――MeToo運動などでセクハラ問題が議論されることが多くなりましたが、女性は被害者であっても「誘った」とか頭ごなしに叩かれることが多いと感じるんですよね。美穂というキャラクターは男性を振り回してしまう魅力を持っていて、まさに叩かれそうなキャラクターですけど、この映画では美穂の心情も描いていて、どちらも責めないし、人間をちゃんと見ているなと感じました。

佐藤　そういう形にはしたくなかったんですよね。MeTooというのはこれを作った当時はなかったけど、いわゆる普通ではない男女関係と見るとセクハラだ、不倫だ、パワハラだ、とか出てくるわけで、言葉の上で遊ばれてしまうというか。

――関係を持った男性と女性とで合意があったかどうかの言い分が違うというのもよくあることで、美穂と桑田との間にもそれがありますが、実際どうなのかは本人にしかわからないことだなと思いました。

佐藤　そうですね、それは裁判とかで裁けることじゃないし、でもお互い自分がいちばん可愛いから自分を守るために都合良く嘘をつくだろうし。その嘘も最初は可愛い嘘が発端になって、そういうつもりで言ったわけではないんだけどというね。第三者の法月も惚れたがためにある企てを働いたりする。それがひとつの起爆剤になってそれぞれが踊らされてしまったみたいな。

――虚構と現実が入り乱れるというのが佐藤監督の作品にはいつもありますけど、これもそうですよね。誰が本当のことを言っているのかわからない。局部切断についても人によって見え方が違って。

佐藤　誰がいいとか悪いとかいう問題ではなく、どこに真実があるのかと。局部を切っちゃったというのは『華魂』（13）でもちょっとやっているんですよね。それはギャグでやったという部分もあるんだけど。それと昔の阿部定事件。阿部定は切っちゃったあと自分の懐に入れて持ち歩いていて捕まったけど、ああいうふうにはやりたくないというのがあって。阿部定と現代との差異というか、人間の関係性なり、肉体そのものに対する想いだとかいうのを描写したいというのがありました。東京湾を舞台にしたというのも、人間の欲望の掃き溜め、集積場ということで、運河とか海を象徴として描写したかったというのもあったんですよね。浮遊する感覚というか、そのモノがいちばん真実を知っているというか。

――映像もちょっと幻想的ですね。撮影が鈴木一博さんで照明が大久保礼司さんというベテランのお二人で、照明に凝っている気がしました。間接照明というか、人物が火に照らされているようなシーンが結構あって艶かしかったです。

佐藤　それは狙ってやっていますね。場面によって色を統一するようなこともしています。女性は美しく撮らないとね。カメラの裏側で女性を愛でるような感じでやらないと。やっぱり人間も動物なわけで、それは女優も感じるんですよ。オーディションのときからどうやって撮ったらいいかな？と撮影のことを考えています。

――撮影に苦労したシーンはありますか？

佐藤　そんなにはないですね。早朝狙いで徹夜して、マジックアワーっていうんだっけ？　日の出前のいい感じの光を待ったシーンはありますけど。