――最初に撮ったのはどのシーンですか？

矢崎　桜を撮らなきゃいけないというのがあって、桜のシーンからでした。こういう規模の映画にしてはプロデューサーの理解があって、秋にもまた撮影させていただけました。

――季節の移り変わりがあって、風景がとてもきれいでした。ただ、映画の中での時間の流れがよくわからない気がして。設定としてはどれくらいの時間が経過しているのでしょうか？

矢崎　あんまり考えてはいないです。ひとつ目安としては、夏生が妊娠を告白し、出産して子供が少し大きくなって、というのがあるから、時間の流れとしてはそれぐらいのくくりで考えていますが。

伊藤　この映画の中では時間が消えてしまうんですよ。怜の台詞に「時間がなくなったように感じた」とありますが、後半になると今まで流れていたはずの時間が消えて、生と死のはざまも定かではなくなる。そこがこの映画の面白いところです。

――ああ、そうですね。私は『スティルライフオブメモリーズ』というタイトルの"still life"という言葉の意味を知らなくて調べたんですが、「静物画」のことなんですね。「静止した生命」という一瞬と永遠が同時に感じられるような言い方をするのがすごく面白いなと思いました。静物写真の映画なので、タイトルにそれを英訳した言葉を使うのは普通のこととも言えますが、それ以上に多くの意味を含むタイトルになっている気がします。

矢崎　そうですね。荻野洋一さんが「このタイトルも妙ですね」と言ってくださいました（笑）。僕はタイトルに強く意味合いを入れるということはなくて、観た人が自分なりに何か重ねてくれればいいと思います。

――四方田犬彦さんにも出演していただいていますね。

矢崎　はい。伊藤さんと中村早さんと一緒に四方田さんのところに会いに行きました。

伊藤　「女性性器についてのエッセイが本当に映画になるのか」と驚いてらっしゃいました。講演場面の台詞はこの映画のために四方田さんが書き下ろしてくださったものです。

矢崎　不思議なもので、保坂和志さんに映画を観てもらったら、彼が西武百貨店に勤務していたときに、四方田さんに『映像要理』の講座をお願いしたらしいです。そういう不思議な巡り合わせがいろいろあります。『風たちの午後』に主演していただいた綾せつ子さんにも観てもらったら、「やっと撮れたね」と言われて驚きました。『風たちの午後』というのは、女性と女性の愛の話なんですけど、当時僕は綾さんに「次は近親相姦と、女性性器をめぐる冒険をやりたい」ということを言っていたらしいです。一本は『三月のライオン』ですが、もう一本の女性性器の方は、僕はすっかり忘れていて、伊藤さんが『映像要理』やマッケローニの写真集を持ってこられたときも、撮影中も一切思い出さなかったんですけど、完成試写のあと、綾さんに「やっと撮れたね、あなた言っていたじゃない、『女性性器の映画が撮りたい』って」と言われてやっと思い出して、今回これを撮る根っこが自分の中にあったんだなと。安藤さんが写真をやっていることも、なんか螺旋のようなつながりで出来上がった映画なんだな……と、あらためて思って自分がビックリしています。