砂田 麻美 (監督)
映画「夢と狂気の王国」について
2014年3月2日(日)より、深谷シネマにて上映
スタジオジブリを題材にしたドキュメンタリー映画「夢と狂気の王国」は傑作である。監督は「エンディングノート」の砂田麻美さん。公開ギリギリに完成した作品のインタビューをおこなった。
(取材:わたなべりんたろう)
砂田 麻美 慶應義塾大学在学中からドキュメンタリーを学び映像制作に携わる。卒業後はフリーの監督助手として河瀬直美、岩井俊二、是枝裕和ら師事。がん告知を受け同年末に死去した父を主演としたドキュメンタリー映画『エンディングノート』を制作。是枝裕和をプロデューサーに迎えて2011年に一般公開され、監督デビューを果たして数々の新人監督賞を受賞。ドキュメンタリーとしては異例の興行収入1億円を突破する大ヒットとなる。松任谷由実(荒井由実名義)の「ひこうき雲」ミュージッククリップやau「ジブリの森」のCM演出も手掛けている。
――忙しい中をインタビューを受けていただき、ありがとうございます。今作で印象的なのは砂田監督の存在がありながらも、とても控えめなことです。部屋の片隅で両膝ついて撮影している画像がパンフレットにありますが、まさにあのイメージです。
砂田 あの画像はスタジオジブリにいるネコを撮影している時なんですけどね(笑)。自分が前に出てもしょうがないですし。
――「エンディングノート」ではナレーションを砂田さんがやっていました。父親の声を代弁するナレーションを娘の砂田さんがやっているという変わったもので最初は戸惑いましたが、やがて父と娘の親密さが出てくる効果がありました。
砂田 もともと記録用に撮影した素材をまとめてみて是枝さんに見せたところから公開が決まったんですが、ナレーションをお願いしていた方が収録直前に体調を崩されて。そこで是枝さんにナレーションをきみが入れてみたらと言われて、始めはどうなんだろうと思いましたが苦肉の策としてやってみたんです。
――「夢と狂気の王国」ではナレーションはないですが、鈴木さんの視点だったり宮崎さんの視点もありながら結果として砂田監督の作品になっているのに感銘を強く受けました。ジブリのドキュメンタリーは、それこそ「もののけ姫はこうして生まれた」のように長時間の素晴らしいドキュメンタリーも含め多くあります。でも、今までのドキュメンタリーと全く違うフラットな視点が今作にはありました。
砂田 そもそもメイキングのドキュメンタリーを作る気は全くなかったんです。プロデューサーの川上さんも「いわゆるメイキングじゃないドキュメンタリーなら意味がある」と言っていましたし、鈴木さんがこちらに編集など全て任せてくれたのも大きいです。
――こちらもドキュメンタリーを作るから分かるのですが、あれだけ被写体が心を開くことはなかなかないと思います。元ジブリにいたアニメーターの方からも宮崎駿監督は自分の時間を大事にしていて無駄な時間を取らせるようなことをさせない厳しい方だと聞いています。
砂田 始めは宮崎監督をカメラで撮影しない時間が長くありました。でもほぼ毎日、宮崎監督が朝スタジオに来てから帰るまで、とにかくずっと居て時々顔を見せながら、タイミングを考えていました。
――それは砂田さんの人間力であり、ドキュメンタリーひいてはフィクションでも映画を撮るのに必要な能力だと思います。
砂田 うーん、どうなんだろう...自分では分からないですが「対人間」としてこちらに話してくれなければ撮影してもしょうがないと思うんです。被写体の人間としての魅力はそこに出ますし。
――今作で宮崎監督が「映画なんかやっていたら不幸になる」と言ったりします。他にもすぐにその場で矛盾するような反対のことを言ったりします。普通だったら、統一性を持たせて編集するのに砂田さんはそうしない。そこが生々しいだけでなく、作り手及び対象の人間の魅力を捉えているなと。
砂田 たくさん撮影しているから後から見て気付くことも多いんです。「映画なんかやっていたら不幸になる」のシーンは映画でもあるように突然、宮崎監督が話しだしたんです。驚きましたし、これは使えるなとも思いました。
1 2