吉武 美知子 (プロデューサー)
映画『ダゲレオタイプの女』について
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2016年10月15日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国公開!
『回路』や『クリーピー 偽りの隣人』などで知られる黒沢清監督が、オールフランスロケ、全編フランス語に挑戦した海外進出作品『ダゲレオタイプの女』が10月15日に全国公開を迎える。本作は、世界最古の写真撮影方法「ダゲレオタイプ」をモチーフに、写真家の父(オリヴィエ・グルメ)、モデルを務める娘(コンスタンス・ルソー)、その娘を愛するアシスタント(タハ―ル・ラヒム)が織り成す悲しくも美しい人間模様を描く作品だ。去る9月某日、本作を手掛けた吉武美知子プロデューサーに、作品の魅力や、フランス映画、そして日本映画が孕む問題などについて話を聞くことができた。
(取材・文:岸 豊)
吉武「品格のあるエレガントな作品が誕生したことを誇りに思う。」
――映像表現が非常に美しかったです。黒沢監督が特にこだわっていたのは、どのシーンだったのでしょうか?
吉武 全シーン、渾身の演出だったと思いますが、演出を楽しまれていたのは、ドゥニーズの出現とか、やはりホラー的な部分ではないでしょうか。
――劇中でお気に入りのシーンを教えてください。
吉武 車が旋回して後部座席で横になっていた筈のマリーが消えている。ジャンが慌てて探し回るとふと茂みの中にマリーが立っている。何度見てもぞくっとし、なおかつとても美しいシーンです。
――マチュー・アマルリックやオリヴィエ・グルメといった名優たちと、黒沢監督はどんな話をして作品を作り上げていったのでしょうか?
吉武 ご存知かも知れませんが、黒沢さんはその俳優を百パーセント信頼してキャスティングします。役作りは、その俳優の仕事で監督はそこに口ははさみません。もちろん俳優の方から質問がくれば答えられますが、オリヴィエもマチューも、監督と意見交換があったのは外見的な役作りである衣裳合わせの時くらいで、内面的な役作りは監督に投げずに自分でされてました。逆にタハールは積極的にどんどん監督へ質問したり提案したりしていました。
――本作におけるプロデュースで、最もハードだったタスクはなんでしょうか?
吉武 今回の場合、こう言っては何ですが、あまり苦労したという思い出はないです。Kiyoshi Kurosawa のネーム・ヴァリューのお陰だと思っています。細かい苦労はもちろん映画を作っていく過程でいっぱいありましたが、それも苦にせず一つ一つクリアーしていった感があります。
――悲しみと美しさが際立った作品でした。吉武さんは、この物語を通じて、どんなメッセージを受け取りましたか?
吉武 生と死を超えた愛の存在を信じたくなりました。
――邦画のほとんどは、世界に向けてというよりも、マーケティング、内容共に国内で完結してしまって いるように思えます。吉武さんから見て、邦画の問題はどこにあると思いますか?
吉武 日本は国内市場だけで製作費をリクープできるし、何倍返しの収益を上げられる可能性があります。つまり何も海外に目を向ける必要はない。自己完結できる市場です。それに比べて、例えばお隣の韓国などは国内市場だけでは採算が合わないのでインターナショナル・マーケットを意識し、国際レヴェルの監督や作品を排出しています。日本では、メジャー作品は上記のような回路で世界など意識せずにやっていますが、インディー系の作品はやはり海外映画祭での評価を一つの突破口として意識していると思います。
――逆に、フランス映画界が抱える問題や、映画製作者が直面している課題があれば教えてください。
吉武 フランスは国が映画を仕切っています。検閲とか内容に口を出すという意味ではなく、ファイナンス・製作・配給のシステムを国が管理しているのです。ですからシステムから外れた所からゲリラ的に生まれてくる映画というのが皆無に等しい。 型破りの作品が生まれにくい環境です。
――最近のフランス映画では、もちろん素晴らしい作品も見受けられるのですが、同じようなテーマを少しずつ角度を変えて描いているものが大半だ、という印象も抱いてしまいます。
吉武 仰る通りだと思います。上記に関連して来ると思いますが、システムの中でウケる優等生的な作品が多いですね。
――最後に、黒沢監督の海外進出作品ですが、成功させる自信はありますか?あるとしたら、その源となっているものはなんでしょうか?
吉武 何をもって成功というかにもよりますが……。ホラーでありラブロマンスですが、本当に品格のあるエレガントな作品が誕生したことを誇りに思っています。そして何処で誰と制作されても結果として紛れもなき黒沢作品に仕上がっているところが、さすがというか、凄いなぁと感じました。ヨーロピアンな耽美と黒沢・ワールドの融合です。今迄の黒沢ファンだけでなく、より広い層の観客を獲得できる映画だと思います。
( 取材・文:岸 豊 )
監督・脚本:黒沢清
プロデューサー: 吉武美知子、ジェローム・ドプフェール
撮影:アレクシ・カビルシン 音楽:グレゴワール・エッツェル
主演:タハール・ラヒム、コンスタンス・ルソー、オリビエ・グルメ、マチュー・アマルリック
配給:ビターズ・エンド © FILM-IN-EVOLUTION - LES PRODUCTIONS BALTHAZAR - FRAKAS PRODUCTIONS - LFDLPA Japan Film Partners - ARTE France Cinéma
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