「好きになった人が、好きになってくれて、
一生一緒にいたいって思えるなんて…奇跡だよ」

20歳の美容師・楓は目標もなく、彼氏とも惰性で付き合っている。ある日、初恋の相手である幼なじみの拓也が六年ぶりに街に帰ってきた。あたたかく励ましてくれる拓也に、楓は惹かれていく。楓の兄・隆太とその婚約者・有希と、四人で楽しい日々が続いた。しかし有希の妊娠が別の男性の子供だとわかり、我を忘れて怒る拓也。楓は拓也の兄への思いを知って――。

桐生川の流れる街を舞台に、何をするにも中途半端だった平凡な女の子が、憧れの男性がゲイであることを知り、初めて自分と向き合っていく。彼女を中心にした、それぞれの報われない恋の行方と旅立ちの物語。
刺激的な題材や映像や音響の氾濫する現代にあって、本作は一見地味に見えるが、誰しもおぼえのある、人が人を思うことのうれしさと苦しさと切なさを丁寧に描いている。音楽や効果音を排し、ドキュメンタリータッチで切り取られた俳優たちの演技は、圧倒的なリアリティを生み出す。
ヒロインの楓役には映画・テレビ・舞台に活躍中の我妻三輪子。恋と人生の岐路に立つ喜びと不安、とまどいと哀しみを時に繊細、時に力強く全身で表現する彼女の新鮮な演技が見どころのひとつ。今年は映画が立て続けに公開される彼女にとり、本作は女優としての大きなステップとなる作品である。楓の憧れの人・拓也に『見えないほどの遠くの空を』やCM「ほっとジョージア」の中村無何有、楓の兄・隆太に『恋の罪』の謎の男・カオル役で鮮烈にデビューした小林竜樹、隆太の恋人・有希に『ヒミズ』以降、園子温組に欠かせない今村美乃と、若き実力派俳優たちの共演も見逃せない。
監督は『OLの愛汁　ラブジュース』が国内外で高い評価を受けた田尻裕司、脚本はコンビの西田直子。いまおかしんじ、田尻裕司、榎本敏郎、坂本礼の四人の監督による映像制作会社「冒険王」の記念すべき第一回製作作品。