新作情報

ノーボーイズ・ノークライ

男が泣いても許される、それは“青春”だから。

8月、 シネマライズ、新宿武蔵野館、
シネ・リーブル池袋にて全国ロードショー!

INTRODUCTION

妻夫木聡&ハ・ジョンウ
日韓若手トップ俳優による“化学反応”が作品に厚みを与える

『ノーボーイズ・ノークライ』1演の二人には、日韓の若手トップ俳優を起用。亨役には、韓国での人気に加えNHK大河ドラマ「天地人」(09)でも大きな注目を集めている妻夫木聡。ヒョング役のハ・ジョンウは、08年2月に公開され興行成績No.1を記録した韓国映画『チェイサー』(09)で注目を浴び、韓国若手演技派として期待を集めている存在だ。
この共演により、主人公二人のキャラクターもさらに際立つものとなった。深い孤独を抱えながらも一見はのんびりとみせることでやりすごし、わからないことはわからないと素直に反応するヒョング。対する亨は鬱屈とした感情を抱え込み、無口で表情の変化も乏しい。チスの父親探しを通じて互いを知る時間が増えるにつれ、亨はヒョングの率直さに心を開き、ヒョングは亨の思慮深さに「何か」を感じ始める。作中でのセリフは大半が韓国語となるため、妻夫木聡はクランクインの1ヶ月前から韓国語を学習した。撮影以外のコミュニケーションも容易になったことから、スクリーン上でヒョングと亨が邂逅していく様もそれぞれの表現方法を受け止め合い、見事に演じ切ることができたといえる。身体を使い大きく表現するハ・ジョンウの演技と、表情で繊細に表現する妻夫木聡の演技は、殴り合いのシーンなどで大きくからみあい、さらに物語に厚みを増す効果を生み出した。本作での経験は、互いの演技スタイルに大きなプラスαをもたらすことになるだろう。

韓国側から熱烈なラブコールを受けて実現した日韓共作
『ジョゼ虎』『メゾン・ド・ヒミコ』の渡辺あやと
韓国の新進気鋭監督、キム・ヨンナムの初コラボレーション

の不自由な少女・ジョゼの恋愛を描いた『ジョゼと虎と魚たち』(03)、優しさと残酷さが同居するシナリオが高い評価を受けた『メゾン・ド・ヒミコ』(05)の2作は、韓国でも大ヒットとなった。これを受け、韓国の映画会社クラゼピクチャーズは両作の脚本を手がけた渡辺あやに熱烈なラブコールを送り、本作の企画が実現するに至った。監督にはインディペンデント出身の若手、キム・ヨンナムを起用。激しいストーリー展開と演出が目立つ韓国映画界において、繊細な人物描写で独特の世界観を作り出す監督として高い評価を得ている監督だ。長編デビュー作である『俺の青春に叫ぶ』は、ロカルノ国際映画祭の国際 批評家連盟賞およびNETPAC賞、07年台湾映画祭の審査員特別賞を受賞したほか、数々の海外映画祭で上映され話題を呼んだ。暗い現実を背負う日韓の青年を主人公としている本作だが、『ノーボーイズ・ノークライ』2作品のトーンはダークになりすぎず、渡辺あやが得意とする現代的なテンポと適度なドライさが際立つものにまとまった。そこに、キム・ヨンナムの繊細な人物表現と演出が加わり、既視感を抱かせながらもどこか非現実的なニュアンスをも生み出している。時折、おとぎ話のようにも感じられるこの不思議で多様なニュアンスは、作品の重要なモチーフである「人魚」ともうまくからみ合っている。

敵でもない、味方でもない、好きでもない、嫌いでもない。
ただ、僕たちは生きるために手を組んだ──

国から来た男は、背中を丸め必死に「何か」を抱え込んでいた。岸辺でランプを照らし彼を出迎える日本の男にも、抱え込んでいる目に見えない「何か」がある。幼い頃に親から捨てられた孤児のヒョングと、絶望的な状況にある家族が重荷となり自身の幸せを諦めていた亨。韓国と日本に生まれ、家族を持たない男と家族に縛られる男――BOYS――は、闇の仕事の下っ端同士として出会った。あくまでも楽観的に考えようとするヒョングにとって、無口で無愛想な亨は何を考えているかわからない存在。しかし、失踪した父を探す韓国人少女・チスの出現によって、互いが心の奥底で抱え込んでいた「何か」が形になりはじめる。時に人を勇気づけ、時に人を苦悩させる「家族への思い」。それぞれが悩み苦しむ様を描いた短い夏の物語が本作だ。韓国から古ボートに乗ってやってきた孤独な魂は、日本で絶望に押しつぶされかけていた魂と呼応し合い、小さな光だけがわずかに見える出口に向かって走り出す。組織に背いた彼らを襲う事態は、非常に複雑で救いのないものばかり。それでも2人は「思い」を胸に、まるで今にも沈没しそうな古ボートのように不安定ながらも、夏を舞台として駆け抜けてゆく。その疾走の果てに、スクリーン上には何とも定義しがたい、けれど「かけがえのない」存在として互いをとらえる新たな思いが浮かびあがる。

8月、シネマライズ、新宿武蔵野館、
シネ・リーブル池袋にて全国ロードショー!

Production Note

『ノーボーイズ・ノークライ』3企画の成り立ちは2005年、韓国のレンメーカーソウルという会社から脚本家の渡辺あやに連絡が入った事から始まる。韓国のクラゼピクチャーズ社の社長でプロデューサーのジュノ・リーは、日本との合作を作って行く、ということを自社の一つの売りにしようとしていた。彼らの会社は韓国映画界では後発だったこともあったため、すでに韓国で広く認知されていた『ジョゼと虎と魚たち』や『メゾン・ド・ヒミコ』の渡辺あやに脚本を依頼、監督を韓国人で、というプランを進めていた。2006年2月頃に渡辺から連絡を受けたプロデューサー久保田修はこのプロジェクトに賛同。しかし、合作ありきではなく、まず、渡辺あやの脚本を映画にする、ということに最も魅力を感じたという。久保田は渡辺あやの脚本を、「その人の体臭まで感じられるくらい、キャラクターが生き生きとしていて、ビビットです。過ぎ去ってしまうと二度と切り取れない瞬間。そういう瞬間の切り取り方が素晴らしい。どんなにバカっぽい話でも、どこか悲しい。常に美しいものと醜いもの、笑える物と悲しい物、愛情とセックス、そういう矛盾するものを一緒に書いて行く。その辺りが愛しいですね。唯一無比と言って良いのではないでしょうか。」と評価する。
韓国サイドから渡辺への依頼は「ラブストーリーはやめてくれ」という物。韓国人と日本人の恋物語というありふれた物語はなし。この依頼から、愛情でもなく、友情でもない、「魂のふれあい」としか表現できない亨とヒョングの関係が生まれて行く。

2006年の3月末の第一稿から改稿を重ね、2006年11月に現在の原型が上がる。その後、物語は変わって行くが、ヒョングが海を渡り、受ける側に亨、そして2人の逃避行が始まる、という流れがここで決まった。
その後難航したのが監督選び。脚本と同時進行進められたが、韓国映画界が活況を呈し、誰も仕事に困っていなかったという時期だったために、なかなか決まらない。数名の候補があがる中、2007年の2月に久保田と渡辺が韓国に向かい、キム・ヨンナム監督と会談。まだ経験の浅い監督ではあったが、本人のモチベーションが非常に高かったこと、彼の作品『ドント・ルック・バック』には荒削りではあるが所々に目を見張るシーンがあるということでキム監督に決定する。
『ノーボーイズ・ノークライ』4日本側は亨役を、韓国側はヒョング役を探す、というキャスティングでは、2007年の秋から冬にかけて、妻夫木聡、ハ・ジョンウというラインが決定。妻夫木については、脚本の初期段階から名前があがっていた。渡辺が脚本を手掛けた『ジョゼと虎と魚たち』でも主演を務めた妻夫木聡だが、「家族なんて放ってどこかに行ってしまうことも出来るのにそうしない。“やってらんねぇな”と言いながら必死にになる。亨は根っこの部分がいいやつなんです。そんな部分がやはり妻夫木さんにお願いする決め手になったと思います。」と久保田は語る。ただ、今まで妻夫木聡が演じてきた役柄とは随分違う。亨の役柄はどこか屈折し、世の中に怒りを感じている。妻夫木にとっても挑戦だったに違いないが、それを上手く引き出すことに成功したのがヒョング役のハ・ジョンウであった。
本作に出演が決定した後、彼の出演作『チェイサー』が韓国で記録的なヒットを飛ばし、一気に大スターに上り詰めたハ・ジョンウの存在は、本作品にとって最も大きい幸運の一つと言える。当初、製作サイドが想像していたヒョングのキャラクターは、もっとメリハリが利いた男だった。しかしハ・ジョンウは最初から大きな男ならではの愚鈍さ、常に反応がワンテンポ遅い感じの独特のトーンで演じ、それが段々とチャーミングなキャラクターになって行く。それとは全く正反対の妻夫木演じる亨とヒョングとのコントラストが本作の一番の面白さだと言っても過言ではないだろう。
そんな二人の心が始めて通じ合うきっかけとなった亨とヒョングが町で歌い出すカラオケのシーン。このシーンはそもそも脚本には無かった。しかし、あのシーンが存在が追加されることによって、亨とヒョングの言葉では言い表せない強い結び付きが生まれた。自分がやりきれない時になぜか横に来て歌ってくれるやつがいた、そこで何か会話があった訳ではなく、ただカラオケで「アジアの純真」を歌うことで、言葉ではない魂のふれあいを表現することとなった。
また共演者にも恵まれた。『フラガール』でフラダンスを始めたことによって、父親に暴力を振られてしまうという役を演じた徳永えり。今回彼女が演じた役柄は非常に難しい演技を要求され、なげやりな中にも母親を思わせる素晴らしい表情を見せた。貫地谷しほりが演じる敦子は一見おっとりして見えるが、女性ならではの冷静さと生命力の確かさがある、そんな敦子は貫地谷にぴったりだった。韓国サイドのキャスティングもスムーズだった。「パンク少女」というキャラクターのチス役のを見事に演じたチャ・スヨン、ボギョンおじさんを演じたイ・デヨンは、キャリアも長く、安定感もあり、安心して見ていられた、とスタッフ達も語る。
ロケーションはスタッフには渡辺あやの地元、島根県浜田市でやりたい、という希望も有ったが、本来の設定は山口県で、ロケ地の候補としては福岡県や鳥取、島根、山口と色々上がったものの、最終的には新潟にロケ地が決定。2008年の7月にクランク・インし、無事、月にクランク・アップ。韓国でのポスト・プロダクションを経て、音楽には砂原良徳を起用。オープニングにかかる音楽は作品の方向性を決定付けているほどの存在感を放ち、主題歌を手掛けた元スーパーカーのiLLの「Deadly Lovely」も本作のエンディングに相応しい余韻のあるムードを生み出している。

8月、シネマライズ、新宿武蔵野館、
シネ・リーブル池袋にて全国ロードショー!

インタビュー

キム・ヨンナム監督 インタビュー

――日本と韓国の合作の監督に抜擢された時の感想は?

キム・ヨンナム監督 最初に話を頂いた時、製作者の本プロジェクトに対する目標、そして、本作品への情熱を感じました。私もまた彼らと同じくこの作品に情熱を持つことができました。このことが一番の決め手です。それから渡辺あやさんのシナリオを読み、彼女が映画の中で描こうとした情緒や情感を、自分自身の心の奥底にある感情から掘り起こすことができました。その時、まるで映画の中の二人の友達(亨、ヒョング)がすぐ傍にいるような感覚をもてたことを覚えています。またこの作品を日韓合作映画として作っていく中で、両国のスタッフ皆が心をオープンにすれば、非常に楽しく興味深い作業になると思いました。

――実際に日本と韓国の映画づくりの違いは?

キム・ヨンナム監督 韓国でも、映画製作のスタイルは様々です。日本と韓国の間で映画作りに差はないと言う人もいるようですが、違いは存在すると感じました。それは製作方法の違いだと単純な説明ができるものではなく、文化や映画製作の産業的な基盤に差があり、具体的にこの点が違うということは一言では言いにくいですね。特に韓国では日本よりも監督中心に映画作りが進行します。例えば韓国では打合せをする際、監督を中心に直接関わる少人数のスタッフで事前の打ち合わせをし、大まかな流れを決めます。その後、他のスタッフにオープンするのが通例です。今回こういった作業で約20人のスタッフが一同に会し、意見を交わすことがありました。また、現場でも俳優と監督が映画に対して交わした話がすぐ全てのスタッフに大きな声で伝わることに、初めは戸惑いを感じました。でもそれは監督の考えを全てのスタッフが熱心に聞き、実現に向けて力を尽くしてくれるということだったと思います。安定した作業とスケジュールが組まれていた点は日本ならではだと思いました。映画製作の現場とは、そもそも多くの違う人間が共同作業をする場であり、皆が全てを共有することは現実的に難しいと思います。その違いをどちらか一方に無理やり引き寄せようとするのではなく、お互いにその違いを認めることで、映画作りはスムーズになると再認識しました。映画の中で、皆で一緒にチヂミを食べる場面のようにね。

――妻夫木聡との仕事を通じて感じたことは?

キム・ヨンナム監督 いつか誰かに、妻夫木さんはまるで限界なく吸収し続けるスポンジみたいな俳優だと表現した事があります。彼と話していると、ずっと奥深くに水が満たされ続ける井戸のように、情緒的な独特のリズムがあり、それらが人々を引き寄せているのだと感じました。彼を見ていると、誰でも一歩近付きたくなる、誰もが思わず共感する、そういう彼の持つ雰囲気とリズムが妻夫木さんの魅力だと思います。私は現場での妻夫木さん、ハ・ジョンウ二人の笑顔と空気感が好きでした。眺めている私をも寛がせる笑顔です。多分スタッフもみんなそう思っていたでしょうね。

――ハ・ジョンウとの仕事を通して感じたことは?

キム・ヨンナム監督 ハ・ジョンウを通じて感じたことは、彼の内面にある俳優としての器には境界線がなく、どこまでも可能性を広げていける人だということです。例えば、ハ・ジョンウはタバコを吸う場面一つにしても、目覚める場面一つにしても、そのお芝居を何も考えずやるということをしない。さり気無さの中に、無限の広がりを感じさせます。いつか撮休の日に彼の部屋に立ち寄ったとき、驚いたことがあります。彼は、部屋の中を歩く、冷蔵庫を開閉するなどの日常の動きの中に、ヒョングらしさを発見しながら過ごしているのです。彼は目つきや体のすべてを使って、言葉で説明できない何かを表現しています。そこが他の誰でもないハ・ジョンウの魅力だと思います。

――二人への演出で心がけたことは?

キム・ヨンナム監督 シナリオの段階から二人とも理解が深かったので、監督として大きく調節したことはありません。私は監督として、はじめから彼らに一つ一つ提示するのではなくまずは大きい方向を提示し、彼らに自由に演じてもらい、そこから私のイメージと比べ、望む地点に近づけるようにしました。 二人の感情を非効率的に消費させたり、感情の調節に影響しないように、とても纎細に気配りしました。ただ俳優たちが同じ時間、同じ空間に存在するだけではなく、お互いに重なりあい、影響しあい、新しいものを生み出す化学作用が働かなければならないとは感じていました。

――渡辺あやさんとの脚本作りにおいて、この作品をどういう映画にしていこう(いきたい)という話はあったのか?またどういう点に気をつけて脚本つくりを進めたのか?

キム・ヨンナム監督 渡辺あやさんの脚本は情緒的で、纎細で、豊かながらも正確です。脚本作りの中で、胸をうった渡辺さんの言葉があります。‘亨とヒョングは、最初はそれぞれ、カチカチに固まった二つの毛糸玉みたいです。でもそれが、ぶつかりあううち、ゆっくりとほどけてゆき、なんとなくからまりあい、気付いたら、2本の毛糸の結び目ができている…’という話です。この言葉は脚本作りの指標となりました。日本と韓国の観客に向けて、二人の主人公を通じてこのことがうまく表現できたらいいと思います。また渡辺さんとは、もっと広い意味で両国間の人たちの関係もこうなれば良いという話もしました。私自身、監督と観客との関係も、この映画中の二人の人物と同じように結べていければと感じています。

――人魚の話はどういったところから生まれたのか?

キム・ヨンナム監督 ヒョングのキャラクターを表現する時、具体的なエピソードを回想シーンとして入れるのではなく、ヒョングの内面の中で描く何らかのイメージを通じて見せたいと考えました。それをあやさんが人魚の話にしてくれたんです。直接的な表現ではないですが、ヒョングのナレーションと、抽象的なイメージによって内面をうまく表現できると思いました。映画の中で人魚のイメージは幼い時のヒョングの母へのイメージでもあり,物語の最後までヒョングが持ち続けた強いイメージです。

――ズバリ、この映画で何を描きたかったのか?

キム・ヨンナム監督 人間とは寂しくて孤独な生き物です。しかし一方で、自分でも気づかないうちに誰かと繋がっていく。すなわち人と人との結び目は必ず存在すると思います。映画『ノー ボーイズ,ノー クライ』は人が誰かと関係を築く過程を描こうとしました。その過程の中で一度は生きることへの絶望を感じ、それでも再び立ち上ること、そうできる人生の自由を率直に描こうとしました。そういうことを、この映画を通じて皆に感じてほしいですね。

脚本家・渡辺あや インタビュー

――韓国側から企画の話があった際、「ラブストーリー以外で」ということが依頼内容にあったとお聞きしました。その依頼をお聞きになったとき、まずどんなストーリーを思い浮かべましたか?そしてなぜこのストーリーに辿り着いたのでしょうか?

渡辺あや 私が今住んでいる町の海に、よく韓国からの漂着物が転がっているのです。ハングル語の空き缶とか漁師さんの旗とか。私にとっての韓国という国への手触りは「海の向こうのわりと近く」で、その距離感をとてもロマンチックに思っていました。だから韓日の二人が出会うとしたら、飛行機での行き来ではなく海を、しかも漂着物のようにどんなゲートも通ることなく単純な物理としてたどり着く、みたいなことを一番最初にイメージしたと思います。

――『ジョゼと虎と魚たち』以来の妻夫木聡さんとの作品になります。渡辺あやさんから見た俳優・妻夫木聡さんの魅力はどんなところにありますか?

渡辺あや 今回の韓国語の習得スピードなんかを見てても思ったのですが、彼はとても多才で器用な人です。俳優部のトップを張る人ですが、あれだけの集中力と洞察力、人柄を備えた人というのは、実は撮影部にいても美術部にいてもハイレベルな仕事ができてしまうだろうと思います。でも面白いのは、と同時に魅力的なのは、にもかかわらず妻夫木さんにはあまり「器用」という印象がありません。それは、彼の中にやるべきことを「ハート」で理解できているかどうか、という大きな関門があるせいではないかと思います。初めて会ったときからそうですが、その場に起こっていること、話している相手、取り組んでいる仕事、大きく言うと生きるためのすべてを彼はハートから取り込んでハートから吐き出している感じがします。魚のエラ呼吸みたいなその運動のゆらがなさ、ダイナミズムをみんなあの笑顔に本能的に感じて、ノックアウトされてしまうんだと思います。

――続いてハ・ジョンウという俳優についての魅力をお聞かせください。

渡辺あや 非常に知的で、創造的な仕事をされる俳優さんです。実は脚本上のヒョングと、ハ・ジョンウさんの体現されたヒョングは微妙に違っています。そのため現場はよく混乱していました(笑)。でも私は確かにハ・ジョンウさんのヒョングが脚本と常にズレていながら、そのズレ方に確かな一貫性があることにひそかに興奮していました。ヒョングという人物を、ハ・ジョンウさんはご自身の非常に奥深い部分に根付かせ、そこから最も生な反応を「演技」として表出されていたように思います。そして、どんな演技をされていても、そのたった一つの表現を選び取るまでに捨てられた選択肢の数が膨大であることが、なぜか伝わってきました。結果的に映画の中のヒョングは、ほんのちょっと目を見開いただけでも、口を尖らせただけでも、そこに宿る表現力たるや絶大です。ビジュアルでもファッションでもなく、演ずるという俳優としての本分に真摯に取り組まれ、鮮やかな結果を見せてくださった。圧巻でした。

――撮影に立ち会われて日韓合作という点で渡辺あやさんが驚いた点、日本と違うなと感じた点などありましたでしょうか?

渡辺あや 「韓国は日本と違う」と思ったこともないわけではなかったのですが、おそらくその感想は雑だし不毛だ、という気もしたので、そう感じたときには、不精をせずよく観察することにしていました。個人的結論としては、そもそも自分以外の人というのはみんな自分とは違うものなので、その「違う!」という違和感の内訳に国籍や国民性というものがどの程度占められているのかなんて正しくはまったく計れないんじゃないか、という感じです。なので本作が私の他の作品と違っていたとしても、その理由は多分「合作ゆえ」ではないのだと思います。

――物語で渡辺あやさんが一番大切にされた点、こだわりのポイントを教えてください。

渡辺あや 劇中でヒョングと亨がPUFFYの「アジアの純真」を唄うのですが、この曲について、わりと反対を受けました。実際のいきさつとしては、監督と私とプロデューサーたちで話し合っているとき、カラオケのシーンを入れようということになり、二人で唄うというイメージからPUFFYがあがり、PUFFYの代表曲といえば「アジアの純真」、という順番で思いついた曲でした。でも「アジア」という単語にひっかかる人が結構いて「踊るポンポコリン」に変えてはどうかという提案があったり、要はタイトルや歌詞と、映画の内容のシンクロ度が意図的に見えすぎるということを心配する人が多かったのです。
私は結構日和見で難癖をつけられるとあっさり妥協することも多いのですが、この曲については、どうしても譲れませんでした。単純にこの曲がいいから!というのもあったのですが、反対理由の寒々しい感じになじめなかったのだと思います。

――キム・ヨンナム監督の演出で、気付いた点がありましたら教えてください。

渡辺あや 脚本家としていちばん不安に思っていたのは、奈美の息子の「真」のことでした。自分が出してしまったものの、3歳児といえばほとんどの場合素人の役者さんが演じられるわけで(笑)、自然に見せることがとても難しいキャラクターだと予測がつきました。
さらに「病気である」ということのリアリティを付加する必要があり、そこが失敗すると物語全体に響いてしまうので非常に心配していたのですが、キャスティングも演出もとてもうまくいっていて、さすがだと思いました。ただそれは細かいことでもっと大きな意味では、監督ご本人のあり方そのものがひとつの演出だったように思います。 何事にも簡単には答えを出そうとされないので、これまた混乱している人たちをよく見かけましたが、でもそれは監督がこの世界のあり方の本当の複雑さを知り抜いていらっしゃるがゆえであるように私には思えました。その一点において最後まで妥協されなかったのは、実はすごく崇高なことだと仰ぎ見る思いです。

C R E D I T

妻夫木聡,ハ・ジョンウ,チャ・スヨン,徳永えり,キム・ブソン,チョン・インギ,柄本佑,あがた森魚,イ・デヨン,貫地谷しほり
脚本:渡辺あや 監督:キム・ヨンナム
音楽:砂原良徳「No Boys, No Cry Original Sound Track」(Ki/oon Records)
主題歌:iLL「Deadly Lovely」(Ki/oon Records)
プロデューサー:久保田修,イ・ジュンホ
エグゼクティブ・プロデューサー:樫野孝人,ミン・ジョンファン  共同プロデューサー:ション・シン,田中美幸
監督補:池上純哉  撮影:蔦井孝洋(J.S.C.) 美術:磯田典宏 照明:疋田ヨシタケ 録音:ソン・ジンヒョク
サウンドスーパーバイザー: イ・スンチョル イ・ソンジン 編集:キム・ヒョンジュ 助監督:権野 元
制作担当:田口雄介 ライン・プロデューサー:黛威久 ユン・ソニョン 音楽プロデューサー:安井 輝
製作:「The Boat」フィルム・コミッティ(IMJエンタテインメント / ミシガンベンチャーキャピタル / メディアファクトリー / ファントム・フィルム / アスミック・エース エンタテインメント / 中部日本放送 / クラゼピクチャーズ)
制作プロダクション:IMJエンタテインメント / クラゼピクチャーズ 製作支援:KOFIC 配給:ファントム・フィルム
(C)2008「The Boat」フィルム・コミッティ
http://www.noboysnocry.com/

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2009/07/14/09:43 | トラックバック (0)
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