瀬川 浩志 (監督)
映画『たまゆらのマリ子』について【1/5】
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2018年12月1日(土)~12月14日(金)、池袋シネマロサにて公開終了
刺激的なインディペンデント映画の紹介に力を入れる池袋シネマ・ロサにて、この12月、「新人監督特集 vol.2」が開催されている。先陣を切って12月1日~14日に上映されたのは、2017年のレインダンス映画祭コンペティション部門にも選出された瀬川浩志監督の『たまゆらのマリ子』。家庭にも職場にも居場所を見出せず、ストレスをため込む主婦のマリ子が、妄執に取り憑かれついに暴走するさまを、悪夢的なリアリティとハイテンションな演技で見せる痛快エンターテインメントである。取材中に「お気づきかもしれませんが、僕は天然なところがあって……」という発言もあったのだが、瀬川監督は、あまり計算することなく直感で映画作りに臨んだところが大きいようだ。それでも文句なしの鋭さと面白さを持つ作品に仕上がり、伸びしろある瀬川浩志監督のこれからにも期待が膨らんだ。そんな原石のような輝きを持つ『たまゆらのマリ子』、このたびの上映で見逃してしまった方にもまたの機会が訪れることを願いながら、瀬川監督へのインタビューをお届けする。 (取材:深谷直子)
STORY 平凡な主婦マリ子に訪れた最悪の一日。加速する悪意と欲望に蝕まれ、彼女の日常は静かに壊れていく……。 結婚 6 年目の主婦、マリ子( 牛尾千聖)は日々不満を募らせていた。夫、智晴(山科圭太)とは言い争い が絶えず家庭内別居状態。職場のバッティングセンターでは店長、鱈目(三浦英)の横暴や後輩みはる(後藤ひかり)の奔放な言動に 振り回される毎日。家に帰りたくないマリ子は、 OL 時代の友人、まどか(根岸絵美)を頼るが、そのまどかからも見放され逃げ場を失っていく。追い詰められたマリ子は、ある妄執に支配されるようになり次第に現実でも常軌を逸した行動を取り始めるようになる……。
――『たまゆらのマリ子』は鬱屈をため込んだ主婦の暴走を描いた物語ですが、どんなところから着想したんですか?
瀬川 僕がこの作品を最初に考えたのは今から4年前ぐらい、上京して10年ぐらい経ったころです。地方から出てきて最初のうちは、東京での生活は刺激的で楽しいものでした。映画や演劇を観たり、音楽を聴いたり、いろんな人と出会ったり。でも10年目ぐらいに、どういうタイミングかわからないんですけど、都会の人間関係のギスギスした嫌な面が目につくようになってきたんです。一見人当たりのいい人が、人の目の届かないところでイライラした感情をむき出しにしていたりとか、表と裏を使い分けているのを目の当たりにして、僕が勝手にショックを受けただけなんですけど、他人の負の感情をもらってつらくなってしまって。でも、じゃあ僕は誠実に生きてきたのか?というとそうでもなくて、結構僕も自分が傷つかないように色々使い分けてきたんですよね。そうしてため込んで自分の言いたいことを言えなかったり、人が言ってくれないことにイライラしていた気がします。そういうことが僕の場合は表現のエネルギーにつながることが多く、それで作ってみようと思ったのが最初のきっかけだと思います。
――監督は京都のご出身ですよね。で、映画美学校を修了されているんですが、上京は美学校に入るタイミングでされたんですか?
瀬川 はい。京都の大学を卒業して、自主映画を作っていたんですけど、もう少し大きなところでやりたいと思って上京して映画美学校に入りました。
――映画美学校の修了後はどんなことをされていたんですか?
瀬川 派遣社員として映像とは関係のない仕事をしながら自主映画を作っていました。
――そういう生活を送っているうちに、人間関係の嫌な部分が気になるようになっていったと。
瀬川 そうですね。派遣社員時代に、某ハイブランドのショップでレジの仕事をしていたことがあるんですよ。接客はしないんですけど、プライベートでは行ったことのない店で、普段絶対に接することのないお金持ちとか、芸能人とか、怖い方とかが来て。映画を作っているのでもともと人間観察は好きだったんですけど、そこでさらに人間観察力が養われたなと思います。店員さんも個性的だし、面白そうな職場だなと思ってはいたんですが、予想以上でした。創作と関係することとしてはそういうのもありましたね。
――前作の『焦げ女、嗤う』(11)に引き続き女性が主人公ですが、女性目線で映画を撮ることには何か理由があるのでしょうか?
瀬川 意識的に女性を描こうという感じじゃなくて、いつも書き始めると自然にそうなってしまっている感じですね。あまり男性で描きたいと思ったことがないです。なぜそうなのかは自分でもよくわからないんですけど、あえて言うなら、男性の欲望って自分が男だから理解できるけど、女性の欲望だとか満たされないという気持ちって、性的なものも含めて未知のもので、わからないから描いてみたいという気持ちがあるのかなあとは思いますね。あとは妹がいるので、まったく女性に関わりがなかったということはなく、存在としてはわりと近くにいたので、それもあるかもしれないです。
――滑稽さとシリアスさの入り混じり具合が絶妙ですが、脚本を書く上でのポイントは?
瀬川 僕にはちょっと天邪鬼なところがあって、「お客さんを裏切りたい」という気持ちがありますね。特にインディーズ映画って、展開にも描写にも「まあこれぐらいできたら上等だよね」とか思われているラインがあると思うんですけど、そこを上回っていきたいという意欲があります。
出演: 牛尾千聖 山科圭太 三浦英 後藤ひかり 加藤智子 福原舞弓 根岸絵美 西尾佳織 高橋瞳天 柳谷一成
監督・脚本・編集:瀬川浩志
撮影・照明:星野洋行 録音: 川口陽一、間野翼 制作:藤岡晋介 助監督:滝野弘仁
ヘアメイク:岡野展英、北野澤なおゆき 音楽: 中川だいじろー 整音:日暮謙 カラリスト:今西正樹
特殊造型: 相蘇敬介(株式会社リンクファクトリー)
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