファンを育ててきた功績は、君塚さんと本広さんにあるんですよ。インターネットやスピンオフ作品への派生をとおして、いろいろ重層的な楽しみ方ができるんだ、ということをファンが理解し、リテラシーを高めていった。そのことは忘れてはいけないと思いますね。