インタビュー
ウルリヒ・ザイドル監督/『パラダイス3部作:愛/神/希望』

ウルリヒ・ザイドル (監督)
映画『パラダイス3部作:愛/神/希望』について

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2014年2月22日(土)より、ユーロスペースほか全国順次ロードショー

『ドッグ・デイズ』(01)など、暴力的なまでに生々しい表現で社会や人間のつるりとした表層を剥き、物議を醸す作品を発表してきたオーストリアのウルリヒ・ザイドル監督。その新作であり、カンヌ、ヴェネチア、ベルリンの三大映画祭でセンセーションを巻き起こした『パラダイス』3部作が、このほど日本でも一挙上映の機会を得た。平凡な50代の白人女性がビーチ・リゾートで現地青年を漁る『愛』、敬虔なカトリック信者がイエスに近づこうとするあまり肉欲を抱いてしまう『神』、ダイエット・キャンプに参加した少女が年上の医師に恋する『希望』。3人のヒロインのひと夏の出来事をザイドルは冷徹な観察者として描き、長回しのカメラが捉える彼女たちの孤独と幸福への欲望は苦しいほどに胸に迫ってぞくりとさせられた。ドキュメンタリー出身で独自のメソッドを持つザイドル監督にメール・インタビューを行い、リアリズム溢れる作品作りの背景などを伺った。(取材:深谷直子)
ウルリヒ・ザイドル 1952年生まれ。オーストリアのウィーン在住。初期には山形国際ドキュメンタリー映画祭で優秀賞を受賞した『予測された喪失』や『Good News』『Animal Love』『Models』などのドキュメンタリー作品で数々の賞に輝く。ヴェルナ―・ヘルツォークは好きな映画監督10人のうちの1人にザイドルの名を挙げ、『Animal Love』について「私はザイドルほどには地獄の部分を直視していない」と評している。ザイドル初の長編『ドッグ・デイズ』は2001年のヴェネチア国際映画祭で審査員特別賞を受賞。2003年に制作会社Ulrich Seidl Filmproduktionを設立。続く『インポート・エクスポート』が2007年カンヌ国際映画祭コンペティション作品に選出される。4年を費やし制作された「パラダイス三部作」(『パラダイス:愛』『パラダイス:神』『パラダイス:希望』)は、世界三大映画祭であるカンヌ、ヴェネチア、ベルリンのコンペ部門に相次いで選出され、『パラダイス:神』はヴェネチアで2度目の審査員特別賞に輝いた。
『パラダイス3部作:愛』 『パラダイス3部作:愛』場面『パラダイス3部作:愛』
――『パラダイス:愛』は2012年のカンヌ国際映画祭で拝見していました。孤独な中年女性がリゾート地で若い男性を漁る心情を淡々と描いているのが新鮮で、独特の映像美にも魅了されました。3部作が観られる日を心待ちにしていたので、それが日本でも叶ってとても嬉しく思っています。実際に3本観ると、やはり3部作揃ってこそ完成する作品だということが分かりました。合計5時間半という長尺で、野心作と言えると思いますが、どのように作られたのですか?

ザイドル 『パラダイス』は3人の女性についての3つの物語を並行して描く1本の映画としてずっと構想していました。私のいちばんの目的は、撮影した約80時間分にものぼる素材からできる限り最良の編集をすることであり、映画がどれほどの長さになるかというのは問題ではありませんでした。しかし6時間という長大なひとつの作品として納得のいく出来にはできず、編集室で長い時間を過ごして様々なバージョンを試した末に、3本の独立した作品にすることが芸術的にベストな方法だろうという確信が持てたのです。批評家や観客からの3部作への反応はとても大きく、メディアからも注目を受けて、この1年間で多くの国に紹介され続けています。

――タイトルの「パラダイス」という言葉からは、第1部の『愛』で描かれるリゾート地のイメージがまず喚起されると思いますが、そもそもは宗教用語であり、3人の女性のバカンスを描く群像劇のタイトルとしてとてもふさわしいものだと思いました。作品を作る発端として、パラダイスという言葉にインスパイアされたのでしょうか? それともストーリーを作るうちにこの言葉を見付けたのでしょうか?

ザイドル 初めからまさに脚本のタイトルは『パラダイス』でした。おっしゃるとおりこの言葉は聖書に出てくる言葉であり、信者にとっての永遠の生命を意味するものです。 また一方で、私たちはパラダイスという言葉が観光産業の宣伝文句として乱用される言葉であることを知っています。パラダイスとは3部作のいずれでも切望し焦がれる場所となっています。 3人の女性たちは、満たされない欲望と憧憬を叶える場所として、それぞれのパラダイスを探しているのです。

――脚本は奥様のヴェロニカ・フランツさんと共同で書き、さらに準備中や撮影現場で起こったことを取り入れていくという流動的なものだとのことですが、具体的な方法と、そうしたやり方をする理由を教えていただけますか?

ザイドル 私たちが書く脚本は、映画の骨子の部分だけです。 それぞれのシーンは非常に綿密に描写されていますが、台詞は決定したものとしては一切書かれていません。キャストはプロとアマチュア両方の俳優で構成されており、台詞は即興に任せています。 俳優には脚本を渡しません。文章だけで準備をして撮影に臨んでほしくないからです。撮影現場で偶然や運が重なることでより豊かな結果を生み出し、演出の可能性ははるかに広がるのです。

――プロとアマチュア両方の俳優を起用することについて、この役にはアマチュアをキャスティングしようというようなことは最初から決めているのですか?

ウルリヒ・ザイドル監督ザイドル これまでの作品で、私はこと細かに計算して演出するよりも、プロとアマチュアの俳優の相互作用がよりエキサイティングで面白い場面を生み出すのを体験していました。それで『パラダイス:愛』では最初から“シュガーママ”であるテレサはプロの女優に演じてもらい、“ビーチボーイ”たちは一般人から探そうというつもりでいました。一方『神』は(ザイドル作品の常連女優の)マリア・ホーフステッターのために書いた物語でした。その夫のイスラム教徒のエジプト人の役は一般人の方が演じましたが、プロの俳優が演じてもいいと思っていて、この役のキャスティングにはプロとアマ両方の俳優を検討しました。このように規則というものはないのです。 最初からプロとアマチュアのどちらに演じさせるかを決めていることもときにはありますが、関係なく考えることもあります。長いキャスティング・プロセスを辿ったあとに決定しています。

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パラダイス3部作:愛/神/希望
監督:ウルリヒ・ザイドル 2012年/オーストリア・ドイツ・フランス/カラー/1:1.85/DCP
『パラダイス:愛』2012年カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品
(原題PARADISE: Love/120分/出演:マルガレーテ・ティーゼル、ピーター・カズング)
『パラダイス:神』2012年ヴェネチア国際映画祭審査員特別賞
(原題PARADISE: Faith/113分/出演:マリア・ホーフステッター、ナビル・サレー)
『パラダイス:希望』2013年ベルリン国際映画祭コンペティション部門正式出品
(原題:PARADISE: Hope/91分/出演:メラニー・レンツ、ジュセフ・ロレンツ)
提供:キングレコード 配給:ユーロスペース 宣伝:テレザ+ユーロスペース
© Vienna2012 | Ulrich Seidl Film Produktion | Tatfilm | Parisienne de Production | ARTE France Cinema
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2014年2月22日(土)より、ユーロスペースほか全国順次ロードショー

2014/02/23/10:31 | トラックバック (0)
深谷直子 ,インタビュー
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