森 義隆 (監督) 映画『聖の青春』について【4/6】
2016年11月19日(土)丸の内ピカデリー・新宿ピカデリー他全国公開
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──これまでの監督の作品と比べて、劇伴はずっと抑えめで、静かな作品になっています。
森 取材をしていて、実際に対局を見に行くと、本当にその場にもういたくないぐらいの無音の圧みたいなものをすごく感じて、それを映画でも表現できればと思いました。音楽は半野(喜弘)さんと一緒にやったのですが、基本的にはシーンに対しての音楽はつけないでいいとお話し、「映っていないものを音楽にしてください」とお願いしました。それは目の前のシーンの出来事を捉えるのではなく、時間とか空間を飛び越えたところで音楽を作ってもらうようなイメージでした。そのようなアプローチを取ったのは、自分の中でこう伝えたいということを村山さんの人生に対してやるのはおこがましいと思っていたからというのもあります。それは自分が結論付けることではなく、松山くんの体を借りて村山聖として生きてもらい、ぼくが静かに見つめ続けた村山の人生をそのまま(観客に)投げようと思いました。なので、どこをどう感じてほしいという演出意図を極力排除しています。今までだとある程度、感情を誘導するように演出していた部分もあるのですが、今回はノンフィクションで実際に29歳で死ぬということに対して結論を付けたくないという思いが強かった。ちなみに僕自身としては、撮っている時に29歳で死ぬってどんなに辛かったのだろうかと考えていたんですけど、最後撮り終わった時に「あ、この人、幸せな男だったんじゃないかな」とふっと感じられました。でもそれを音楽にする必要はないと思って、あとは観客のみなさんに委ねられるように音楽を設計しました。
──食堂のシーンでは、ふたりの会話の間に店員がご飯を出しに来るタイミングや窓の外に雪が降り出すタイミングを含めた演出、そして撮影は本当に素晴らしいと思いました。今回の撮影監督は、北野武監督と組んで90年代の名作を残している柳島克己さんですが、柳島さんをカメラマンに選ばれたのは監督の意向ですか。
森 はい、ぼくがお願いしました。
──それは90年代を再現する意味でという部分もあるのでしょうか。
森 そういった意味で柳島さんが必要だったと思ったのではなくて、誘導するような演出をしない中で静かに誠実にものを見つめて、それを観客に投げる時に必要なカメラマンが柳島さんだったという感じです。だからあの食堂のシーンでもすごく淡々と見つめているんだけども、そこにあるドラマがスクリーンからほとばしるように撮ってくれています。
──柳島さんとは今回はじめて組まれたわけですよね。
森 はい、はじめて組みましたね。
──こういうシーンにしたいと事前に話をして組み立てていかれたのでしょうか。
森 (ふたりを1ショットに収めた)横だけ(の引き画)でいこうなどというイメージはこちらから提案したりしました。食堂のシーンについて言えば、柳島さんのルックコントロールが本当に素晴らしいですよね。
──あと、前半の(村山対羽生の)東北大会戦で、対局中に外に雪が降り積もっている中でライトがパッとつくじゃないですか。あの照明のタイミングも素晴らしく、どちらもふたりを引きの画で捉えたその2場面は特に撮影が素晴らしいと思いました。
森 羽生さんと村山が将棋盤を挟んですごく美しく見えてきたのがあのシーンのあたりでした。ふたりがそれぞれ羽生と村山になってきた感じもあり、柳島さんの画も美しいし、各部署が完璧にかみあったシーンだと思いますね。
出演:松山ケンイチ,東出昌大,染谷将太,安田顕,柄本時生,鶴見辰吾,北見敏之,筒井道隆/
竹下景子/リリー・フランキー
原作:大崎善生(角川文庫/講談社文庫)
監督:森義隆『宇宙兄弟』『ひゃくはち』 脚本:向井康介『クローズEXPLODE』
主題歌:秦 基博「終わりのない空」 AUGUSTA RECORDS/Ariola Japan
© 2016「聖の青春」製作委員会 配給:KADOKAWA 公式サイト 公式twitter 公式Facebook