今週の一本
(2008 / 日本 / 君塚良一)
愛する者の罪を背負い、生きていくこと

佐野 亨

誰も守ってくれない1 なんと端正な映画だろう。TVドラマの拡大版のような作品が幅を利かせている日本映画のメジャー系列にあって、これほど骨太でしっかりと芯を感じさせてくれる映画は昨今珍しい。大人の映画ファンの鑑賞に堪えうる秀作といえよう。

 18歳の少年が幼い姉妹を殺害するという事件が起きた。少年の家族は苛烈なマスコミ報道や世間のバッシングを受けることとなり、勝浦刑事(佐藤浩市)は中学生の娘・沙織(志田未来)の護衛を命じられる。  どこに隠れても執拗に追いかけてくるマスコミ。勝浦は沙織を連れて、西伊豆の海辺にあるペンションへと逃げ込む。そこは勝浦の過去にまつわる特別な場所だった……。

 君塚良一は、「ずっとあなたが好きだった」「あの日に帰りたい」など脚本を手がけたいくつかのTVドラマにおいて、「愛する者が許されざる罪を犯したとき、人はそれにどう向き合うか」というテーマを一貫して描いてきた。
 みずから映画を監督するようになってからも、君塚はさまざまな形で、この命題を問いつづけている。  デビュー作『MAKOTO』は、事故死した妻に対する贖罪の念を抱えながら、迷える死者を救おうとする超能力者の物語であった。
 『容疑者 室井慎次』では、やはり自殺した恋人を救うことができなかった主人公がある事件をきっかけに自身の過去と対峙し、その「罪」を償おうとする過程が描かれた。
誰も守ってくれない2 そして本作では、殺人者の家族にスポットを当てることで、このテーマをさらに深く掘り下げようとしている。
 思えば君塚は、大ヒットしたTVシリーズ「踊る大捜査線」の前半で、水野美紀演じる被害者遺族の救済の物語にかなりのウェイトをおいていたはずだ。
 その作品の系譜に本作を正しく位置づけたとき、みずからのテーマを一貫して追及してきた君塚の意図がくっきりと浮かび上がってくる。

 一つの犯罪をめぐるマスメディアのせめぎ合いを描いた点でも、本作は興味深い。
 君塚は、被害者のプライバシーも加害者の素顔もすべて等価に晒してしまうインターネット掲示板を忌まわしき「悪」と捉え、その中心人物である男(書き込みを煽るサイト管理者)が警察に逮捕される場面までを見せしめのように描いている。
 しかし、ここでより注視すべきなのは、ネットに氾濫する情報を前に為す術もなく、いやむしろそれを自分誰も守ってくれない3たちのメディアに周到に引用して事態を悪化させてしまう新聞やTVといった旧来型メディアの存在だ。
 その象徴として登場するのが、佐々木蔵之介演じる新聞記者なのだが、複雑な問題を背負っているとおぼしきこの記者のキャラクターが、本作ではあまり効果的に機能していないのは些か残念である。
 おそらく君塚は今後、こうした事件とメディア、あるいは個人とメディアをめぐる問題にいっそう深くコミットしていくことになるだろう。

 このようにヘビーな問題を提起しながらも、さすが数々のエンターテインメント作品でならした君塚のこと、適度にスリルやサスペンスを盛り込み、観客を楽しませることを忘れない。前半の警察とマスコミのカーチェイスなど、学生時代に浴びるほど映画を観たという君塚らしい遊び心が感じられる場面だ。
 佐藤浩市、志田未来はいずれもみごとな熱演。ぶっきらぼうだが仕事熱心な若手刑事を演じた松田龍平もいつになく素晴らしい。

誰も守ってくれない4 本作が観る者に訴えかけるのは、ただひとつの明確な答えではない。「罪」と向き合うことの苦しさ、その苦しさを抱えたうえで誰かを守っていかなければならない人びとの宿命を暗示して、映画は幕を閉じる。
 据わりのよいTVドラマを見慣れた観客にとっては釈然としない結末かもしれないが、このたしかな「重さ」こそ、映画ならではの後味といえるのではないだろうか。

(2009.1.27)

誰も守ってくれない 2008年 日本
監督:君塚良一 製作:亀山千広 脚本:君塚良一、鈴木智 音楽:村松崇継
プロデューサー:臼井裕詞,種田義彦 アソシエイトプロデューサー:宮川朋之
ラインプロデューサー:古郡真也 撮影:栢野直樹 照明:磯野雅宏 録音:柿澤潔
美術:山口修 監督補:杉山泰一 装飾:平井浩一 編集:穂垣順之助
VFXディレクター:山本雅之 製作担当:橋本靖,斉藤健志
出演:佐藤浩市,志田未来,松田龍平,石田ゆり子,佐々木蔵之介,佐野史郎,木村佳乃,柳葉敏郎
(c)2009 フジテレビジョン 日本映画衛星放送 東宝
公式

2009年1月24日(土)全国東宝系ロードショー

2009/01/28/11:15 | BBS | トラックバック (0)
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