あの「童年往事」の!あの「川の流れに草は青々」の!あの大好きな侯孝賢が、
小津安二郎大先生の生誕百年を記念して撮ったというなんだかとても記念記念した作品だ。
冒頭、ヒトトヨウがなにやら電話で話している後ろ姿が映し出されている。
電話の内容とその口調にいささか辟易しながらあまりに長いシーンなので別のことを思い出す。「無能の人」
で竹中直人を説教する風吹ジュンの後ろ姿である。あ、でもあの後ろ姿は腰のあたりが中心だったか。まあ、いい。
あの風吹ジュンの後ろ姿は母性と妙なエロさが混じっていてとても良かったなあ。
ヒトトヨウが浅野忠信演じる古書店主のいる古本屋に行く。何だか会話があまり聞こえてこないのだが、
さっきの電話のおしゃべりの続きのようだ。あまり盛り上がっていない二人のように見える。二人と言うか浅野が。
実は店主の浅野はお客ヒトトヨウが苦手ではないのか。そう言えば筆者の周りにもこんな感じのオナゴがいる。
常に周囲の空気は自分のためだけに存在しているようなそのオナゴの飼い犬の話を二時間ぱっかし聞かされたことを思い出す。死んじまえよ、
その犬と思ったなあ。
小林稔侍演じる父親がずっと見ている高校野球の試合は鳥取県の八頭高校の試合だ。この試合の模様が音だけとは言え、かなり長く流れる。
この年、八頭高校は鳥取県勢として、夏の甲子園九年振りの勝利をあげた。筆者は鳥取県出身である。
甲子園を目指してはいたけれどそこはほど遠い場所だった。甲子園で勝つことではなく、
甲子園に出ることが目標の弱小鳥取県勢の九年ぶりの勝利に我がことのように喜んだ。八頭高校藤原監督の堂々たる采配ぶりが目に浮かんだ。
カッコよかったなあ。
映画は(に限らないけど)観る人によって見えているものがまったく違って見えるものとはよく言われることであるし、
レビューの文章でそんなことを書くのは反則気味だろうが(え?いつもだろって)
これほどまでに画面に違ったものが見えている映画というのも筆者にとっては珍しい。良くない意味で。
正直申し上げて退屈だったということです・・・。
どうせならヘンテコリンな東京が映っていてそれに大笑いしている方がまだ楽しめたかも・・・。いくら普通の東京が映っているとはいえ、
別にそれがどうしたって感じであるし、交通手段がメチャクチャだからヘンな違和感感じるし。
ヒトトヨウが何やら英語の(で?)絵本を読んでいるような場面で意識が飛んで、意識が戻ると両親が上京していた。
時間にしてどのくらい寝ていたのかは分からないが、それでも何かが分からなくなるわけではない。照明、構図をじっくりと鑑賞し、
ゆったりとしたような時間の流れに身を任せることのできる心にゆとりのある人にとってはなにも差し支えのない映画である。
差し支えないだけだけど。この映画の魅力は退屈な時間そのものなのだろう。タイトル通り、
どうぞゆっくりとコーシーでも飲むような一時を過ごしてください。どうぞ心地良い眠りに落ちてくださいということなのだろう。いや、
観る前からなんとなくは想像してたけどね。
(2004.9.18)
TRACKBACK URL: