奥田庸介 (監督)
映画「東京プレイボーイクラブ」について
2012年2月4日(土)、渋谷・ユーロスペース、シネマート新宿他にて全国ロードショー
自主製作作品『青春墓場~明日と一緒に歩くのだ~』が高い評価を受けた奥田庸介監督の商業映画デビュー作『東京プレイボーイクラブ』がいよいよ公開される。撮影時24歳という若さで大森南朋、光石研、臼田あさ美ら個性派俳優が鮮烈に躍動するエンターテインメント活劇を撮り上げた奥田監督は、作風同様豪快さやユーモアたっぷりながら、初めての大仕事での感激や不安も隠さず口にする熱い好青年だった。作品に込めた思いや撮影時のエピソードなどについて語っていただいた。(取材:深谷直子)
――大森さんや光石さんはいつにも増してキレた演技で迫力がありましたが、監督のほうからは演技にどんな注文をされたんですか?
奥田 基本的にテスト1発本番1発で進めていったんですよね。シナリオの読みが抜群なので、そんなに細かく演出するところはなかったんですけど、ただ激しいシーンでは俺もテンションを上げてかなきゃならないので怒鳴ったりしましたね。
――大森さんたちを怒鳴ったんですか。
奥田 乱闘シーンで南朋さんがあんなにやってくれるとは思わなくて嬉しくなっちゃったんですよ。俺もテンション上がっちゃって、「ぶち壊せ! いいんだよ壊せば!」とかずっと言ってて、店の人が奥で苦笑いしてたのも知らずに怒鳴っていたら熱出ちゃって。でも監督ってハッタリが大事じゃないですか。「(ボソッと)あ、用意スタート」なんて言っても何も面白くない。「用意スタート!!」って行かなきゃ。
――音楽も20代の若者が選ぶとは思えない渋い選曲でした。チャボ(仲井戸麗市)さんだとか原田芳雄さんだとか。
奥田 チャボさんの曲は、南朋さんがチャボさんの大ファンだということを伺い、南朋さんへのお礼の意味も込めて選びました。あとは全部俺が感覚で選びました。これは職業病だと思うんですけど、音楽を聴くと映像がフラッシュ・バックされちゃうんですよ。iPod聴きながら電車に乗ってても映像が浮かんでくる。これは映画に使える音楽だとか、常にそういうものを求めてますね。やっぱり映画にとって音楽って大事ですからね。
――ヒップホップが好きなんですよね。
奥田 見ての通りです(笑)。自分の映画を観直すと、俺のセリフ回しってヒップホップの影響を色濃く受けてるなあって思いますね。ヒップホップっていうのは、トラックがあって、その上を韻を踏んでラップを作っていくじゃないですか。だから限られた言葉の中でどれだけ意味を込められるかというのが勝負になってくるわけですよね。俺がセリフを書くときにも、どれだけ最小限の言葉でいろんなことを表現できるか、あとは言い回しで、例えば「てめぇ怒ってんじゃねえぞ」っていうのと「てめぇ逆上せあがってんじゃねえぞ」っていうのとでは、後のほうが迫力があるじゃないですか。そういうのをすごく大事にしています。たとえ海外の人が観たとしても、音として入ってきて気持ちがいいようにと意識して俺は書いてます。
――確かにセリフにリズム感があると思いました。アドリブも飛び出すぐらい自由度の高い演出法なんだと思っていたんですが、セリフはこだわって書いているんですね。
奥田 基本的にアドリブでセリフを変えられると困りますけど、ただ、役者さんがすごく気持ちよく演じているときは、ここで止めるよりそのまま行ってもらったほうがいいんじゃないかと思うので、そこは現場での判断で決めますね。現場至上主義なので。あと、役者さんにお任せした部分もあります。光石さんって福岡出身なんですが、方言でやってくださいって言ったんですよ。方言ってやっぱり音としてもいいし、迫力もあるし。でも俺は東北出身で福岡の方言なんて書けないから、シナリオは全部標準語で書いて光石さんにお任せしたんです。古い仲間である勝利と喋るときは方言が出て、東京の人間と喋るときは方言がちょっと薄れるというようなニュアンスでと伝えていたんですが、それを光石さんは完璧にこなしていたんですよね。俺には一切言わないで、現場では飄々としながら。素晴らしいです。感動しましたね。これがプロフェッショナルかと思いました。
――さすがですね。求められていることに的確に応えてくれるんですね。プロの方と組む面白さが分かったという感じでしょうか。
奥田 プロデューサーの甲斐(真樹)さんと映画を撮ることになったときに、甲斐さんとしては俺に今まで通り慣れた若いスタッフと一緒に撮らせるか、プロと組んで撮らせるかの二択だったんですけど、「プロと撮らせよう」っていう判断をしてくれたんです。甲斐さんの思い切りの良さというのにも感謝してます。何も知らない田舎のポテトヘッド野郎が、撮影の今井(孝博)さんなり照明の松本(憲人)さんなり、もちろん南朋さんなり光石さんなりと組んで、自分で言うのも何だけどめちゃくちゃ成長しましたよ。今の俺は去年の俺の100倍すごいです。
――プロデューサーさんとしても、ハードルをぐっと上げて、「ついてこれるのか」という挑戦と「ついてきてほしい」という期待とがあったんでしょうね。自主ではたくさん撮られていますけど、プロの方々の仕事の一番の違いというのはどんなところですか。
奥田 プロとなると現場のスタンスも違うし、意識も違うし。みなさんプロ意識の高さっていうのが半端ないですよね。自分の仕事に対するプライドっていうのが強烈で、そこにちょっと押されてしまったというのが今回の課題かな。
――やっぱりこれだけの方が揃ったら大変な部分もあったんですね。
奥田 プロと一緒に撮ることで相当疲弊するだろうということは覚悟してましたけどね。まあ俺は反省はするけど後悔は絶対しないし。『東京プレイボーイクラブ』を撮っていろいろやっちまったことはあるけど、それを含めて混沌とした映画として成立しているので、自分としてはOKだと思っています。これからも毎回毎回燃え尽きるつもりで撮りますよ。そうじゃないと映画なんて撮る意味ない。これで思い残すことはないぐらいの映画を撮るんだっていう覚悟がないのは邪道だと思うんです。
出演:大森南朋,光石研,臼田あさ美,淵上泰史,赤堀雅秋,三浦貴大,佐藤佐吉
監督・脚本:奥田庸介 エンディングテーマ:「パワー・イン・ザ・ワールド」/エレファントカシマシ
プロデューサー:甲斐真樹 ラインプロデューサー:川原伸一 撮影:今井孝博照明:松本憲人 美術:平井淳郎
録音:高田伸也 編集:小野寺拓也 音楽:石塚徹 助監督:大橋祥正 製作:スタイルジャム、ミッドシップ
配給:スタイルジャム 配給協力:ビターズ・エンド ©2011 東京プレイボーイクラブ