城定 秀夫 ( 映画監督・脚本家 )
映画『タナトス』について
2011年9月10日(土)より、渋谷ユーロスペースにてレイトショー,他全国順次公開!!
息つく暇もない矢継ぎ早のペースで娯楽映画の快作を連発する城定秀夫監督が、新作『タナトス』を完成させた。原作は、元WBA世界ミドル級王者である竹原慎二・原案、落合祐介・作画のコミック『タナトス~むしけらの拳~』。ボクシング経験者である徳山秀典を主演に迎えている。ボクシング映画ならではの面白みや苦労から、厳しい制作条件をものともしない臨機応変な映画作りに至るまで、城定監督にお話を伺った。(取材:鈴木 並木)
城定 秀夫(映画監督・脚本家)
1975年9月2日 東京都出身。武蔵野美術大学在学中より8ミリ映画を制作。卒業後、フリーランスの助監督としてピンク映画、Vシネマなどを中心にキャリアを積みながら脚本の執筆に励む。2003年『味見したい人妻たち』で監督デビュー。同作品により2003年度PG新人監督賞受賞。2010年には「城定秀夫特集上映~その男JOJOにつき~」が開催され、各館で2週間に渡り代表作計16本が上映された。厳しい制作条件の低予算映画を量産しているが、どの作品も高いクオリティーを保っている。監督作は、08年『デコトラ・ギャル 奈美』、09年『静かなるドン 新章』、『18倫』など。現在は一般映画の製作に精力的に取り組んでいる。
――まずは本作を監督するに至った経緯についてお聞かせください。
城定 1年半か2年くらい前なんですけど、ふだんお世話になっている制作会社レオーネのプロデューサーから原作を渡されて、なんとなく企画にあがっていたものが、だんだん具体化していった感じです。
――監督自身はもともとボクシングに対する興味はお持ちだったのでしょうか。
城定 ボクシング映画は好きなんですけど、ボクシング自体は、会場で観戦した事もないレベルでして…この話が決まってからは、ジムの見学をさせてもらったり、勉強もしました。ボクシングをあんまり知らないことがバレると信用を失うんで、そこは伏せてたんですけど。監督おろされちゃうかもと(笑)。
――実際のボクシングを見て、映画化するにあたって、面白かったところや難しかったところはどこでしたか。
城定 やっぱり試合の見せ方ですよね。ボクシング映画をいろいろ見ても、おのおの違うんですよね。『ロッキー』なんかはほんとにモンタージュで、ばーっと流して見せちゃう。何が起こっていても関係ないみたいな、オーバーラップ、オーバーラップでかっこいいところだけ見せちゃうやり方でした。『どついたるねん』はリアリズムで。今回は、ワンカットで見せるような生々しさというよりは、もう少し作りこんだ世界観を出したくて、かといって『あしたのジョー』みたいな、技の一個一個を丁寧に……みたいなのとも違うし。そこでどうしようかな、というところでしたね。
――試合のシーンの具体的な進め方はどんな感じでしたか。
城定 アクション監督がついて、ボクシング指導というよりはアクションの指導をしてもらいました。それと、ポイントポイントでボクサー経験者の方の指導を受けました。ただ、なかなかコンセンサスが難しい部分もあるんですよ。
――映画としての部分と、経験者の目から見たリアリティとの間でズレが出るということですか。
城定 というよりは、作りこんだかっこいいアクションだと、ボクシングの野性味みたいなものが失われる感じがあったんです。そこをなんとかしようと、わざと雑味を出そうと粗っぽく撮ったり。段取りでやっちゃうと、見ていてちょっと違うかなと。本物のボクシングは、見ていると、素人目には何が起こっているか全然分からないんですよね。ただ、それをそのまま再現すると映画にはならないなと思って、そのへんのバランスが難しいところでした。 で、マンガ表現だと、何が起こっているかとか、技の説明をしたりしますけど、映画だとそこで時間のズレが生じて、おかしなことになるんですね。一発パンチが決まって、それを客席で説明している間、試合はこう進んでなきゃおかしいじゃないか、ということになるので、映画の表現としてマンガをどう処理していくかということは考えました。
――客席での技の説明は、若干取り入れていますね。
城定 ぼくはそれをやったほうがいいと思ったんですよ。ただ試合をばーって見せると、流れちゃうので。今回は、そういう説明を多少してもいいような方向で、世界観を作りこみました。全体をそこにあわせて、虚実のバランスをとったわけです。
――いままでのボクシング映画で参考になったものはありましたか。
城定 いろいろエッセンスは取り入れましたけど、「これっぽくやろう」っていうのはそんなにはなかったです。メジャー映画は、十二分な準備期間が用意されているので、マネしようとしてもなかなかできないですよね。撮り方としてすごいなと思ったのは、韓国映画の『チャンピオン』(クァク・キョンテク監督)。あとは、1ラウンド丸々長回しをやってる『ボックス!』(李闘士男監督)。ただあれはアマチュア・ボクシングなんで、ヘッドギアつけて、本当に当ててるんですよね。こちらはそれは難しいです……
――『タナトス』では実際に当てているところはないと。
城定 軽く当てて早回しにするとかは少しやってますけど、やってみたら早回ししてるようにしか見えなかったので、基本的にはない、はずです(笑)。
――主要なキャストさんとはほとんど初めての顔合わせとのことですが、みなさんに対してはどういう印象を持たれましたか。
城定 おのおの、十分に原作やシナリオを読み込んで、役を作りこんできてくれたので、そんなに修正する部分はなく、「思ったように演じてください」という感じでしたね。全然問題なかったです。
――徳山秀典さん演じる主人公リクの目に、狂気走ったすごみを感じました。笑うところがほとんどなくて、その分、トレーナー役の渋川清彦さんに、「鍛えなおしてやるからな」と言われたときの笑顔が印象的です。
城定 ボクシングジムが新しく建つあそこのところまでは、笑ってないと思いますね。あと、セリフが極端に少ない役ですね。
――佐藤祐基さんが扮する棚夫木のほうは、最初引っ込んでいるというか、サブのような感じのキャラクターに見えました。
城定 棚夫木の立ち位置はすごく難しくて。原作でもいきなり、脳の腫瘍が見つかったところから始まっちゃってるんで、リクとの対戦は基本的にありえないことがあらかじめ決まっているんです。そういうところで、リクの憧れ、ボクシングの象徴としての存在で、基本的にはそんなに絡んでこない。これはどう扱おうかとすごく迷ったんですね。原作者とも話して、いっそなくしちゃおうかと思ったくらい。結局ポジションとしては引っ込んだところというか、俯瞰した位置からリクの成長を見守る立場に置きました。
――升毅さんの演じるジムのオーナーの途中からの豹変ぶりが衝撃的でした。こういうキャラだったのか、と。
城定 原作でも、かなり安いキャラなんですよね(笑)。升さんも自分でいろいろ作ってきてくれてたんで、これもおもしろいのかなと。作りすぎた感じは(笑)升さんならでは、さすがですね。
――梅沢富美男さんが「実はオレもボクシングやってたんだ」とやって見せるのも楽しいですね。
城定 衣装合わせのときに、こういうことやってもらいます、って言って、そこで型をつけたんです。「本番までに覚えてきてください」ってお願いしたら、ご自分でジムに通って練習されてきましたね。
――ボクシング部分も含めて、事前のキャストさんの作りこみはどのようにおこなわれたのでしょうか。
城定 役によってはキャストが決まるのが遅かったり、大震災があったりして、あんまり時間がなくて、トレーニングも決して十分ではなかったんですね。ただ、徳山さんは経験者だけあって、カンを取り戻すのにそんなに時間はかからなかった。ほかの方は未経験者の方が多く、なかなかみなさんお忙しくて、時間が十分に取れなかったです。渋川清彦さんは1か月くらいジムに通って、体から作られたようですけれど……
――原作者の竹原慎二さんと対談されたそうですが、竹原さんなり、トレーナー役で出演されている大嶋宏成さんなり、ボクシング経験者は、監督の目から見て、専門の役者さんと比べてどういう違いがありましたか。
城定 芝居に関して言えば、すごく味がありますよね。大嶋さんなんかそうですけど、人間っぽいっていうか。一見棒読みなんですけど、すごく味わいがあるし。演出面ではテクニック的なことよりも、素の魅力を活かすように心がけました。
出演:徳山秀典,佐藤祐基,平 愛梨
渋川清彦,古川雄大,大嶋宏成,大口兼悟,斉藤一平,白石朋也,秋本奈緒美,升毅,梅沢富美男
原作/竹原慎二・落合裕介「タナトス ~むしけらの拳~」(小学館ヤングサンデーコミックス刊)
監督・脚本・編集:城定 秀夫 協力:小学館 制作プロダクション:レオーネ 配給・宣伝:ユナイテッド エンタテインメント
製作:「タナトス」製作委員会(GPミュージアムソフト・ヒューマックスコミュニケーションズ・レオーネ・ユナイテッドエンタテインメント・ミュージックシネマズジャパン・NPO法人日本ベトナム交流センター・ラフター)
©2011 竹原慎二・落合裕介・小学館/「タナトス」製作委員会
2010年9月10日(土)より、
渋谷ユーロスペースにてレイトショー,他全国順次公開!!
- 映画原作
- (著):竹原 慎二 , 落合 裕介
- 発売日:2011-03-18
- おすすめ度:
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主なキャスト / スタッフ
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