伊藤 洋三郎 (俳優) 映画『秋の理由』について【2/4】
2016年10月29日(土)より新宿K's cinemaにてロードショーほか全国順次公開
公式サイト 公式twitter (取材:深谷直子)
――俳優さん4人のアンサンブルが見事でしたが、他の3人それぞれと深く接点を持つのは宮本だけですね。
伊藤 そうですね。宮本がハブになって。趣里ちゃんの演じたミクが、演じるのがいちばん大変な役だと思います。想像力を駆使して、声のトーンから考えなきゃいけないんだろうし。他の3人は生活感が出せるから。佐野(和宏)さん演じる村岡は外にほとんど出ないで自分の世界で狂気と闘っていて、寺島(しのぶ)さん演じる美咲は夫婦間のことで悩んでいる。でも趣里ちゃんは何をよりどころにすればいいのか、大変だろうと思いましたね。ただそれを外には全然見せないで、すごくポジティブで素敵でした。
――女性の登場人物が多くて、居心地よい現場のように思いましたが、撮影中の雰囲気はいかがでしたか?
伊藤 居心地よかったですね。こばやし食堂で食べるシーンも本当においしかったので、幸せでしたね(笑)。食い物がいいのは大事ですよね。女性の他のキャストの方々もすごくあったかく、役にまっすぐな人たちで気持ちよかったです。監督も非常にフェミニストというか女性を大事にする人なので。
――美咲との恋愛は、お互いに惹かれ合いながらも男女関係に進んでいけない苦しいものでした。
伊藤 監督が宮本の60歳という年齢にこだわるので、最初は「なんでかな?」と思う部分があったんですが、多分肉体的ではないところの男女の恋愛を描きたかったのかもしれないなって。歳をとることによって通らなければならない道があるじゃないですか? フィジカルが弱ってきて、肌もカサカサだし、でも「好き」だとか言えてしまう。それは若いときは言えなかったことが、残りの人生を考えると言えてしまうのかな?と。正直になるのか、タガが緩むのか、図々しくなるのか、解放されるのか、わからないけどそういういろんなものが入って感情を言ってしまう。でもそれほど深刻な、「奪ってでも」というほどの恋愛話でもないわけで。平和な国の日本らしい、ゆったりとした、でもどこの町にでも1組とか2組とかありそうなことですよね。きっと人間ってそういうものだなあと。だから最初にパッと脚本を読んだときは、ウジウジして全然カッコよくないし、感情移入できないと思ったんですけど、それはきっと最初に僕が「こんなもんですよ」って言ったみたいに、人間ってこんなもので、ウジウジしているんだと思います。とくに男性はこういう人がほとんどですね。