『ひと夏のファンタジア』
チャン・ゴンジェ監督 × 真利子哲也監督 × 康すおんさん
トークショーレポート【3/4】(取材:深谷直子)
(康すおんさんが登壇)
康すおん真利子 僕は1回目に観たときに康さんが出ていることに気付かなかったんです。あまりに融け込んでいるので。役作りはどのように行ったのでしょうか?
康 今回は役者ではなく一般の方と一緒に演じることが多くて、やりたかったのは、観終わったときに「この人だったんだ」と思われるような存在の仕方をしたく、そこだけが勝負かなと思っていました。どこまでできたのかは分からないけど、それがこの映画で自分が取り組んだことです。
真利子 それは監督の意図でもあったのでしょうか?
康 最初にお話をしたときに監督からそう説明されました。
チャン 康すおんさんは現場で一人でいらっしゃることが多かったですね。五條の町で、お店に立ち寄っては五條の人が何をどんなふうに話しているのかなどを研究していらしたということをあとから聞きました。そのために現場で時間的にあまり接することができなかったのは残念に思いますが。
真利子 監督がそういう演出をする方だということはどの段階で気付かれたんですか?
康 撮影の2週間前にオファーをいただいて、河瀬直美監督がプロデューサーだというのがすごく嬉しかったのですが、その段階で何となくこういう方向かな?というイメージは見えていました。
真利子 脚本には台詞はなかったのでしょうか?
康 脚本というよりもあらすじだけで、カッチリ決められた台詞というのはなかったです。現場で演じながら監督と広げたり狭めたりという作業をしていきました。与えられたシチュエーションでの即興です。
真利子 仕上がった映画を観た印象は?
康 僕のお母さん役のおばあちゃんと交流できた感じがあります。撮影前に1回おばあさんに会いに行って2時間ぐらい喋って、どれぐらい信頼関係を作れるかと思っていました。映画の中で、テフン監督役のイム・ヒョンゴクさんが「握手をしたい」と言うときに、おばあさんが何を言われているのか分からなくて僕を頼ってくれたんです。あの瞬間はお母さんと子供の関係だったと思います。「あれでよかったんだな」と思いました。
真利子 監督が康さんをキャスティングした理由は?
チャン 撮影前に康さんの出演作を観ることはできなかったのですが、河瀬監督から康さん含めた役者さんのプロフィールをもらって見たときに、康さんがいちばんナチュラルな印象を受けました。また康さんが在日韓国人だということもお聞きし、とても自然に交流ができるのではないかと思ったのでお願いしました。
真利子 撮影は長回しでしたか?
康 おばあさんとのシーンは30分長回しで、何があっても回しているという状況で(苦笑)。
チャン 息を殺して見ていました(笑)。俳優の方には申し訳ないですし、監督として無責任だとも思うのですが。この映画は性格上そうするしかなかったところもありますので、その中で耐えて応えていただけたことはありがたいことですし、申し訳ないことでもあります。
康 怖いですよね、長回しというのは。どこでズレてしまうか、何が起こるか分からない怖さがあります。でも面白かったです。