――もうひとりのヒロインのまみは高校時代からのメンバーの松永祐佳さんですね。最初から松永さんを主演に想定していて、ストーリーも女の子を主人公とするものになったのでしょうか？

伊藤　『虹色★ロケット』も、あと『ユートピア』に入る前にファンタジーの練習として作った『最後の星捕り』(12)という短編があるんですが、それも松永主演でしたね。男を主人公にすると雑念が入るというか、男って考えていることといえばエロいことばっかりで、それが『ユートピア』という作品にとって余計な気がして。今はそんなことはなくて男主人公で撮りたいなと思っているんですけど、当時はそれが恥ずかしかったというか、例えば二段ベッドの下の段に男が寝ていて、上に落ちてきたのが女の子だと、恋愛になっちゃうと思うんですよね。それで最終的には引き裂かれて離れ離れに生きる……という切ない恋になると思うんですけど、それはちょっと余計だなあと。主人公ががんばる理由も「恋のため」とするとすごく簡単なんですけど、そこはあんまり興味がなくて、それで女の子を主人公にしていますね。

――撮影も素晴らしかったです。非常事態宣言下の東京を低予算で表現するというのは難しいと思うのですが、そう見えていました。

伊藤　もともとなんでこういう話にしようと思ったかというと、撮れそうだからなんですよ。ファンタジーなんだけど舞台は東京で、異世界が背後にあることにして東京で撮るということなら、でっかいファンタジーがやれるんじゃないかと、まあ甘い考えを持ちまして。で、もともとは普通に電気が通じている設定だったので、テレビとか新聞とか携帯電話とかいろんなメディアから情報を得るシーンがたくさんあったんですけど、途中で電源がすべて喪失しているという設定に変えたんですね。

――それは震災の影響でしょうか？

伊藤　震災の影響ですね。厳密にいうと「太陽嵐」という災害について描きたかったというのがあって。「太陽嵐」というのは周期的に起こって今後も必ず発生するというもので、太陽の表面で爆発が起こり、それで発生した電磁波とかコロナガスが何時間後かに地球に届いて、送電網や通信などに影響を及ぼしインフラが壊滅してしまうという。劇中では太陽嵐が起こっているわけではなく、ユートピア人が来たことによって電磁波が発生して東京近郊のインフラがダメになってしまうということにしています。そういう設定にしたことで災害感が増して、撮影も大変でした。

ウダ　僕が、特に2回目に観たときに勝手に思ったのは、1回目はSFファンタジーだと思って観ていたけど、2回目を観たとき「これってSF関係なく”ユートピア学園”の物語なんじゃないか？」って。ベア、コニ、エアリとまみちゃんが水を持って坂道を歩き、信号石が飛んだのを見て、疲れていたのに水を落として走っていく。あの若い4人が悩んで仲よくなっていく姿とか、そういうことのほうが描きたいんじゃないのかな？と思いました。

伊藤　ユートピアからやってきてまみと交流するのは、ベア、コニ、エアリだけど、本当はベア、コニ、ハロウという3人が仲よしだという設定なんです。ユートピアで住んでいる地区も近くで、ルーティンで行ういろんな仕事も一緒にしてて。で、エアリは別の地区にいて、全然仲よくなくて、むしろベアのことを迫害しているグループにいて。実はシナリオも、完成の直前まで、まみ、ベア、コニ、ハロウの4人で行動するものを書いていたので、最初からめちゃくちゃ仲がいいんですよ。それがあんまり面白くなくて、それでひとり敵みたいなキャラクターを入れたんですよね。エアリもひとりで行動するほど度胸がないので、文句言いながらついてくるみたいな状態で。

――エアリがすごく活躍して。ラストは泣かされました。

伊藤　そうですね、この映画の中でいちばん変わるのがエアリなんです。彼がいちばんユートピア人っぽくて、その人の常識が最後にひっくり返されるのというのは重要なところですね。