インタビュー
園子温監督

園子温(映画監督)

  • 「紀子の食卓」:あなたはあなたの関係者ですか?

K'sシネマにて絶賛上映中

公式サイト:http://www.noriko-movie.com/

園子温(映画監督) 1961年生まれ、愛知県豊川市出身。 17歳のとき詩人としてデビューし、1987年に「男の花道」で、ぴあフィルムフェスティバル(PFF)のグランプリを受賞。代表作には、 海外での評価が高い「自殺サークル」などがある。最近は、テレビ朝日系列の金曜ナイトドラマの「時効警察」 の第4話及び第6話に脚本と演出で参加する。「奇妙なサーカス」はカナダのファンタジア国際ジャンル映画祭で作品賞受賞、「紀子の食卓」 はカルロヴィヴァリ国際フィルムフェスティバル特別表彰及びFICC受賞、プチョン国際ファンタスティック映画祭観客賞& 主演女優賞受賞などと国際的な評価も獲得。今後の作品には、東映で栗山千明と大杉漣が主演のホラー「エクステ」 などの意欲作が続々控えている。

カルロヴィヴァリ国際フィルムフェスティバル特別表彰及びFICC受賞、プチョン国際ファンタスティック映画祭観客賞& 主演女優賞受賞など海外の映画祭でも話題の「紀子の食卓」が遂に公開される。製作から時間が経っているが、 時間の経過と共にますます凄味を増している、この傑作をスクリーンで見逃さないでほしい。

 

――社会的な事象も扱った映画ながら、よい意味で園監督自身の一歩引いた目線が印象的でした。社会的なテーマを扱いながらも、 監督自身の声が直接的に強く聞こえるようにはしていないところが、とてもよかったです。

 レンタル家族を扱ったことで、どうしても、 すごく真面目というか社会的な質問が多いですが、そこは心掛けたところでもあります。自分は出していないですね。

――それは意識的だったのでしょうか?

園子温監督4 いつのまにか意識にもあがらなくなってしまったという感じですね。 「自殺サークル」の辺りは意識的に自分を消していました。その後は、映画に自分自身の声を出すのはなくなっていった、 忘れるほどになっていたという感じです。『等身大映画』と言われる作品が日本には多いのですが、 PFFの作品をこの間観たときにも、それは感じました。身の回りの半径数メートルぐらいのことしか描かないというか。 そういう等身大の自分の声が強く聞こえてくるような映画を作るのはやめようと思ったんです。

――園さんの初期の作品の「俺は園子温だ!」(85)や「自転車吐息」(90) も等身大というか自分のことを描いていながら、 「一点突破」の意志のようなものが感じられるのが違いますよね。

 そうですね。ただ、 PFFで「男の花道」(87)が上映されたときに、「ゆきゆきて、神軍」などの原一男監督から、 平野勝之監督と共に呼ばれて飲みに行ったときに『君たちの作品は等身大だね』とは言われたことはあるのですが(笑)。そのときは、 まるごと等身大の生活をしていたので、よく分からなかったのですが、その後に言わんとしていることは分かりましたね。

――自然に社会性が作品に入り込んできたということでしょうか?

 そうですね。 無理に入れているわけでじゃなくて、生きていて感じていることが作品に入り込んできたということです。 日本映画ほど社会性がない映画も世界的に珍しいかもしれないですね。いつの時代の映画なのか分からない。また、気付かれにくいのですが 「紀子の食卓」は作ったときは、女性主演の作品をあまり撮ったことがなかったんです。「奇妙なサーカス」 が先にあると思う人もいるかもしれないですが、製作順に公開されていないので、分かりづらい面もありますが「HAZARD」、 「夢の中へ」、「ノーパンツ・ガールズ~Movie Box-ing2~」、「紀子の食卓」、「奇妙なサーカス」、「気球クラブ、 その後」、「エクステ」の製作の順番なんです。「ノーパンツ・ガールズ~Movie Box-ing2~」 は及川奈央が主演でブルマーでウロウロする作品なんですが(笑)、この作品が女性主演作品を撮る練習になりましたね。 他にも2003年に撮ったアイドルのイメージ作品の「夏川純・吉沢萌/バーチャルラブ」、「水谷さくら/ファインダーの女」、 「三津谷葉子/ノーメモリーウーマン」も習作だったのかもしれないですね。

――三津谷葉子は「紀子の食卓」にも出ていましたね。「紀子の食卓」では、複数の人物のナレーションを使っています。 作品の内容は違いますが、スコセッシの「カジノ」(95)の複数の人物のナレーションを想起しました。

園子温監督3 あるときから、 重層的なナレーションを使うことにしたんです。『この気持ち、分かるでしょう?』ではなくて、どんどん喋る。 右脳で観る映画というより左脳で観る映画にしてしまおうかと思ったんです。映画は、 芝居や表情から考えていることを読み取るものだと思うんです。例えば、アンゲロプロスの作品の長回しなどは、とても映画的で、 そのようなことが該当しますよね。ただ、日本人の監督で、アンゲロプロスの作品と同じようなことをしている監督もいますが、 やはり現在の日本人が内面に抱えるものや風景、建物が違うので同じようにはならないんです。 この映画ではナレーションを全編に使うことで『わたしはこう思った』とずばり提示したかったんです。 右脳で観る映画というより左脳で観る映画にしたいというのは、いちいち感情を数学的に台詞に置き換えるのではなくて、 会話の合間合間の登場人物が話していないシーンでも『こう考えた』とさせたかったんです。 混沌としながらもリアルさを表現するというか。

――その「意識の流れ」を言葉にして全編のナレーションとして入れるということは、後から考えたのではなくて、 撮影前から考えていたことなのでしょうか?

 そうです。 脚本にありましたね。少々の変更はあったかもしれないですが、脚本にありました。 撮影が全部クランクアップしたときに役者にすぐにナレーション録りをしたんです。

――映画秘宝」のインタビューでは吹石一恵さんは「撮影後だいぶ経ってからナレーション録りをして、 紀子にもどるのに時間がかかった」と言っていますが、現場ですぐにナレーション録りしたのでしょうか?

 現場ですぐにしました。 そこは彼女の思い違いだったかもしれないですね。後日、スタジオでも録音しましたが、 バックのノイズなどで使えないなどの技術的なものを除いて、クランクアップしたときにすぐにナレーション録りをしたものを、 映画では多く使っています。

――ナレーションで「○○はこう思っているのだろう。などのように、相手に問いかけるように話していながら、 実は話し手は自分自身に話しかけています。「あなたはあなたの関係者ですか?。という印象的かつキーになるような台詞がありますが、 自分自身を確かめるために、どのキャラクターも行動します。

 どういう人物を描くかということもあるのですが、 確固たる人物よりも曖昧に揺れている人物を描くのが好きなんだと思います。そういう人たち自体が好きですし、 自分に近いのと感じるのかもしれないですね。

――さっきの「一点突破」という概念にも絡めて言うと、この映画は問題が解決しておしまいではなくて、その後を描いています。

 突破して、 そこまでいったら羨ましいだろうな、という人物を見たいなというのはありますね。だから、 最後で妹のユカがどのようになるかを描きました。

――このようなプロットで海外の作品だったら、父親がもっと悪人で娘に近親相姦していたり、 つぐみ演じるレンタル家族の経営者の「上野駅54」のキャラクターも悪の要素を入れて描かれるだろうなと思いましたが、 その点はいかがですか?

 全員が人間的に善人でないと現代の日本を描くのは無理なんですね。 社会的には悪かもしれないですが、悪人ではないんです。

――キリスト教の原罪意識のようなものはいらないということでしょうか?

園子温監督2 そうですね。 そういう明確な理由を持たせると日本を描けない。神のない国ですし、自分自身を見失っているんですから。だから、 アル中や不倫なども含めて、そういう事象を除外していったんです。近親相姦に関しては「奇妙なサーカス」で描きましたが、 近親相姦を入れると、そこに理由付けされて観客の目が行ってしまう。それは避けたかったんです。 シンプルにして観やすくするというか観やすくなるということです。

――今回、多用な演出が印象的なのですが、今までのアイドルのイメージ作品なども含めた経歴が生かされているのでしょうか?

 あまりそこは意識していなかったですが、 この作品からキャラクターを愛してみようとしたんです。さっき話したように、それまで男性が主人公の映画を撮ってきて、 女性を撮るのは難しいかなとも思っていました。男性だったら、一緒に酒飲んだりして心に入っていけたりできるけど、 女性はどうしようかなと思ったときにキャラクターを愛してみようと決めたんです。紀子(吹石一恵)、ユカ(古高由里子)、上野駅54 (つぐみ)の3人のキャラクターを愛することで、どう撮るかが見えてきたんですね。大林監督みたいなことを言っていますが(笑)、 それが大きかったですね。『こう撮ってあげよう』という意識が出てきたんです。

――紀子の母親が父親に介抱されながらも、雨の中を埠頭で崩れ落ちるシーンが印象的ですが、 あのシーンなどもそういう意識で撮ったのでしょうか?

 撮ったのがかなり前なのと、 その後にいくつも作品を撮っているので、はっきりとしないところもありますが、あのシーンだけが、 おそらく脚本になく撮ったシーンだと思います。

――窓辺の逆光の少女たちのような回想的なシーンが他にもありますが、あの母親のシーンのみ、 説明的な回想シーンだと思ったのは、そういうこともあったんですね。

 そうですね。 あのシーンもそうですし、全編のナレーションの多用もですが、過剰に説明して『何が説明的か』、『何が説明的じゃないか』 などを超越したかったんです。感情を過剰に網羅することで『観て感じてほしい』という意識が強くありました。 若い頃の自分の映画の美学のようなものを全部一回、白紙にしようとも思ったんです。「部屋 THE ROOM」 (93)あたりに出ていたかもしれない、大好きな相米監督やアンゲロプロス監督の作品のようなものから離れてゼロから作ってみました」

――園監督は事前に絵コンテを書いたりの準備はするのでしょうか?

 絵コンテは書かないですね。 本読みを念入りにやります。事前にも本読みをやったうえで、現場でも本読みや立ち稽古を重視してやりますね。

――過剰で挑発的な面もある作品ながら、本能的に作っていることが心に響くことになっていると思います。本能的、 すなわち本能が感じるままに忠実に作ることは、映画ではとても大事なことだと思います。

 そうですね。 それは大事なことですから、自分に嘘はつかないように撮っています。うまく撮るよりも、嘘はつかない、 すなわち正直に撮ることを心掛けています。

――今日はありがとうございました。次回作の「エクステ」は、本格的ホラーとのことで、かなり楽しみにしています。

 大杉漣さんは『今までに出た作品のトップ5に入った』と言ってくれました。かなり暴走していますので(笑)、是非楽しみにしていてください。

取材/文:わたなべりんたろう

作品紹介ページ
作品評: 「お前自身であれ!」/膳場岳人
公式サイト:http://www.noriko-movie.com/

紀子の食卓 2005年 日本
原作・脚本・監督:園子温
出演:吹石一恵,つぐみ,吉高由里子,並樹史朗,宮田早苗
三津谷葉子,安藤玉恵,渡辺奈緒子,季鐘浩,古屋兎丸
手塚とおる,光石研 他
9月23日より K'sシネマにて絶賛上映中

2006/09/26/13:41 | トラックバック (0)
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