インタビュー
園子温彦監督

園子温(映画監督)

映画「愛のむきだし」について

作品情報はこちら。
公式サイト:www.ai-muki.com
公式ブログ:aimuki.blog88.fc2.com

1月31日より、
ユーロスペース他にて公開中

園子温(映画監督)
愛知県豊川市出身。1987年に「男の花道」で、ぴあフィルムフェスティバル(PFF)のグランプリを受賞。代表作には、海外での評価が高い「自殺サークル」(01)などがある。最近は、テレビ朝日系列の金曜ナイトドラマの「時効警察」(06)の第4話及び第6話に脚本と演出で参加する。「奇妙なサーカス」(05)はカナダのファンタジア映画祭で作品賞受賞、「紀子の食卓」はカルロヴィヴァリ国際フィルムフェスティバル特別賞賛賞及びFICC受賞、プチョン国際ファンタスティック映画祭観客賞&主演女優賞受賞などと国際的な評価も獲得。その後、「HAZARD ハザード」(02年製作だが06年公開)、「気球クラブ、その後」(06)、「エクステ」(07)など意欲的に作品を発表し、海外作品の撮影も準備中である。今回のベルリン国際映画祭は「奇妙なサーカス」以来4年ぶりの出品となり、「愛のむきだし」でカリガリ賞、国際批評家連盟賞をダブル受賞した。

「愛のむきだし」は必見の大傑作である。4時間近くあって園子温監督の集大成的作品でもあるが、篭められた熱量が尋常でない。作品ごとにインタビューしてきた園監督だが、今後の活躍も当然ながら期待できることが今回のインタビューでも分かった。

愛のむきだし1

――今作は知り合いがモデルだとか。

 自主映画時代から知り合いに盗撮魔の男がいるんですよ。彼の妹が新興宗教にはまってしまい、脱会させるためにいろいろと頑張ったらしいんですが、そのとき『こっちの世界に戻ってこい』と言って説得したというのを聞いて『ちょっと待てよ、盗撮マニアの彼が言う“こっちの世界”って微妙じゃないか!?』と思ったんですよね。ただ、彼の体験をそのまま映画化してしまうと、単なる変態についての映画になってしまう(笑)。だから、これも実際の事件から思いついたんだけど、父親に懺悔する罪作りをするために盗撮魔になったという設定を思い付いた。ただ、あんなに派手なアクションをしながら盗撮をするというのは、もちろん完全なフィクションですけど(笑)。

――今作は去年の5月に初号の試写をイマジカで観せてもらいました。そのときは少数の関係者しかいなくて緊張感が漂っていましたが、一番前で観ていた園さんが2時間半ぐらいしたところで会場に出ていって、そのままもどらなくてびっくりしました。終映後に外でビール缶片手にホロ酔い気味でしたが(笑)。

 何か緊張しすぎて耐えられなくなっちゃってさ(笑)。できたばかりの作品だから、スクリーンで観るのに距離感をどうとっていいか分からなくなっていたし。

園子温監督2――その場で園さんには「大傑作ですね。集大成的な作品でもあって素晴らしいです」と伝えたら「そうかな。そう言ってもらえると嬉しいけど(笑)」と言っていたのは、そういうわけだったんですね。ただ、そのときは4時間近い上映時間が問題になっていて、3時間にする案も出ていました。興行的には1日に3回しか上映されないですし。

 でも、この映画には、この長さが必要なんだよね。観た人は分かると思うけど。

――ちょうど3時間ほどの海岸のシーンでバッサリ切る案も出ていました。こちらは大反対だったので、すぐに「映画芸術」で「「愛のむきだし」は4時間版で公開すべし」の旨の文章も書きました。

 ありがとう。4時間の本来の形で公開できたのはよかったよ。

――ヨーコ役の満島ひかりさんが輝いていますね。

 彼女は、ぼくの作品のファンだったらしいんだよね。「エクステ」と「帰ってきた時効警察」にも出ているし、テストじゃないけど、そこで良かったので「愛のむきだし」にも出てもらったんだ。彼女は集中力があるね。

――主演のユウ役のAAA(トリプル・エー)のメインボーカルを務める西島隆弘さんもいいですね。こちらがエキストラした新宿のロフトプラスワンは彼のシーンでした。

 ああ、あのシーンに来ていたんだ。

――朝早いロフトプラスワンの入口で挨拶したら、園さんは「来たんだー」って言っていましたよ(笑)。

 映画のスタッフやっていたから分かると思うけど、撮影中はいろいろあるからね。疲れるし。話しもどして、西島くんはすごく真摯に役に取り組んでくれた。あの役は実は難しいんだよ。普通に演じたら、単に気持ち悪い変態になってしまう。彼だから、爽やかさも感じるキャラクターになったんだ。

愛のむきだし2愛のむきだし3
――そして、小池役の安藤サクラさんと主人公の父親の神父役の渡部篤郎さんも他の出演作とは違う輝きを放っています。

 安藤サクラさんはね、オーディションの時から違ったね。彼女は今いる他の女優とは違う何かを持っている。昭和的とでもいうか。満島さんも方向性は違うけど、すごい役者だよね。そう、二人とも俳優というより役者という言葉が似合う感じがする。渡部篤郎さんは、今作の直前にフランスで舞台に出ていたんだけど、それでよりスケールが大きくなった印象があったね。受身で大変な役なんだけど、見事に演じきってくれた。

――今作は撮影が1回止まったように大変な現場だったとか。

 撮影開始して3週目で止まったんだけど、まあいろいろあるからね。強行軍の現場でもあったけど、そのことでよりスタッフも俳優も結束した面もあったから、結果としてよかったんじゃないかな。

――今の日本映画について聞きたいと思います。「愛のむきだし」は、今の日本映画に限らず映画の観客には、なかなか咀嚼力のいる、もしくはいりすぎる作品でもあると思います。もちろん良い意味でですが。その点はどう考えていますか?

 今の日本映画のヒット作が良い映画だったら、ぼくが撮っている映画の居場所はないよね(笑)。「良い映画の尺度はこれだ」みたいに、観客も作り手も洗脳されていると思う。

――「愛のむきだし」は、まさに映画以外の何ものでもない体験をさせてくれる稀有な作品だと思います。園さんが好きなファスビンダーやヘルツォークの作品にも通じるような。

 作品は海外でも評価されているし、日本映画を相手にしていないといったら違うけど、あえていえば予算が潤沢になくても、これだけの作品が今の日本で作れるんだよ、というのは示せたと思う。これからも日本じゃなくても、どこででも自分の作りたい作品を作ってくだけなんだけどね。

園子温監督3
――次作は海外の映画だと聞いていました。でも、その前に日本映画を1本撮るので、今日も衣装合わせがあるとか。園さんらしい精力的な活動ですが凄いです。

 話が来たからね。あえて今までやらなかった「余命もの」をやろうと思っているんだ。今まで避けていた要素を全部入れてやろうと思っているんだ。

――それは楽しみです。ハリウッド映画も園さんにぴったりの題材なので期待しています。

 去年の春に海外の脚本家が日本に来て、脚本を一緒に書いたからね。概要などは以前に話したけど、まだ内緒ということで。キャストも決まりつつあるけど、なかなかすごいよ。まずは、もうすぐ撮り始める日本映画だけどね。まあ、期待して待っていてください。

取材/文:わたなべ りんたろう

愛のむきだし 2008年 日本
原案・脚本・監督:園 子温 音楽:原田智英 撮影:谷川創平 美術:松塚隆史 照明:金子康博
録音:永口靖 編集:伊藤潤一 スタイリスト:松本智恵子 アクションデザイン:坂口拓
アクション監督:カラサワイサオ 特殊造形・特殊メイク:西村喜廣,石野大雅 VFXディレクター:馬場革
出演:西島隆弘 ,満島ひかり ,安藤サクラ,尾上寛之,清水優,永岡佑,広澤草,玄覺悠子,中村麻美,
渡辺真起子 ,渡部篤郎
(C)「愛のむきだし」フィルムパートナーズ
公式サイト:http://www.ai-muki.com/ /  公式ブログ:http://aimuki.blog88.fc2.com/

2009年1月31日より、ユーロスペース他にてロードショー公開中

愛のむきだし (単行本) 愛のむきだし (原作)

(著) 園子温
小学館
発売日: 2008-12
Amazon で詳細を見る

2009/02/21/14:47 | トラックバック (1)
わたなべりんたろう ,インタビュー
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