スーパーローカルヒーロー
2015年3月21日(土)より、新宿K’sシネマほか全国順次ロードショー
3月21日より公開予定の『スーパーローカルヒーロー』は、ちょっと不思議なCDショップ「れいこう堂」を営む信恵(のぶえ)さんの日々を記録したドキュメンタリーだ。
広島県尾道市のとある住宅街。地元の人々が行き交う普通の通りに、CDショップ「れいこう堂」はある。猫が描かれた大きな看板が掲げられた、周りの景色とは少し違った空気を放つこのCDショップは、ただのCDショップではない。なにせCDショップなのにCDが少ない!(笑)
むしろ野菜やジュースに雑誌といった、一見すると場違いな商品がポツポツと置かれている。「なんのお店なんですか?」と訊きたくなってしまうが、不思議なことにそれらの商品は独特の存在感を放ちながら見事に調和しており、CDショップ「れいこう堂」を味わい深い空間にしている。
そんな「れいこう堂」の店主の名前は信恵さん。一見すると、いつもニコニコしている普通のおじさんだが、信恵さんは普通のおじさんではない。大阪でインディーズ時代を送っていたEGO-WRAPPIN'、『かぐや姫の物語』の主題歌歌手である二階堂和美、リズム&ブルースバンドのモアリズムといったミュージシャン達を、身銭を切ってライブに招待し、彼らを待つファンとの架け橋になってきた人なのだ。その人柄と人望から音楽界では超有名な人物であり、信恵さんをリスペクトするミュージシャンたちの口から語られる素敵すぎるエピソードには、思わず目頭が熱くなってしまう。
営利を度外視して人々の笑顔のために奔走する信恵さんは、気の向くままにのんびりと「れいこう堂」を営む。その姿からは、商売が成り立っているのか心配になってしまうが、信恵さんは気にしていない。その自由な姿勢が人々を惹きつけるのだ。 そんな信恵さんだが、彼は多くの人を救ってきた「スーパーローカルヒーロー」でもある。
日本国民のみならず、世界中に衝撃を与えた東日本大震災と原発事故。信恵さんはあの2011年の3月11日から今に至るまで支援活動を続けている。信恵さんは放射能汚染によって外で遊ぶことができなくなった子供達や、東日本から疎開してきた人々に、身銭を切って交流の場を提供してきた。その交流の中では、人々にとってどこか他人事のようだった原発事故に対する、直接的な被災者、間接的な被災者、それぞれの立場からの葛藤と苦しみが映し出されていく。信恵さんは、やり場のない悲しみを抱える被災者たちと時間を共有することで、彼らが負った傷を癒し、笑顔にしてきた。
刹那的に寄付や募金をすることは容易い。しかし、支援を継続することは難しい。そして被災者から面と向かって話を聞き、共に涙を流し、笑い合うことはもっと難しい。信恵さんは、コミュニケーションという武器で悲しみという悪に立ち向かい、人々を笑顔にするヒーローなのだ。犯罪を撲滅したり、エイリアンから地球を守るわけではないけれど、彼が人々の笑顔のために不器用に頑張る姿はどんなスーパーヒーローよりもかっこいい。
わずか91分の記録映像の中には、数え切れない笑顔が溢れていた。信恵さんは、今日も人知れず誰かを救っている。
鑑賞後、「私も信恵さんのように何かしなければ!」と思わせてくれる本作が、一人でも多くの人の元に届きますように。
(2015.3.6)
第30回ワルシャワ国際映画祭(ポーランド)出品 2014/10/10-19
カメラジャパンフェスティバル2014(オランダ)オフィシャルセレクション 2014/10/2-12
出演:EGO-WRAPPIN’,二階堂和美,モアリズム,オーサカ=モノレール,畠山美由紀,アン・サリー,小池龍平,ハンバート ハンバート,Chocolat & Akito,高鈴 など
取材協力:UA,中川敬,mama!milk,アーサー・ビナード(詩人),鎌仲ひとみ(映画監督)など 音楽:青柳拓次 アートディレクター:山下リサ スチール:亀山ののこ
監督・撮影・編集:田中トシノリ
配給協力:シネマ尾道 製作・宣伝・配給:映画「れいこう堂」製作委員会
2014|91分|FHD|16:9|カラー|日本 2014 ©映画「れいこう堂」製作委員会
公式サイト
2015年3月21日(土)より、新宿K’sシネマほか全国順次ロードショー
- 監督:高畑勲
- 発売日:2014/12/03
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