森 義隆 (監督) 映画『聖の青春』について【2/6】
2016年11月19日(土)丸の内ピカデリー・新宿ピカデリー他全国公開
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──今回、本当の瞬間を撮ることにこだわられたと伺いました。
森 脚本の段階から村山聖というものを自分なりに捉えていった時に、彼の命が最高潮に輝く瞬間というのを撮らなければいけないと思いました。それは役者の表現力や小手先の技術で描けるものではないと思い、そういったものを超えた松山くん自身の魂の燃焼みたいなものが映り込まなければならないと考えていました。30歳の松山ケンイチが自分の命を燃やし尽くす瞬間と、村山聖が命を燃やし尽くした瞬間がバチッとぶつかる瞬間を捉えたい気持ちが当初から念頭にあったのです。だから実際の場所で順撮りさせてもらうことで、最初から完成してなりきった村山ではなく、徐々に徐々に松山くんが村山聖になっていければいいなと思いました。裏のテーマとしてぼくの中では、これは「松山ケンイチのドキュメンタリーでもある」という思いが実はありました。30歳の松山ケンイチが命を燃やすことと村山聖が命を燃やすことがリンクした瞬間というのが、たぶん本当の瞬間で、その時にカメラが回っているかどうかが大事。それは二度と返ってこない瞬間だと思うんですよ。もう一回撮り直せって言ったらまた8年かかりますよ(笑)。それが今回はもしかしたらできているのではないかなぁという気持ちでいます。
──全編順撮りだったのでしょうか。
森 最初から最後まで全部というのは難しいので、村山の精神の流れの要所要所を追っていけるような順撮りを採用しました。
──森監督の作品はこれまでの『ひゃくはち』(2008)も『宇宙兄弟』(2012)も生身の俳優の活き活きとした新鮮な演技が一番の魅力だと感じるのですが、今回の松山さんと東出さんはおそらくキャリア史上最も素晴らしい演技を披露していると言えるかと思います。また、荒崎学役を演じた柄本時生さんが醸し出す玄人感も印象深いです。森監督は『ひゃくはち』の前まではTVのドキュメンタリーを撮られていたわけですが、そのように俳優から魅力的な演技を導き出すのに、その経験は影響があるでしょうか。
森 それは大いにあると思いますね。基本的にはドキュメンタリーを撮っている時って一つも思い通りにならないですよね。なんとなくこういう筋書きでこういう番組になるかなと考えながら撮るんですが、一つも思い通りにいかない。でもそのことをどう物語にしていくか。瞬間瞬間で物語を再構築していくというか、今日撮れたものがあるから次の日はどういう物語を想定するか、どんどんそれを積み重ねていく感じなんですよね。それは被写体が引っ張っていくもので、その中で監督としてそれをどうベストなものにしていくかということをドキュメンタリーを通して相当鍛えられました。というよりもそれが染み付いてしまっているので、自然と本作が30歳の「松山ケンイチのドキュメンタリーでもある」という意識が生まれてしまうのだと思います。『ひゃくはち』においても、16歳の彼らのあの時にしか撮れない姿を撮りたいと思っていたのですが、今回も、30歳の松山ケンイチがこの作品と出会ってくれたこの時に撮れるベストなものは何なのかを常に考えるようにはしていました。生の輝きみたいなものは、役を演じきることだけではなく、彼自身が生きてくれて初めて浮かび上がるものだと思っていますし、それをフィルムに焼き付けることが面白いと思っています。ただ、そうした感覚でこれまでずっと撮ってきたのですが、今回、松山くんと会ったことで、その感覚が今後、変化していくかもしれません。それは、もっと役者に期待していいんだなと感じさせてもらえたからです。自分が求めるもののレベルをもう少しあげていきたいなと考えています。つまり、演出的に作り込むことと、ドキュメンタリー的な一回性を同時に俳優に求めていいんだとわかったような感覚があります。それは、一手一手こういう棋譜を打たなければいけないと頭でわかっている状況で、ライブとして生きるということを松山くんが体現してくれたからです。彼の才能に触れたことは、今後の自分の演出の幅をすごく広げてくれた気がしますね。
出演:松山ケンイチ,東出昌大,染谷将太,安田顕,柄本時生,鶴見辰吾,北見敏之,筒井道隆/
竹下景子/リリー・フランキー
原作:大崎善生(角川文庫/講談社文庫)
監督:森義隆『宇宙兄弟』『ひゃくはち』 脚本:向井康介『クローズEXPLODE』
主題歌:秦 基博「終わりのない空」 AUGUSTA RECORDS/Ariola Japan
© 2016「聖の青春」製作委員会 配給:KADOKAWA 公式サイト 公式twitter 公式Facebook