映画『ヒア アフター』公開によせて
黒沢清監督にイーストウッドのことを聞く
2011年2月19日(土)より、丸の内ピカデリー他全国ロードショー
クリント・イーストウッド監督の『ヒアアフター』が公開されるにあたって、イーストウッド映画のことを一度じっくり聞きたいと思っていた黒沢清監督にお話をうかがった。イーストウッド好きとして知られる黒沢監督だが、スピルバーグ作品やデジタル撮影に関してまで話しが及び、興味深い内容になった。イーストウッド作品が好きな宮地昌幸監督にも同席していただき、協力いただいた。黒沢監督、宮地監督共に忙しい中をありがとうございました。 (わたなべりんたろう)
わたなべりんたろう(以下、わたなべ) 今脚本を書かれている物も原作があるのですか?
黒沢清(以下、黒沢) あるのもないのもありますが、今の日本映画は当然のように原作がないと企画が通らないので、原作あるものが多いです。
わたなべ 去年、青山真治さんも原作がある新作『東京公園』を撮りました。
黒沢 そうみたいですね。すくなくとも今の日本で映画を撮ろうとするとどんな人でも企画を通すにはある種の原作なりなにかがないと無理ですね。そこから唯一免れているのは北野武さんくらいじゃないでしょうか。アニメだと状況が違うのかもしれませんが、実写だと北野武さん以外は、自主制作は別ですが、きちんとした予算を出すには厳しいと思います。
宮地昌幸(以下、宮地) アニメは基本的にお金が掛かり、劇場アニメは〝大作扱い〟になります。その為、沢山のお金を集める為に製作委員会システムが必要になり、原作モノの方が何かと都合がいい、という事なのだと思います。全面に作家性を出したアニメを作りたいとなると、必然的に自主制作になってしまいます。
黒沢 原作というのはマンガなのですか?
宮地 漫画とアニメは親和性が高いので、必然的にそうなる傾向が強いです。企画書を作る時にその漫画の絵を使用できるので、らしくなりますし。
わたなべ 『サマー・ウォーズ』の場合はどうだったのでしょう?
宮地 詳しくは判りませんが……細田守監督がその前の『時をかける少女』をしっかりと成功させて、その堅実な実績の上での新たな挑戦だったのではないでしょうか? 実写と同じく、すぐにオリジナル作品を作る事はできないと思います。
わたなべ 大ヒットがあればチャンスがあると。
宮地 そういうチャンスもあるでしょうけれど……ショーレースにのってしまうと二回目はもっと当てないといけない。大変だと思います。
わたなべ 大ヒット出して、次にオリジナルやっても二回目はない?
宮地 前作よりヒットする事が前提となってしまうので、どんどんとハードルが上がるシンドさがあるのでしょうね。他にオリジナル作品を作れているのは、ジブリさん以外には見ないですし。
わたなべ 自分も映画関連の忘年会に年末にいくつか出たら、とにかく企画が通らないとういう話をよく聞きました。製作会社が潰れたとか、社長が代わって通っていたはずの企画がだめになったとか……アメリカでもやっぱりイーストウッドは特殊ですよね。
黒沢 そうですね。そのへん僕もアメリカの事情はよく分らないんですが、恐らく自由にやれるのは思った程お金がかかってないのかもしれません。津波のシーンは半端じゃないと思いますがそれ以外はお金はあまりかかっているようには見えない日常のシーンがメインで。
わたなべ 淡々と日常があって特に何かあるわけじゃない。
黒沢 撮るのがメチャクチャ早いというのも含めて、仕上げにCG合成など時間をかけるのでしょうけれど、そんなにお金がかからないよ……といっても日本とは比べ物になりませんが、というところでやれているのだろうと思います。
わたなべ ところで最近、ソダーバーグが監督引退宣言をしたのご存知でしたか?
黒沢 そうなんですか、知りません。
わたなべ マット・デイモンが言ったことが発端で。
黒沢 どういう理由ですか。
わたなべ ソダーバーグはその時に、イーストウッドを引き合いにだして、彼みたいに色んな物を撮れないで、スタイル主義者の様なところがあるので、そういうタイプの自分のような監督はいつまでも続けられないということを言ったそうです。
黒沢 ソダーバーグにはあまり思い入れがないので勝手にすればという感じですが(笑)イーストウッドを引きあいに出すというのは怪しいですね。
わたなべ 本当かどうかはわかりませんが、納得出来る感じはします。ソダーバーグはある型なりジャンルなりがあって、そこを角度を変えて撮るタイプではあるので。イーストウッッドは撮りたいものをただ撮っているようなところがあるので。
黒沢 イーストウッドはあまりに特殊なので、単純なファンとして楽しむ事はできますが、撮る側からすれば、彼とは違うところで撮っていると思わないと、下手すると作り手は引退に追い込まれる可能性がありますよ。自分が撮っているものと別次元の物だと考えています。
わたなべ アメリカの象徴のように言われていますが、完全にアウトサイダーですものね。
黒沢 そうですね。
わたなべ テレビドラマ『ローハイド』からマカロニウェスタンを経て、今に至る経過が伝説のようになっているのかもしれませんが。
黒沢 アメリカではどれだけの人が彼の俳優としての映画史的な側面を外して、純粋に監督としてのみイーストウッドの監督作品見ているのでしょうかね。若い人などはどうなんでしょう。ですから同じ俳優出身で経歴があるといえば、ロン・ハワードですよね。それこそジョン・ウェインと共演してますよね。それから多分フライシャーとかにも出ているのかな。そういう意味ではイーストウッドとは違いますが。
わたなべ ロン・ハワードはアメリカでは評価が高いですが、日本では商業監督扱いです。イーストウッドの得意分野と思われている西部劇ですとロン・ハワードは『ミッシング』がありますね。
黒沢 それは見ていないですが、子役時代の経歴と切り離されたところでの一人の監督として良い悪いという評価を受けているかどうか。
わたなべ イーストウッドもロン・ハワードとも繋がっていますね。『チェンジリング』はもともとロン・ハワードのプロダクションがあたためていた企画でイーストウッドに撮らせたほうがいいんじゃないかという話しが出た。
黒沢 イーストウッドはまた自分が出ますからね。ロン・ハワードは出ません。
わたなべ 確かにそうですね。ロン・ハワードもテーマは似ているかもしれませんね。基本的にアメリカをテーマにしていて、最近だと『フロスト×ニクソン』があります。でも『ダヴィンチ・コード』なんかをやっているのは賢いですよね。
黒沢 『ダヴィンチ・コード』……そうですよね。
構成:わたなべりんたろう 協力:宮地昌幸、書き起こし/小泉宗仁 1/14収録
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