SAFE/セイフ
海外、特にイギリスでの評価の高さから気になっていた映画だが、観てすぐに分かった。ジェイソン・ステイサム映画(ファンはステイサムービーとも呼ぶ)を前提にしているだけでなく、さまざまなアクション映画を踏まえて作った「賢くも皮肉な、だが一見すると正統に見える」趣向の映画だったからだ。こういう趣向の映画はイギリスの音楽に顕著なようにイギリス人好みであるし、こちらも大好きだ。
いくつか例を挙げると、映画のステイサムは代表作「トランスポーター」シリーズのようにありえないほど無敵であるが、この映画では真逆でまず弱々しく力を発揮しないでやられっぱなしである。自分のミスから妻を死に追いやり、そのミスをとがめるロシアマフィアから究極の地獄を味あわせるために話しをしただけの者が殺されるようになったからだ。もともとは屈強な主人公が厭世的になり弱々しいのはアクション映画の傑作「ラスト・ボーイスカウト」と同じ設定だ。観ている側は、いつ無敵のステイサムになるか待ち望むわけだがためてためてステイサムはいつもの無敵ぶりを発揮するようになる。しかも90分強の映画できちんと3幕ものに構成されていて、1幕で弱々しさが終了する見事な構成である。
さまざまなアクション映画を踏まえて作った例では他にもレストランでのアクションシークエンスで高いところから落下して敵の身体を防御にして助かるのは「ボーン・アイデンティティ」だし、警察がマフィアの金を集団で襲撃するのは「トレーニング・デイ」の変形である。
編集も斬新で地下ボクサーをやっているステイサムがゴングが鳴ってリングに出て試合が始まると見せかけて控え室で殺してしまった対戦相手の遺族に殴られるや、車でのアクションシークエンスはサイドミラーやバックミラーに映る描写でほぼ展開させたりする。この「分かっている」映画を脚本/監督したのはボアズ・イェーキン。一般的にはブラッカイマー製作のディズニーの青春スポーツ映画「タイタンズを忘れない」で知られるだろうが、サンダンス映画祭受賞作のデビュー作「フレッシュ」は脚本の素晴らしさが際立つ
ブラックムービーかつ「レザボアドッグス」以降もうかがわせるひねりのきいたノワールものだった。最近は「プリンス・オブ・ペルシャ」の脚本や「ホステル」シリーズのプロデュースなど(社会派ドキュメンタリーもプロデュース/監督))手堅くやっていたが本作で才人監督として戻ってきて実に嬉しい限りだ。
今作のプロデューサーのローレンス・ベンダーはタランティーノの右腕でもあるプロデューサーだが、イェーキンのデビュー作「フレッシュ」以降の付き合いである。編集は「96時間」のフレデリック・トラヴァルで、「96時間」の編集を見て起用されている。実際、「96時間」のソリッドな編集は素晴らしかった。音楽はウェス・アンダーソン作品で知られるディーヴォのマーク・マザースボウなのにも注目。アクション映画に起用されるのは珍しいが見事なスコアを提供している。
気の利いたダイアログもイェーキンらしく、タイトルの意味が分かる最後まで絶好調である。皮肉なユーモアと斬新なアクションを是非スクリーンで体験してほしい逸品である。
(2012.10.11)
監督:ボアズ・イェーキン 製作:ローレンス・ベンダー、デイナ・ブルネッティ
製作総指揮:スチュアート・フォード、ブライアン・カバナー=ジョーンズ、ケビン・スペイシー、ディーパック・ナヤール
脚本:ボアズ・イェーキン 撮影:ステファン・チャプスキー
出演:ジェイソン・ステイサム,キャサリン・チャン,ジェームズ・ホン,クリス・サランドン,ジョセフ・シコラ
配給:ブロードメディア・スタジオ、ポニーキャニオン ©2011 Safe Productions,LLC All Rights Reserved
2011年10月13日(土)より、新宿ピカデリー他全国ロードショー
- 監督:ルイ・レテリエ、コリー・ユン
- 出演:スー・チー, マット・シュル, ジェイソン・ステイサム
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- 監督:イーライ・ロス
- 出演:ジェイ・ヘルナンデス, デレク・リチャードソン, エイゾール・グジョンソン, 三池崇史(特別出演)
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