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『サーミの血』宮台真司(社会学者)× 榎本憲男(小説家・映画監督)トークイベントレポート

映画『サーミの血』トークイベントレポート【7/7】
宮台真司(社会学者)× 榎本憲男(小説家・映画監督)

新宿武蔵野館、アップリンク渋谷にて絶賛上映中!ほか全国順次公開

公式サイト 公式twitter 公式Facebook (取材:深谷直子)

『サーミの血』場面6宮台 インテリ向きなんだけど、最近のいくつかの映画と合わせて見ていただくとある共通の軸が表側からも見えてくるので、それを味わってほしいなと思うんですね。例えば今年話題になった『メッセージ』(16)という映画があります。あれも基本的に僕たちの定住社会とそうではない社会の対比だけれど、もうひとつ去年公開された『彷徨える河』(15)というアマゾンの先住民の話とまったく構造が同じなんですよ。で、ここで話したことと関係する、定住社会が支えている、メトロノームに合わせて踊るということに象徴される感受性によって周辺化された感受性を取り戻すと。例えば『メッセージ』で言えば、『メッセージ』が提示しているエイリアンの時間感覚って、先ほど申し上げた先住民の時間間隔とまったく同じです。未来は得られる、これが僕たちの考え方です。未来は未規定、だからがんばれ、これが僕たちの社会です。しかし先住民の社会はそうではない、未来は何も選べないんです。なぜかと言うと、(エミール・)バンヴェニストという言語学者が言っているように「I」と「we」、単数主語と複数主語で行くと、単数主語が出てきたのはごく最近のことで、それまではすべて複数主語だったんです。複数主語であればタイムスパン、長さが、個人の人生って昔で言えば50年だけど、共同体の500年とか5千年のスパンで考える。そうしたら当たり前だけど未来は過去です。新しいことなんて何もないんです。それがもともとの僕らの感受性なんです。

榎本 ああ、今の「I」と「we」で「I」が生まれたのがあとだという話って『サーミの血』にもちょっと出ていますね。彼女が村人にからかわれて「あなたにもサーミの血が流れているのよ」って言うシーンがありますが、それってなんか変じゃないですか。「サーミだからって差別するな」と言うんだったらわかるんだけど。折口信夫さんが「別化性能」と「類化性能」と言うんだけど、「別化」というのは西洋的な血で、だけどみんな一緒だという思想が日本人にはあったということなんですね。で、面白いなと思ったのは、ブラジルのわりと有名な人類学者が言っていたんだけど、ブラジルの人は犬も人もみんな人だって言うんですね。犬だって人で、ただ形が違うだけだって。で、ひょっとしたら『サーミの血』ではトナカイも人なんですよ。お母さんが主人公に「お前はもう出ていっていいよ」というシーンの前に、彼女はトナカイを殺すんだけど、その殺し方がもうサーミの殺し方じゃなくてやむにやまれぬ憤りから殺しているから、「これはもう行かせてやらないとマズイな」と思って行かせたんじゃないか?と思ったんです。それともうひとつ、宮台さんの言った『メッセージ』の話でいうと、未来は決まっていないから決めるためにがんばるんだとわれわれは思っているけど、そうじゃないという話でしょう? それは最近でいうと「中動」とかに関わることですよね。宮台さんのコメントにも出てきますが、そこがわかりにくいから補足してください。

『サーミの血』場面7宮台 先ほどの単数形と複数形の起源の話で出たバンヴェニストは、言語学上もともとは「能動態」と「中動態」しかなかったと言っています。能動と受動の間にあるのが中動なんですけど、「受動態」って昔はなかった。ところが中動態が簡単にいうと捨てられて、能動態とその変形である受動態が残ったという話なんですね。で、中動態とは何かを(15年に『中動態の世界』を著した哲学者の)國分功一郎は、ギリシャの思考とかを取り出してインテリ的に説明しているけど、女性性が見えなくて失敗していると僕は思います。女性は妊娠して出産しますよね。で、妊娠で考えてごらんなさい、生まれてくる子供の性別も容姿も能力も健常者か障害者かというのも選べないでしょう? つまり女性は覚悟して引き受けるんですよ。

榎本 『メッセージ』ですよね。

宮台 そうですね、「覚悟して引き受けよ」というのが『メッセージ』のテーマでしょ。あるいはギリシャ神話の「デルフォイの神託」で「お前は将来母親と姦淫する」と予言されたオイディプスは、その神託が実現しないようにがんばることによって姦淫しちゃうんですね。つまり未来は選べないんです。未来は過去なんです。簡単に言うとギリシャ悲劇というのは僕たちが言う悲劇とは違って、世界とはそもそもでたらめで理不尽だから引き受けて前に進めっていうメッセージで、むしろポジティヴなんですね。逆に言えば、理不尽や不条理を避けようとして一生懸命神にお祈りして従えば何とか救ってもらえるんじゃないかっていう、よくセミティックって言うんですけど、セム族的な相手がクズだというのがギリシャの発想なんです。がんばれば災難は避けられる、がんばればいいことがあるとはギリシャ人はまったく考えないんですね。で、ここから中動態の話だけど、女性性が関わってくると。女性には、例えば月のものがあるでしょう? そのたびごとに痛んだり精神が混濁したり、それって避けられない。引き受けるしかないんですよ。そういうある種の時間感覚の違いが能動態と中動態とに分かれるんだけど、女性の方々は多かれ少なかれ知っているんですね。この映画の監督も女性だし、主人公も女性だっていうのは、僕に言わせれば完全に必然的なことで、男が主人公になる映画じゃない。『エル ELLE』っていう映画を観ますと、男はみんなクズとして描かれています。まったく同感です。私は男だからよく分かります。男はクズだから早く死んだ方がいい。

司会者 (笑)。ではそろそろお時間が来てしまいましたので、これにて終了させていただきたいと思います。本日のゲストの宮台真司さん、榎本憲男さん、どうもありがとうございました。

(2017年9月20日 アップリンク渋谷で 取材:深谷直子)

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サーミの血
監督・脚本:アマンダ・シェーネル
音楽:クリスチャン・エイドネス・アナスン
出演:レーネ=セシリア・スパルロク、ミーア=エリーカ・スパルロク、マイ=ドリス・リンピ、
ユリウス・フレイシャンデル、オッレ・サッリ、ハンナ・アルストロム
2016 年/スウェーデン、ノルウェー、デンマーク/108 分/南サーミ語、スウェーデン語/
原題:Sameblod/DCP/シネマスコ―プ
後援:スウェーデン大使館、ノルウェー王国大使館 配給・宣伝:アップリンク
© 2016 NORDISK FILM PRODUCTION

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2017/10/01/21:37 | トラックバック (0)
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