ジャン・デュジャルダン (俳優)
公式インタビュー
映画『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲(プレリュード)』について【1/2】
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2016年9月3日(土)より、Bunkamuraル・シネマほかにてロードショー!
Q: ある出会い
ジャン・デュジャルダン(以下JD) クロード・ルルーシュは、僕が監督というキャリアに期待するものをすべて兼ね備えている。彼は頭が柔らかく複合的な発想ができる人間で、俳優に裁量を与え、自由な演技や台詞の変更もいとわない。映画製作で私が好きなところは、クルーたちとそういう環境で2~3か月過ごせることだ。クロードもそんな環境が好きなんだよ。彼は映画製作を楽しんでいて、毎日のように自分の脚本に手を入れるんだ。
彼が「(カメラを)回せ」、「アクション」、「カット」と叫んだのを聞いたことがない。ロケ移動やアイデアについて、撮影などでも独善的ではなかった。そして、このアイデアというのは、映画で僕らが常に求めているものを見つけるために没頭することだ。つまり、なりふり構わなくなるということだ。今まで不可能だと思っていたことをやらなければならない。準備してきたもの、想定していたもの、押し殺していたものを放り投げてね。限界だなんて気づく暇はないんだ。だって、もう始まっているんだからね。
このプロジェクトは、いろいろなことが素早く結びついたんだ。3人が会った時、エルザと僕にはやりたい明確なアイデアがあった。僕らの頭にあったのはクロードの作品『あの愛をふたたび』(70)の冒険版ラブストーリーで、地球の反対側で撮影するというものだった。するとクロードが、こんなアイデアを出してきた。「君はアントワーヌ・アベラールという作曲家で、エルザは外交官の妻だ」とね。これでポーン(チェスの駒)はセットされた。インドが舞台という最高のアイデアも出てきた。旅は恋愛を育てるという、まさにクロードの世界だ。そこが彼の映画の好きなところだ。独自で組み立てていき、皮肉を加えない。彼の映画はロマンチックでおかしくて、不合理で残酷だ。人生と似ている。クロード・ルルーシュと2人のキャラクターとインド…、もう映画は完成したようなものだ。何でも可能だったんだ。
Q: 接近するのを避ける
JD インドについては何も知らなかったが、それが良かった。僕は何の先入観も持たずに、文化的なギャップを経験したかったんだけど、それは空港に降りた途端、始まったよ。僕は何の疑問も抱かずに映画とキャラクターに取り組みたかったんだ。僕の世間的イメージや人がどう思うかとか、自分はどうすべきで、どうすべきではないのかというようなことを考えるのを毎日、払拭しようとした。熟考は俳優にとって悪なんだ。クロードとの仕事は、僕にとっていいことずくめだったんだ。
僕は短いキャリアの中で素晴らしい経験をしてきたが、今回のようなやり方で演じたことがなかったので、感慨深いよ。あそこまで自分を解放したことがかなった。こんな映画は、後にも先にもないだろうね。
Q: 不可能なことに向かうことから離れて
JD 実は僕の役柄は、まったく固まっていなくて、よく練られてもいなかったが、僕らは女性にも男性にも楽しめる映画を作りたかった。異国の地でいろんな出来事に遭遇したり、また引き起こしたりして、それに対して誰もが示す反応を描きたかった。クロードは型にはまっていないものが好きで、突発的な出来事や予期せぬことを好む。エルザもそうだ。彼女は時として非常に真面目に考えたり、自分の役柄になり切ることができる。彼女を見ていると笑っちゃうんだよ。彼女は知性的で気さくで、教養があって、機転も効く。僕らは仕事をしている間は1日中、甘やかされた悪ガキのようにふるまうようにしていた。楽しみながら、リスクを冒そうって決めたんだ。その結果、毎日がワークショップか実験的な演劇みたいだった。
僕は役を作り込むことはしない。どんなプロジェクトでも多少の違いはあるけれど、あんな自由な感覚、馬鹿なことを言えるという特別な楽しさは、しばらくぶりだった。何かが降りてきたような感覚で、クロードが喜ぶものだから彼を笑わせることだけを考えていた。するとエルザから機転を利かせた反応が返ってくる。そんなやり取りが続くんだ。一番最初の大使館のシーン以来、すぐにクロードは僕らのこのやり方を継続すべきだと気づいてくれたんだ。古典的な初対面のシーンだが、予想外の出来事と余談で僕らは親しくなる。僕のキャラクターは無頓着な人間だから、思い切って好き勝手にやれた。その相手としてエルザは、最高のパートナーだった。驚くようなシーンが生まれた。30分のディナーを即興で演じた時、誰もがそれぞれの人生を自由に演じた。どれもがつじつまが合っていて、みんなが行儀よく演じたんだが楽しんでいた。あれは驚きだったよ。
この映画のお陰で、大勢の中の1人に戻れ、楽しんで演じることができた。クロードは僕の重荷を取り除いてくれたんだ。僕は『アーティスト』で、アカデミー賞を受賞して神経過敏になっていたからね。プレッシャーと期待が大きすぎて、演じて楽しむという僕が一番好きな映画の世界から距離を置いていたんだ。クロードとの仕事は、コメディグループの仲間とコントを書いたり、演じていた時のような感じだった。あの時より僕はのめり込んだ。どの映画よりも自分らしいと感じた。もう人が自分をどう思うかなんて考えなかった。役柄だけに集中して演じた。それだけしか考えないでいいなんて、すごく楽なんだよ。気ままにやれる喜びを再認識できた。この映画は僕が俳優としてすべきことに引き戻してくれたんだ。
監督・原案・脚本:クロード・ルルーシュ(『男と女』『愛と哀しみのボレロ』)
脚本協力:ヴァレリー・ペラン 音楽:フランシス・レイ(『男と女』『愛と哀しみのボレロ』)
出演:ジャン・デュジャルダン、エルザ・ジルベルスタイン、クリストファー・ランバート、アリス・ポル
2015年/フランス/シネスコ/5.1ch デジタル/114分/原題UN+UNE/字幕翻訳:松浦美奈
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本 配給:ファントム・フィルム
©2015 Les Films 13 - Davis Films - JD Prod - France 2 Cinema
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